「社会保障の充実には消費税増税はやむをえない」
「このままでは財政破綻するので消費税増税をご容赦いただきたい」
「消費税の増税は待ったなしだ」
昨今上のように消費税を使って社会保障の安定的な運営をしようと政府や経団連、IMFなどがよく叫んでいますね。
増税というと一般的には嫌がられるものですが、ここのところ政府の努力もあってか社会保障費の増大などがあるため消費税増税に賛同する人が少なくありません。
下記の記事では過半に近い方が消費税の増税に賛成をしています。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/1000research/201711/553627.html
しかしながら、消費税というものが租税の手段としてそれほど優れているのかということを考えてみたことはあるでしょうか。
つまり、「消費税というものは効果的な租税というのは本当なのか」ということです。
私の考えはというと大いに疑問を持つ立場です。
特に政治家や財界など人としていかがわしい連中が消費税増税と言い始めたら疑いの目を向けるべきだと思っています。
今日は、租税の根本的機能から消費税というものの我が国における真の正体を見ていきたいと思います。
結論から言いますと、財政再建、社会保障の充実といった消費税増税の建前は全てでたらめです。
■租税の見落とされがちな機能
今の日本において「消費税増税」がいかに薄汚いものかを述べて行く前に、「租税の見落とされたちな機能」についてまずは書いていきます。
これを通して、日本の消費税増税はなぜデタラメなのかがわかると思います。
まず、結論から言いますと「徴税権」というのは良かれ悪しかれ「強力な利益誘導行為」だということです。
平たく言えば、大量の資本をかき集めて別の場所に移管できるということです。
国家権力というのは昨今軽視されがちですが、それくらい強力なことができるのです。
もちろん、この徴税権はそれが健全に機能すれば資本主義が持つ格差の拡大を低減するための「富の再分配」につながります。
おそらく一般的には、租税をそのようなものとして理解している方が多いでしょう。
一方で、逆のこともできるんです。
ここが見落とされていると私は考えています。
言い換えれば、広く国民から金を巻き上げて特定の事業者に便宜を測れるのです。
この租税の根本的でありながら見落とされがちな機能をいち早く注目したのがエマニュエル・ウォラー・ステインというアナール学派の智将です。
一般的には「富の再分配」の方に注目しがちですが、ウォーラースタインはむしろ利益誘導行為による「格差の拡大」メカニズムの方が歴史的には利用されてきたと指摘しています。
国家の再分配機能は、これまでのところは、平等化の可能性の問題としてしか論じられてこなかった。つまり、福祉国家の問題としてばかり論じられてきたのである。しかし、実際には、再分配機構は実質収入の補填などのためよりは、むしろ分配の格差を拡大するメカニズムとしてこそ、遥かに広汎に利用されてきたのである。
『史的システムとしての資本主義』エマニュエル・ウォーラースタイン(1997)岩波書店 p65
「富の再分配」というのは為政者が真っ当であるということが前提にされている認識のカテゴリーであり、歴史的には利益誘導行為で国民をむしろ貧乏にさせてきたことの方がどれほど多いのかということは非常に興味深い指摘です。
実は、この徴税権の恣意的な活用により国家としてみたひどいものだったことが日本でも過去にあるんです。
それが、今回のテーマにしている消費税増税なんです。
■徴税権を使った利益誘導について
消費税の問題点を唯一指摘している政党というのがありまして、それは自民党でも民主党でも維新の会でもなく共産党です。
共産党というと日本ではその党名から嫌悪されることが多い政党ですが、結構真っ当なことを言っていることも少なくありません。
特に消費税について猛烈に反対している唯一の政党とも言える政党です。
彼らは、なぜ消費税に反対しているのかというと消費税というものが税収の増額に寄与していないのはもちろんの事その増税に連動して法人税を減免していることが少なくないと考えているからです。
共産党のホームページには以下のような記載があります。
消費税が導入されて22年間で、消費税の税収は総額で224兆円になりますが、同時期の法人3税の減収は208兆円にのぼります。消費税は、「社会保障のため」といって導入・増税されましたが、実態は法人税減税による減収分の「穴埋め」になってしまったのです。
『消費税を考える重要情報』
https://www.jcp.or.jp/tokusyu-10/08-syouhizei/
先ほど書いたように消費税は増税される際に「社会保障の充実」をうたわれることがほとんどです。
共産党も私と同じことを言っています。しかしながら、実際のところ法人税を減収する措置をとっているためトータルで「増収」がほとんど起きていないという事実があるのです。
さて、法人税は誰が払っているかというともちろん法人なのですが、日本の中小企業のほとんどは法人税を納めていませんので事実上は大企業が払っています。
つまり、この構図は、誤解を恐れずに言えば、「広く国民から金を巻き上げる代わりに資本のでかい金持ち企業は優遇する」という一般的に理解されている徴税権の機能とは正反対のことが起きているのです。
どうして経団連などが「消費税増税」をしばしば提案するかが見えてくるのではないでしょうか。
彼らは「持続的な社会保障」などというのは口だけで実際にはそうすることで発生する役得を狙っているからではないでしょうか。
経団連は、先進国で最悪の財政状況を改善するため、消費税率を2019年10月に予定通り10%に引き上げた後、10%を超える水準への税率引き上げを「有力な選択肢」として議論するように促す提言をまとめた。政府が6月をめどにまとめる新たな財政健全化計画に反映させたい考えで、来週公表する。
『経団連、消費税10%超「有力な選択肢」 新財政計画へ提言』日本経済新聞 2018年4月17日
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL13HTR_T10C18A4000000/
ここまでで何が言えるかというと少なくとも「消費税増税で財政再建は起きていない」と言うことと、それを建前に懐を潤わせている集団がいるということです。
これはまさに先に述べたウォーラーステインの「格差を広げる行為」でありどう見ても「富の再分配」の要素はありません。
■為政者が「痛みを伴う改革」という時は痛みしか伴わない
そういうわけで「消費税増税」と言いだす政治家やその周辺の知識層と呼ばれる人は疑ってかかる方が良いでしょう。
ブルジョアが自らの利益を拡大するためのポジショントークだと言っても良いのです。
ウォーラーステインがいうには、この徴税権の悪用は日をおうごとに悪化しているとのことです。
「資本主義的世界経済」の歴史を通じて、生産された価値の総量や蓄積された価値の総量の中に占める租税の比率が着実に上昇していった、という事実がある。このことは、国家がますます多くの資産を握って、次第にその重要性を増していったことを意味する。というのは、こうした資産によって、国家は資本蓄積を促進することが可能になったのだし、またこれらの資産そのものも結局は分配されて、直接・関節に一層の資本蓄積に組み込まれていったからである。
『史的システムとしての資本主義』エマニュエル・ウォーラースタイン(1997)岩波書店 p64
ところで、皮肉なことに日本では、政権交代が起ころうとも言ってることが政党間でほとんど変わらず、周りからほとんど相手にされていない山本太郎委員や共産党くらいしかこの消費税増税の問題点を指摘していません。
もちろん彼らの言うことを鵜呑みにする必要はありませんが、昨今資本主義の延長で起きている格差拡大を考えれば消費税増税は愚策中の愚策です。
我々としては特定のブランドや肩書きに騙されることなく「何を言っているか」で判断できるよう学問をするしかなさそうですね。
以上となります。