ここ最近話題に度々上がる入試制度改革にかかる疑惑をご存知でしょうか。
それは、これまで行われてきたセンター試験が廃止となった後に導入される共通試験についてです。
端的にいうと、国が行う大学受験向けの共通試験において特定企業(ベネッセ)が文科省と癒着していたのではないかという疑惑があるのです。
これのどこが問題なのか。
本日はこの話題になっている入試制度改革について書かせていただきました。
ベネッセと文科省の癒着が疑惑として出てきた経緯
改めてですが、国会でも活発な議論が行われている入試制度改革ですが、現在非常に炎上しています。どうしてここまで炎上する展開になっているのでしょうか。
いくつも着火点はあるのですが、下記の記事が非常にわかりやすいので引用します。
来年度から始まる大学入学共通テストへの英語民間試験の導入が延期となり、国会は大紛糾だ。民間試験活用に至る経緯もさることながら、なぜベネッセが主催する「GTEC」が採用されたのか。国語・数学で記述式問題の採点業務をベネッセの関連法人が受注したプロセスは適正だったのか――。ベネッセをめぐる疑惑が噴出している。
『英語民間試験に政官癒着 渦中のベネッセが抱える“深い闇”』nifftyニュース
https://news.nifty.com/article/domestic/government/12136-462051/
ここでは、大きくポイントが二つあります。
まずセンター試験の代わりに使われる英語の試験において「GTEC」というベネッセが作る試験が採用されたというところ。
そして、もう一つは国語・数学の記述式問題の採点業務もベネッセに関わる法人が受注したというところです。
要するに、センター試験の代わりに使われる新しい入試制度の中核部分においてベネッセという民間事業者が独占的に参画しているということです。
また、このような独占的状態がなぜ生まれたのかという「プロセス」が非常に不透明な点も批判が止まない背景にはあると考えられます。
「なぜ、こういう仕組みになったのかを検証しなければならない」
8日の参院予算委員会の集中審議で、萩生田文科相はこう言って民間試験活用を議論した会議の議事録を公表する意思を改めて強調した。
公表されるのは、2016年4月に文科省内に設置された有識者らによる「検討・準備グループ」の会議内容。17年5月に大学入学共通テスト実施方針案が示されてからは第10回以降の議事要旨が公開されているが、第1~9回の議事録は非公開とされてきた。
同上
選定プロセスの多くが非開示にあると述べられています。
まとめると、選定プロセスが不透明でかつ特定の事業者が独占的に受注しているという事象から「癒着」ではないかと疑われているわけです。
蛇足ですが、その疑惑に対して文科大臣がなぜか他人事なのも気になるところです。(なぜなら、もし本当に知らなかったのならガバナンスが効いていないという意味でより深刻だからです。)
ベネッセに疑惑が上がる理由
そして、極め付けでもあるのですが、7日の東京新聞の報道で疑惑がさらに深まる展開になります。その関連企業に文科省の役人が天下りしていたのです。
衆院予算委員会は六日、安倍晋三首相と関係閣僚が出席して集中審議を行った。二〇二〇年度の大学入学共通テストへの導入が延期された英語民間検定試験に関し、実施団体の一つベネッセの関連法人に旧文部省、文部科学省から二人が再就職していたことが明らかになった。野党は、英語民間試験導入の背景に官民癒着があるのではないかと追及した。 (木谷孝洋)
『英語試験法人に天下り 旧文部省次官ら2人 衆院予算委』 東京新聞 2019年11月7日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201911/CK2019110702000159.html
スロットでいうと7、7がきて7が最後きたようにも見えます。
まあ日本で天下りを叩き出すと埃が出る会社は他にもあるでしょうが、しかしだからと言ってこれを看過していい理由にはなりません。
なお本件は別の角度からも「ベネッセありき」にしか見えないという指摘が上がっています。
例えば、新試験では記述式が多くなるのですが、この試験の採点をバイトにやらせることを文科大臣は否定していません。
立民の川内博史氏が採点者に学生アルバイトも想定されるのかをただしたのに対し、萩生田氏は「さまざまな属性の方が含まれる」と否定しなかった。
同上
これが非常に問題なのがお分りいただけるでしょうか。
なぜなら、そもそもベネッセを新試験制度において主担当とした背景には記述式入試になると大学入試センターではまかないきれないからという理由づけがあったとされるからです。
それについては東京新聞の記事が詳しいのでご確認ください。
記述式問題の採点は、受験者数が約五十万人と膨大なため、テストを実施する大学入試センターでは対応できないとして、民間の「ベネッセコーポレーション」の子会社に委託される。
同上
もちろんこれ以外の理由もあるでしょう。
しかし、本丸としてはこの理由で国内最大手のベネッセが新試験を受託したとしか現状では考えられないわけで、仮にベネッセがやる場合も結局バイトが採点するならば、選定理由の前提が崩れてしまうわけです。
同社は岡山に本社があるらしいですが、この展開「K学園」とどうも似てきています。
民間企業を利用するのが悪いわけではない
ここで再掲ですが誤解してもらいたくないことがあります。
それは本記事があらゆる公的事業に民間事業者を入れるなということを主張する趣旨ではないということです。
ベネッセが新制度の入試において事業者として関わることも条件によっては全く問題ありません。
むしろ国内最大手として他の会社や事業者にはできないリソースがあると私も考えています。
ただ、本ケースのような利益相反に近い「構図」ができていることが適切ではないのです。
最後に、少し異なった切り口から私なりに本件の問題点を述べさせていただきます。
同社はご存知の通り教材作成会社としても有名です。私も学生の頃は使ってました。
いい教材がたくさんありました。
しかし、その会社が入試を作る側にも回るとなると大きな問題が出てきます。
それは、「社会的公平性」および「市場的公平性」のいずれから見ても難があるということです。
まず、「社会的公平性」の観点からどう問題かというと、ベネッセが入試を作る側である場合、教材作成のクオリティは上がる可能性が高いことを否定する方は少ないでしょう。
わざわざ開発において入試に出ない問題を意図的に作ろうとする会社などないでしょうからね。
しかしながら、こうなると「ベネッセの教材を使って学習をできるかどうか」が学生の運命を大きく左右することになってしまいます。
例えば、経済的な理由でベネッセの教材を使えない人は大幅に不利益を被るかもしれません。ベネッセに多額の金銭を投入できる人が入試において得をする可能性が高まるかもしれません。
これらが望ましい状態と言えるでしょうか。
また、「市場的公平性」の観点からも難があります。
教育事業者は世の中にたくさんあることをご存知でしょう。
これらの企業は日々一人でも多くの子供の夢を叶えるために精進しているわけですが、ここに入試を作る側でありながら教材を作る側にも回れる企業が誕生するとなると他の事業者はどうなるでしょうか。
おそらく太刀打ちできないのではないでしょうか。
ジェイン・ジェイコブズが『市場の倫理 統治の倫理』と述べたように、ある特定の方向で正しいとされる倫理が環境を変えると害悪をもたらすということが世の中にはあります。
例としては、ビジネスマンが「取引」をすることはいいことですが、役人が「取引」をすれば悪なのをイメージしてください。
今回のベネッセの件について言えば文科省との癒着云々の疑惑もあるものの、まさにこの状況になってしまっています。
本件の消化にあたっては、ベネッセの側および文科省の側が市場的公平性および社会的公平性を今回の入試制度改革において損ねないと説明を果たすしかないでしょう。
しかし、現状その辺りの説明は見えてきませんし、現実的にそれを説明するのは難しいと私は考えています。
なぜなら、現実的にはベネッセがいくら法人を切り離そうとも資本が入る時点で「疑惑」は立ってしまうからです。
同社にとってはもちろん大きなビジネスチャンスだとは思いますが、あまりこの問題が長期化するとむしろレピュテーションリスクが増してくるでしょう。
そういう意味では、短期的にはデメリットがあっても手を引いてアドバイザリーという距離感くらいで入っていただくのが良いように思います。
まだ現実に試験制度は始まっていませんから今なら問題は大きくありませんしね。
今後もこの問題はフューチャーしていきたいと思います。