「ビジネス保守」という言葉をご存知でしょうか。
直接的にか間接的にかはともかくとして「私は保守です」と訴えつつ、それでご飯を食べている人を指します。
ここ5〜7年ほどでしょうか。
この「ビジネス保守」のせいで日本が急激に劣化してきているのです。
「保守」という概念は、本来は後追いを基本とする思想とされています。
保守主義はイデオロギーとして最初から遅れを取っている。改革主義に対してつねに後手を引くやうに宿命付けられている。それは本来、消極的、反動的であるべきものであって、積極的にその先回りをすべきではない。
『保守とは何か』福田恆存(2013)文春学藝ライブラリー
しかし、昨今跋扈している「ビジネス保守」は遅れを取るまいと積極的に先回りをするほどの図々しさを持っているのです。
本日は「ビジネス保守」がどういった存在なのかを押さえていただきそういう考えを持つ人々に流されないような注意喚起ができればと思います。
ビジネス保守の特徴
早速ですが、「ビジネス保守」の特徴についてざっと見ていきたいと思います。
端的にまとめますとおおよそ3点からまとめることが可能です。
一つ目が中国・韓国への異常な差別意識に支えられていること。
二つ目が自国批判の著しい欠如。
三つ目が朝日新聞叩き。
中国・韓国への差別意識
まず、一つ目はこの「ビジネス保守」という立場の根底にあると言えるものを取り上げます。
それが中国・韓国への差別意識です。
私の知る限りビジネス保守は数十人から数百人規模でいますが、それらの人物から中国や韓国に対する肯定的な意見を聞いたことがありません。
アマゾンで試しに「中国崩壊」や「韓国崩壊」というワードを入れて見てください。
大重鎮としては渡邊哲也先生がその筆頭にきます。
何冊出すんだというくらい出しており、直近では2019年7月30日に中国崩壊関係の書籍を出版された後9月20日には韓国破滅というテーマで書籍を出されてます。二ヶ月で二冊。
そのほか古くは2009年に韓国経済やばい本、2015年には中国壊滅本などかなりの年月と冊数をこの中国・韓国崩壊本を書いておられます。
何冊か目を通したことがありますが、内容が毎回同じでとにかく中国と韓国はダメな国だと煽りに煽るという以外に中身はありません。
他に類似の書籍を出されている方でいうと
『韓国は日米に見捨てられ、北朝鮮と中国はジリ貧』(海竜社)を出されている藤井厳喜先生
『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇 』(講談社+α新書)を出されているケントギルバート氏
『中国不要論』(小学館新書)を出されている三橋貴明先生
『今こそ、韓国に謝ろう ~そして、「さらば」と言おう~ 』(飛鳥新社)でおなじみの百田尚樹先生
『悪中論 ~中国がいなくても、世界経済はまわる』(宝島社)でおなじみの上念司先生
『笑えるほどたちが悪い韓国の話』(ビジネス社)でおなじみの竹田恒泰先生
『髙橋洋一&石平のデータとファクトで読み解く ざんねんな中国』(ビジネス社)高橋洋一先生と石平先生の共著
、、、とチャンネル桜やそこまで言って委員会などでおなじみの面々が見事なまでに中国韓国本を一冊は書いています。
個人的に調べて見て興味深かったのは出版社が特定の企業によっていない点です。
要するに、この中韓崩壊論、中韓後進国論というのは「売れる鉄板ネタ」だと多くの出版社が認識しているということです。
「ビジネス」としてこれほど美味しいものはないですよね。今も本屋の新刊コーナーに行けばこの関連本が3−4冊はつねに並んでいます。
逆に言えば、「ビジネス保守」を名乗るにはこの中韓本を出す必要があるということなのかもしれません。
あなたがもし「ビジネス保守」となりたいのであれば、中韓がダメな国家であることを原稿用紙200枚くらい書ける能力をつければ行けるかもしれません。
自国批判の欠如
その反動でもあるのですが、「ビジネス保守」の方々というのは自国への批判意識が著しく欠如しています。
とにかく日本がすごいというのを連呼。
ある先生に言わせると自国への批判は「自虐史観」となるようで、「日本すごい」と言わない人間は「反日」だそうです。
先生方の考えはその著作物にも表れています。
その重鎮にはケント・ギルバート先生をまずは上げなくてはなりません。
先生の著作のラインナップは日本がとにかくすごい国なんだと繰り返し主張する著作だらけです。
そして、そのすごい国だと我々が思うことを妨害する中韓や反日メディアは許せないというおきまりのパターンがあるのです。
直近だけでも少なくとも4作品。
『世界は強い日本を望んでいる - 嘘つきメディアにグッドバイ』(ワニブックス)
『本当は世界一の国日本に告ぐ大直言』 (SB新書)
『日本人だけが知らない世界から尊敬される日本人』 (SB新書)
『日本覚醒』 (宝島SUGOI文庫)
そのほかにも多くの「ビジネス保守」の先生方が類型の作品を出しておられます。
『なぜ中国は日本に憧れ続けているのか 』(SB新書)石平先生
『日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか 』(PHP新書) 竹田恒泰先生
『官僚と新聞・テレビが伝えないじつは完全復活している日本経済 』(SB新書) 上念司先生
『経団連と増税政治家が壊す本当は世界一の日本経済』 (講談社+α新書) 同上
『米中貿易戦争で日本は果実を得る』(悟空出版)高橋洋一先生
・・・顔ぶれが中韓批判論者とほぼシンクロしているところが特徴的です。
こちらもやはり巨大ビジネスとして多数のベストセラーを輩出していますからビジネスとして旨味のあることはいうまでもありません。
朝日新聞叩き
最後がここまでも少し触れたメディア叩きです。
特に「朝日新聞」というキーワードはビジネス保守界隈では大人気で「朝日新聞」という言葉を入れるか入れないかで売り上げが大きく変わると言われています。
月刊HANADAやWILLなどは二ヶ月に一回は朝日新聞ネタで特集が組まれるほどでそれはそれは面白い光景が見られます。(朝日新聞じゃないときは韓国ネタか安倍賛美)
https://www.fujisan.co.jp/product/1281697388/b/list/
なお、この「朝日新聞」ネタで大もうけされたビジネス保守の方々が多数おられます。
『徹底検証「森友・加計事件」――朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪 』(月刊Hanada双書)小川榮太郎先生
『新聞という病』(産経セレクト)門田隆将先生
『崩壊 朝日新聞』 (WAC BUNKO 278)長谷川煕先生
『マスコミはなぜここまで反日なのか』(宝島社)ケント・ギルバート先生
などは増刷増版がされ中には数十万部売れたものもあります。
ビジネス保守について絶対に押さえておくべきこと
さて、いくつか書いてきましたが、これらの「ビジネス保守」と呼ばれる人たちをまともに取り合ってはならないという理由を書かせていただきます。
端的に言えば、それは特定の利害とベタベタだからです。
今のビジネス保守で言えば安倍政権という権力とベタベタです。
例えば上念司先生は加計学園でケント・ギルバート先生と並んで客員教授に拝命しておられます。
また、高橋洋一先生は首相に絶大な権力が与えられている国家戦略特区におけるコンサルとしての仕事を受けておられます。
(http://www.accessjournal.jp/modules/weblog/details.php?blog_id=8999)
ホットなトピックで言いますと、百田尚樹、上念司、ケント・ギルバート、竹田恒泰、有本香といった先生方は例の「桜を見る会」に招待をされていました。
— Dr.ナイフ (@knife9000) November 9, 2019
先生方の功績をすべて否定する気はありませんが、ここまで権力とベタベタの関係にある方々だと言論に説得力がなくなるというものです。
もちろんこういった関係性にある人であっても彼ら・彼女らのいっていることに心酔するということを否定しません。
しかしながら改めてですが一つ押さえておいてもらいたいのは特定の利害にベタベタな場所から物を言っている人だということです。
「保守」的であるためにすべきことについて
拙い認識ではありますが、「保守思想」というものは歴史に照らすと権力との距離感を大切にしたり、権力が暴走しないように警戒するという役回りをしてきたはずです。
それはエドマンド・バーク然り、マイケル・オークショット然り、三島由紀夫然り、トックビル然り、モンテスキュー然りなんでもいいんですが、「保守思想」として読み継がれているものはすべて「権力」というものを常に警戒していました。
かたや、これほどまでに権力と同化するという「ビジネス保守」の面々は「保守」とは言いがたいものがあります。
今回、なぜこのような記事を書いたかというと、「ビジネス保守」という物に無批判に従う人が昨今あまりに多いからです。
無理もありません。出版社や書店も戦略上書籍のいい場所に配置することもあってか「売れているからいい本なのだろう」という刷り込みが起きやすくなっています。
もちろんすでに述べたように、ジャンル自体を否定しませんし、表現の自由は尊重されるべきです。詳細に読めば学べるところも多数あるのでしょう。
しかしながら、これらを金科玉条のように読んでも自分のためになる考えがつくかは疑わしいということだけは認識が必要です。
「保守思想」をまなびたいのであれば、長らく語り継がれている物を直接読んでみることを個人的にはお勧めします。
読んでみるとビジネス保守とは正反対のことすら言っていることが多々あることでしょう。