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ビジネス書を読むのは無駄どころか害でしかない理由

更新日:

「私一ヶ月で本を100冊読みました」

「ビジネス書を通して考えが変わりました!」

「会社に頼っているだけではいけないことをビジネス書で学べました」

 

出版不況と言われる中でも「ビジネス書」というジャンルはとても人気があるようです。理由はいろいろあるようですが、「即効性」があったり、「すぐに実践できる」というところだったりが評判の理由のようです。

 

ただ、これは自戒も含むのですが、ビジネス書を読んでもくだらないし無駄です。

いや、無駄どころか害しかありません。

 

これは私自身ビジネス書を読んでいるときには全く気づきませんでした。

ビジネス書の提供する世界観に違和感を抱き始めたのは他のジャンルを手に取り始めた時からでした。

 

今日は、なぜビジネス書が無駄どころか害でしかないのか。

ビジネス書に長らく洗脳されてきた被害者の体験談を書かせていただきます。

 

 

あらかじめその危険性を一言で言いますと、「固定観念を打破せよ!」と叫ぶ彼ら・彼女らが固定観念に蝕まれているからです。その思想が作り出す世界観こそが日本の停滞の要因とすら言えるかもしれません。

 

かのケインズは有名な『雇用、利子及び貨幣の一般理論』の中で、以下のように述べています。

経済学者や政治哲学者の思想は、それが正しい場合にも間違っている場合にも、一般に考えられているよりもはるかに強力である。事実、世界を支配するものはそれ以外にはないのである。どのような知的影響とも無縁であると自ら信じている実際家たちも、過去のある経済学者の奴隷であるのが普通である。権力の座にあって天声を聞くと称する狂人たちも、数年前のある三文学者から彼らの気違い染みた考えを引き出しているのである。私は、既得権益の力は思想の漸次的な浸透に比べて著しく誇張されていると思う。もちろん、思想の浸透は直ちにではなく、ある時間をおいた後に行われるものである。なぜなら、経済哲学および政治哲学の分野では、二五歳ないし三十歳以後になって新しい理論の影響を受ける人は多くはなく、したがって官僚や政治家やさらには煽動家でさえも、現在の事態に適用する思想はおそらく最新のものではないからである。しかし、遅かれ早かれ、良かれ悪しかれ危険なものは、既得権益ではなくて思想である。

『雇用、利子及び貨幣の一般理論』ジョン・メイナード・ケインズ(2008)岩波文庫

 

■目次

ビジネス書に貫徹される主流派経済学
ビジネス書に貫徹される個人主義
ビジネス書に貫徹される功利主義

■ビジネス書に貫徹される主流派経済学

ビジネス書と言っても幾つか種類がありますので少し前置きをします。

これを読んでいただく方には、代表的なビジネス書をイメージしながら読んでいただきたいのですが、あらかじめ私が典型的なビジネス書とイメージしているものについて話します。

 

具体的な名前をあげますと大前研一氏、竹中平蔵氏、堀江貴文氏あたりになります。

その他、海外からきたビジネス書などもだいたい当てはまります。

 

 

彼ら・彼女らにはおきまりの紙芝居があるんです。

下記に要約しました。

 

「日本経済は今停滞をしています。しかもグローバル化が進んでおり、日本はその流れから取り残されています。それに加えて少子高齢化や人口減少フェーズに入っており今後の復活は見越せません。もう日本は駄目ですから、国に頼ることなく自分で生きていく必要があります。この世の中の流れに取り残されたくない人は会社を離れてもっと海外などで活躍できるようにしましょう。」

 

ビジネス書を書く人からすれば心外かもしれません。

そして、私はすべてのビジネス書を読んだわけではないので、これに該当しない本もあるというご指摘もあるでしょう。

 

 

それに関してはそうかもしれません。私も全て読みきれませんのでご容赦ください。

 

 

ただ、売れてるビジネス書を長らく読んできた私にとってこのドラッカーだか大前研一だかが作り出した紙芝居を外している人は珍しいです。(それを外すとビジネス書ではなくなるとさえ思います。)

 

さて本題に入ります。

あらためてですが、タイトルにもある通り今回議案にあげているビジネス書の類を読むことは「無駄」です。

そして無駄どころか害しかありません。(重要なので繰り返し言います)

 

3つ理由があります。(ここだけマッキンゼー風)

 

まず一つ目です。

 

彼らの考え方の根本にある「主流派経済学」に一つ目の危険があります。

主流派経済学というのはひとくちに説明するのは難しいですが、例えば下記の需給曲線を筆頭としたものが挙げられます。

義務教育で習うレベルの経済に関しては「主流派経済学」と言っても良いでしょう。

個人的な解釈ではこのような主流派経済学に共通して見られる特徴が二つあります。

「人間は合理的な判断をする」(無駄が一切ない)というものと「政治介入(規制など)は無駄なものであり、かつ非効率にするだけである」という考え方です。

 

この考えがビジネス書の売れっ子と言われる人たちの根本哲学にあることは幾つか引用することで理解していただければ幸いです。

まず一人目が、堀江さんですね。彼の哲学は一貫しています。下記に橋下徹元大阪市長との一部を抜粋しました。

 

政治に必要なことは何かという問いかけに以下のように答えています。

そのへん僕は合ってると思うんですけど、完全に規制緩和しかないと思うんですよ。

『【今の政治に不満なこと】橋下徹氏/堀江貴文氏 対談まとめ①』

https://matome.naver.jp/odai/2137442239968836401

この対談の中でもわかるのですが、堀江さんにとっては政治介入とはとにかく無駄なものであり、介入を排除する方が効率的だし社会がより豊かになるようです。規制緩和万歳ですね。

 

続いて竹中平蔵氏を見ましょう。毎日新聞の取材で彼もまた規制改革を呼びかけています。

 国家戦略特区諮問会議の民間議員を務める竹中平蔵・東洋大教授が毎日新聞のインタビューに応じ、人口減や技術開発競争に対応するため、一層の規制改革が必要との認識を示した。

毎日新聞 2017年5月23日 『規制緩和の現場/5止 国家戦略特区諮問会議議員・竹中平蔵氏 リスク負い革新を』

彼は官営や規制と言ったものを徹底的に嫌います。

それは郵政民営化や労働者派遣法に見られますので今更説明は不要かもしれません。

 

最後に私が現在のビジネス書における雛形を作った人物と考えている大前研一氏です。

ところが、日本の政府はそうした世界の現実から目をそむけ、移民を認めないなど(実際には2016年末現在の在留外国人数は238万人余りに達し、過去最高になっている)制度が閉鎖的で、海外から人・モノ・カネが集まらない。「教育無償化」や「人づくり革命」などという日本人のみを対象とした内向きで無意味な政策ばかり打ち出している。それこそ「国難」にほかならない、と痛感した視察旅行だった。

『自由が人・モノ・カネをもたらす象徴的都市・バンクーバー』2017年11月04日

https://news.nifty.com/article/economy/postseven/12180-625285/

大前はこの記事の中で、カナダが移民を受け入れることで大成功しているという例をひき、移民に消極的な日本にケチをつけています。

「規制が強すぎて日本は世界の波から取り残されているが早く規制緩和せよ。」そう彼はこの記事の中で述べています。

 

 

例が長くなりましたがこの例を通して言いたかったことは一つです。

「固定観念を捨てろ」と言っている彼ら自体が固定観念に蝕まれているということです。

 

「規制緩和」「グローバルに活躍」こういったものを彼らは全てイメージで語っています。

 

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■ビジネス書に貫徹される個人主義

政府を遠ざけ、個人の自由に身をまかせるようにすべきという考えはアダム・スミスが始まりと言われています。

 

ただ、、スミスの考えによりエンジンを積み込んだ人物がいるんですね。

フリードリヒ・ハイエクというノーベル賞もとった方です。20世紀の経済学者の中でトップクラスに有名です。

「新自由主義」という経済イデオロギーを生み出したのです。これを何らかの形でビジネス書の作家たちは吸収しています。

 

彼は、ナチスの全体主義国家やスターリンをはじめとした社会主義国家を引き合いに国家権力が肥大化する危険性を述べる中で徹底した政治の干渉拒否を唱えました。

自由な国と恣意的な統治の下にある国との何よりも明確な違いは、「法の支配」として知られる大原則が自由な国では守られていることである。技術的な細かいことを省いて言えば、法の支配とは、政府のあらゆる行為があらかじめ定められ公表されたルールに縛られることを意味する。

『隷属への道』フリードリヒ・ハイエク(2008)春秋社

ハイエクは最低限の秩序を用意した後は政治はあらかじめその用意した秩序に縛り付け介入しないことを望んだのです。

このハイエク先生の考えは今のビジネス書を書く売れっ子の先生方にとって手放せないものとなっています。

 

ハイエクは極論を出すことで自説の妥当性を示すという姑息でしかな論理展開なのですが、ここ100年ほどずっと「正しい」とされています。

 

ところで、このハイエク先生の考えに最も忠実な国があります。それはアメリカです。

実際、アメリカに対して「大規模な規制緩和をしており、多くのイノベーションを起こし続ける偉大な国」というイメージを持つ人は少なくないでしょう。

また、努力した人が報われる「豊かな国」と見る人も多いでしょう。

グーグル、Facebook、Amazon、Apple、、、、確かにすごい企業がたくさんあります。

 

 

それゆえに、大前氏が「日本もアメリカなどに追いつくためにもっと規制緩和が必要だ」というと「そうなのかな」と考えてしまうものです。

 

 

では、ハイエクの考えは正しいものなのか?

それは今やノーということが明らかとなりつつあります。

 

全世界的に今政府無干渉から生じたグローバリズムの歪みに大いに苦しんでいます。

その爆発の一つがリーマンショックでした。(金融の自由化を加速させたことが発端)

 

 

これまで新自由主義を信じてきた学者も過ちを認めるようになりました。

 

しかしながら、日本の知識人は考え方を一切変えません。

むしろ規制緩和が足りないと叫んでいるのです。

 

ここが他の国と悪い意味でやや趣が違います。

反動がなく、さらにアクセルを踏めと言ってるわけですね。

 

 

先ほど彼らはイメージで語っていると言いました。

改めて、彼らが現実を見ていないということは幾つかの例を示せばおわかりいただけるかもしれません。

大前氏、竹中氏など多くのMBAホルダーやマッキンゼー出身の方々は著書の中でアメリカの実態を描かないのです。

極めて姑息です。

 

一例を挙げましょう。それは「マクロ経済」に関する統計データを使った隠蔽ですね。

 

よくアメリカの偉大さを語る人々が使う統計のトリックがあります。

下記はアメリカのGDPの推移です。見てみてください。

http://ecodb.net/country/US/imf_gdp.html

一貫して伸びていますよね。すごいように見えます。

 

 

他にもよく使うものを見ましょう。

「インフレ率」も彼らは好きです。

下記グラフを見るとアメリカではデフレがリーマンショック翌年以外2009年を除いてインフレを維持しています。

http://ecodb.net/country/US/imf_inflation.html

デフレが長らくの日本の停滞の要因と叫ばれる中ではアメリカのインフレ維持はうらやましい限りかもしれません。

そして極め付けは国民総所得の増加です。

出典;世界銀行

 

どうだと言わんばかりにこのような数値を叩きつけられます。

こうなるとアメリカがすごいと言わざるをえない気がしますよね。

 

一例としてアメリカをあげましたが、東南アジアなどを引き合いに手を替え品を替え日本がいかにダメかを彼らは示します。

 

 

竹中・大前両氏は同様のロジックは一貫して使っており、こういった国を引き合いに「日本はGDPが伸びていない」「デフレから脱却できていない」「総所得が伸びていない」と畳み掛けるわけです。そして、「だから規制緩和」が必要だというわけですね。

(堀江氏はあまり経済について語らないもののイメージで同じことを述べているように思います。)

 

 

しかし、こういったトリックを「くだらない」と私は一蹴します。

 

GDP、インフレ率、国民総所得については実態を曇らせるものでしかありません。

このようなマクロの数値は移民を大量に入れたり、ベソスのような人間が一人で数兆円稼いだと言ったような現実を見ていないのです。

 

 

先ほど大前研一が移民受け入れを賛美している記事を紹介しました。

あれを見るだけでも彼らには目の前の事実ではなく自らの「理論」にしか興味がないのです。

かれらは事実も情報も必要としていなかった。かれらには「 理論」があり、その理論に合わないデータはすべて否定されるか無視されたのである。

『暴力について――共和国の危機』ハンナ・アーレント(2000)みすず書房

とにかく日本はダメだと。このままではアメリカや東南アジアに負ける。

だから日本をリセットしなければこの現状は打開できない。

 

そう考えているのです。

 

しかし、実際のところアメリカでは富裕層が所得を大幅に伸ばす一方で、中間層以下が所得を同等かもしくは減らすという現象に見舞われています。

これにインフレが乗っかりますから実質的な購買力は一般の人々において下がっているのです。

そして、経済だけにとどまらず移民を大量に受け入れたアメリカではトラブルが多発しています。

詳細は下記記事にかきました。

デフレは悪いことなのか?

大前研一、竹中平蔵、堀江貴文、勝間和代、、、

これらの方々はこういう不都合な事実を一切語りません。

 

エドマンド・バークという人がいったことに「ヤバい奴らというのは現状の良さを見出さずとにかく変えろ」と叫ぶという有名な金言があります。

 

まさに今世間でオピオンリーダーと言われる「頭のいい人」たちこそヤバい奴らではないでしょうか。

「国はこうあるべし」という自己の理論に酔うあまり、現実の国家に良い点を見いだそうとしない者は、本当の意味では社会に関心など持っていない。

革命派にとっては、個々の人間であれ、政策であれ、はたまた政治的な原則であれ、良し悪しを判断する基準は一つしかない。従来のシステムをぶち壊すのに役立つかどうかだ。

『フランス革命の省察』 エドマンド・バーク (2011)PHP研究所

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■ビジネス書に貫徹される功利主義

今バークの言葉にあったようにビジネス書を書く人々は現実に興味がないように思われます。

彼らは「論理的思考力」の塊のように見えますが、それは彼らが用意したちゃちな合理でしかないのです。

 

「規制緩和」が人々を貧困化し、長らくの停滞を招いていると考えようとしないのです。

(特に大前研一の思考停止ぶりはひどい。)

 

最後に私が彼らのビジネス書を見ていて感じる3つ目の違和感を挙げます。

 

結論から述べますと彼らは「国の豊かさ」を「功利主義のカテゴリー」からしかほとんど見ていないということです。

これは堀江さんのファンからすると信じられないかもしれません。

 

事実、堀江さんは「金のために働かない」とよく言っています。

しかし、彼の「面白い」「価値がある」とみなすものをよくよく見て見てください。

総じて金銭的な価値から測定されていることが多いのではないでしょうか。

(まあ本人からすればそれは誤解と言われそうですが、、)

 

だから移民を入れたら秩序がどうなるとか、TPPに入ったら外資の食い物になるだとかそういった警戒が薄いのです。

真剣味にかけているのです。

 

世の中の利害を「金銭面」からしか見れないからこそ主流派経済学を疑わないし、個人主義を賛美するんでしょうし、稼ぐ力がある人の意見しか耳に入ってこない。

 

ただ、繰り返しになりますがその「合理」だけが世の中で普遍的な「合理」ではないことはいう間も出ないでしょう。

 

日本の株式会社はなぜ利益率が低いのか

日本はなぜ内部留保が多いのか

日本はなぜ終身雇用で年功序列を残しているのか

日本はなぜ役員報酬が少ないのか

日本はなぜ世界的起業家が出てこないのか

 

こういったことを「悪いこと」と見てしまったが最後で、ビジネス書に毒されていると断言します。

もちろんこれらの短所はあるものの日本が世界的に治安が良く格差が少ない国であれる要因でもあるのです。

 

今こそビジネス書をやめ、別の角度から書かれた本を読んでみてはいかがでしょうか。

 

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