「銀行」と言えば、ほんの数年前までは「勝ち組」の代名詞でした。
私自身、5年ほど前の大学時代にも感じたことですが、メガバンクに就職が決まれば「勝ち組」と言われ、少し格が落ちるとされる地銀や信金などでも「将来安泰」と言われていたことを記憶しています。
しかしながら、今その就職先としていいところの代名詞でもあった銀行がオワコンではないかと言われ始めているのです。
本日はこの銀行がオワコンであるということについて記事を書かせていただきました。
一つだけ前置きをしますと、銀行に就職していなければ関係がないかと言えばそうではありません。
銀行の終わりはこれまでの資本主義体制に一区切りをつけ次の時代に移行するサインでもあります。
その意味で、今銀行に何が起きているかを押さえるかは関係者以外にとっても今後の世の中を見据える上で極めて重要でありましょう。
低金利が銀行オワコン化の始まり
まず、銀行という業態の先行きの不透明さというのはなんとなくではあっても多くの人が気づいているかと思います。
その理由はなんでしょうか。
AI化が進んだことなども指摘されますが、一言で言えば「低金利」が原因です。
言い換えれば、「銀行」オワコン説の原因と言える理由は、銀行が金利でご飯を食べるビジネスモデルだからだということです。(もちろんそれ以外にも収益源はゼロではありませんが)
特に地方銀行は深刻だと言われていて、4割以上が赤字状態だと報道がなされています。
(『地銀の4割が本業赤字に、18年度』日経デジタル 2019年8月28日http://www.nikkei.com/article/DGXMZO49105040Y9A820C1EE9000/)
この赤字状態は一過性のものではありません。
直近のニュースでは7割の地方銀行が利益を減らしたと述べられました。相当深刻な状態に地方銀行はあるのです。
全国の地方銀行のことし4月から9月までの中間決算は、長引く低金利が影響して本業の貸し出しで収益を上げにくくなっていることなどから、およそ7割の銀行で最終的な利益が減少しました。
(中略)
その一方で、およそ7割にあたる56社は利益を減らしました。長引く低金利で本業の貸し出しで収益を上げにくくなっていることが減益決算の理由です。
『地方銀行の中間決算 約7割が減益 長引く低金利で』 2019年11月16日 NHK NEWS WEB
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191116/k10012179381000.html
地方銀行ほどとまでは言いませんが、メガバンクも同じ状況にあります。
大手金融グループ3社のことし4月から9月までの中間決算が出そろい、各グループとも最終的な利益が減少しました。中でも企業向けの貸し出しや住宅ローンなど、本業の融資による利益の落ち込みが目立っています。
『3メガバンク中間決算 低金利で本業利益が減少』2019年11月14日 NHK NEWS WEB
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191114/k10012177741000.html
大なり小なり「銀行」という事業モデルが「オワコン」に向かっているという昨今の指摘は一概に大げさなものではないということがここからだけでもお分かりいただけたかと思います。
収益力の落ちた銀行がしていること
さて、ビジネスモデルがオワコンとなった銀行が何をするかというと大きくは二つあります。
まず一つ目がコストカットです。そのコストのメインはATMの撤去などもありますが、メインは「人員の削減」です。
メガバンククラスになると削減の量が桁違いです。
みずほフィナンシャルグループが1万9000人の人員削減、三井住友フィナンシャルグループは5000人弱相当の業務量削減。目を引くメガバンクの合理化計画に一役買っているのが、事務作業をソフトウエアに覚えさせて自動化する「ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)」技術だ。業務効率化を加速させる一方、銀行員にとっては個人の能力がより試される時代に入ることになる。
『メガバンクに業務自動化の波、リストラ疲れの銀行員にカンフル剤』Bloomberg 2019年7月19日
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-07-18/PTYR0R6S972O01
元々、銀行の固定費は高いと言われており、RPAなどの普及で上記以上にもリストラが起こりうると言われています。
これについては日本の銀行に限らず、海外の銀行でも積極的に行われています。
一例では、ドイツ銀行はすでに1万8000人規模をリストラしはじめていると言われています。
(『リストラが始まったオフィスの前に行ってみた、ドイツ銀行1万8000人をレイオフ』http://www.businessinsider.jp/post-194258)
こちらについてはすでに報道が多数ありますのでこのくらいにします。
オワコン化した銀行が何をしているのかのもう一つが大切です。
こちらについては銀行にいない我々も被害を被ることになります。
ビジネスモデルが破綻している銀行が今何をしているか。
一言で言えば「博打」をしているのです。
「事業で失敗して、ギャンブルで取り返すぞー」と言ってる人がいたら「さらに被害が増える」と多くの人は直感するでしょう。
しかしながら、銀行はまさにこの状態なのです。
行き詰まったところでギャンブルに手を出してしまい、さらに破滅的な帰結を迎える準備を整えているのです。
しかもそのギャンブルで負けるであろう分は我々庶民につけとして回ってきます。
銀行の倒産ラッシュは避けられない〜オワコンに手引きしているものたち〜
さて、この「博打」とは具体的には何なのでしょうか。
これは二つあります。
一つは投資銀行が開発した高金利・高リスクの商品を多数保有させられていることです。
そして、もう一つは返済見込みの疑わしい事業への融資です。
CLOやCDSといった詐欺商品
まず一つ目からです。
CLOやCDSというものをご存知でしょうか。
あまり日常生活では聞かないと思いますが、投資銀行にお勤めの方であればご存知かと思います。
どういうものかは商品ごとに色々特性があるのですが、ここでは「焦げ付きリスクが高めの債権をいくつかまとめてパッケージ化してリスクを見えにくくしたうえで投資銀行がマーケットにばらまく詐欺まがいの商品」だとご理解いただければ十分です。
なぜ今この話題を上げるか。
それは前回の金融危機であるリーマンショックはこの商品の一つであるCDSが焦げ付いたことが引き金だったからであり、
そして、最近それに類するCLOという金融商品の焦げ付きが濃厚となってきているからであり、
そのCLOを多数の日本の金融機関が持っているからなのです。
(前回の金融危機の時に日本の銀行はCDSをあまり保有していなかったため生き延びたと言われている。)
ローン担保証券(CLO)はウォール街の魔術が編み出した金融商品の1つで、数十年前から存在している。よく似た債務担保証券(CDO)と同様に、高リスクの債権をまとめてパッケージ化するためのツールだ。・・・ しかし、20年にリセッション(景気後退)入りする可能性が高まるのに伴い、信用格付け引き下げがCLOによるレバレッジドローン一斉売りをもたらすリスクがある。多くの企業が借り換え困難に見舞われ、存続が脅かされる恐れもある。
『CLOの火薬庫、くすぶる危険性-高債務の米企業に迫るトラブル』2019年3月25日 Bloomberg
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-10-25/PZTSZH6JTSE801
いくつか金融機関の例をあげます。
まず最大のギャンブラーはすでに報道もいくつかありますが農林中央金庫です。
CLOをすでに7兆円保有しています。
アメリカ企業などのローンを集めてつくった金融商品でリスクも指摘されているCLOを大量に保有している農林中央金庫は現在の投資残高が7兆円台にのぼることを明らかにし、今後は投資をおさえていく方針を示しました。・・・CLOは11年前のリーマンショックの引き金となった住宅ローンを集めて作った金融商品と仕組みが似ていて、日銀は先月、景気が急激に悪化すれば価格が下落するおそれがあり、注意が必要だと報告書で指摘しています。
『農林中金 CLOへの投資残高7兆円台に 新規投資は抑制へ』2019年11月21日 NHK WEB NEWS
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191121/k10012186091000.html
桁が大きすぎて唖然とするしかありません。これが焦げ付いたら確実に倒産します。
他にも名だたる銀行が控えます。
農林中央金庫と並んでやばいとされているのはゆうちょ銀行とみずほ銀行です。
18年3月末以降、保有残高が急増したのは農林中金とゆうちょ銀。農林中金は米国を含めたCLO保有残高が、18年12月末時点で6兆8000億円。3カ月に1兆円のペースで増え、同年3月末比1.8倍となった。
ただ、地域別のCLO残高は回答しなかった。ゆうちょ銀は、18年12月末の米CLOの保有残高が1兆円で、同年3月末の2倍になった。
『焦点:CLO投資、農中・ゆうちょ急増 大手銀保有は今後も増加へ』 2019年4月8日ロイター
https://jp.reuters.com/article/clo-nochu-yucho-idJPKCN1RK0N3
なお昨年度の決算時にみずほ銀行はすでに1800億円の有価証券の損失を計上しています。
みずほクラスであれば、すぐには倒れませんが、これよりも大きな損失はまだ隠されているとも言われており、すでに破滅への前奏は始まっているのです。
誰もが聞いたことのある銀行がとてつもない大金をかけてギャンブルをしているということです。
なおこのようなCLOの保有について株主からはすでに各銀行に対して意見が出されています。
しかし、金融機関はギャンブルをやめる気はありません。
ギャンブル依存症の人をギャンブルから引きはがせないのと同じ状態にはまっています。
例えば、ある金融機関の社長は株主に対して「格付けがAAAなので問題ない」というをのべています。
「あの台は設定が一番良くて当たるからやらせてくれ」というわけですね。
しかし、リーマン・ブラザーズはAAAを格付け会社からもらっていて倒産したことを思い出してください。
AAAなどの格付けは何もあてにならないのです。
そもそも、こういった格付けは投資銀行側が販売を促進するために甘くつける力学が働くものです。
投資銀行のビジネスモデルは売買手数料で儲けるということを伝えればその力学についてはお分りいただけるでしょう。
要するに、売買を抑制するような格付けをするとは考えにくいということです。
まとめると、今の銀行は収益性の低下を穴埋めするべく、信用創造という形で現実に存在するマネーの数倍から数十倍もギャンブルに突んでしまっているということです。
そして、すでに焦げ付きリスクが海外メディアなどからも報じられており、日本の金融機関もそれが表面化するのは時間の問題だということです。
ソフトバンクと運命共同体になるみずほ銀行が教えてくれること
銀行のオワコン化を推し進めるもう一つは返済見込みの怪しい企業への多額の融資です。
これはみずほ銀行がソフトバンクに対して行なっている融資がいい例です。
みずほ銀行はソフトバンクに対して*数兆円規模で貸し出していると聞きますが、WeWorkやOYYOなどの危険銘柄を抱える同グループにさらなる融資をするというのは冷静さを失っていると言わざるを得ません。
*ARMの時だけで1兆円みずほ銀行は貸し出している。(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO04981150Z10C16A7000000/)
おそらく、WeWorkやOYYOなどが単体でみずほへ融資を求めれば間違いなくみずほは貸し出さないはずです。WeWorkについては別記事でも触れた通り、売り上げと同じだけの赤字を毎月出すビジネスとしてオワコンの企業です。
しかし、みずほ銀行には孫正義というカリスマ経営者への過剰なフィルターがちらついているのでしょうか。
リスク銘柄が並ぶ同社への大量融資を継続しているのです。
しかも最近は孫正義の株式を担保に貸し出しをするというより大きなリスクを積極的に取っています。
(Bloomberg2019年9月19日https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-09-19/PY1YY3T1UM0W01)
これがなぜまずいかというと担保が孫正義の株式だと株が暴落したらみずほ銀行も一気にお釈迦になることが避けられないからです。
有価証券は会社がコケたら不動産などと違い紙くずになります。
それを担保にして融資を拡大するおそるべき状態。
もちろんこれまでみずほ銀行にとってソフトバンクグループは年間の利息だけでも数百億円だか数千億円高ある最大の顧客でありないがしろにはできないのは理解できます。
しかしながら、経営層にブレーキが全く効かなくなっているのは非常にまずいと言わざるを得ません。
みずほ銀行ほどの規模感でも倒産のリスクがあります。
終わりに
ここで初めの話に戻りましょう。
このような詐欺まがいの金融商品に手を出して大赤字を出したり、無謀な融資をしてしまう背景には何があるのでしょうか。
それは冒頭に述べたとおりひとえに低金利による収益の悪化です。
本業がダメになってきたので、無理をしたらさらにドツボにはまっているということなのです。
こう見ると改めてですが、銀行はすでにオワコンと化しているのはお分りいただけるかと思います。
銀行に就職しなかった人は少々安堵いただけたかもしれません。
しかし、ここも繰り返しになりますが、あなたが現在銀行にいないからといって無関係とは言えないということを改めてのベます。
前回の金融危機を思い出してください。
金融危機が起きた後に、失業率が日本は他国と比べてましだったとは言えグッとあがりました。
今回も同様の信用収縮が起きれば多くの人が露頭に迷う可能性があります。
しかも、すでに述べたように前回と異なりリスク商品を日本の金融機関が大量に保有していることから被害が前回以上になる可能性は高いと思われます。
ここでおそらく、「どうしたら逃れられるのか」という事が知りたくなるものでしょう。
しかし、この金融バブルはドラッグと同じで一時的にハイになる効果があるものの必ず副作用が出る代物であり逃れることは不可能です。
加えて、ドラッグと違って厄介なのは自分がそれに関わっているかどうかは関係がないというところです。
庶民には副作用だけが降ってくるというとてつもなく迷惑なものだということです。
ただただ、その時を待つしかないという極めて絶望的な状況に今我々はいます。
*本記事に関連しておすすめの書籍です。