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経済

デフレは悪いことなのか?

更新日:

「日本の失われた20年はデフレが原因だ」

「デフレ脱却をすれば社会は良くなる」

「デフレは新自由主義の陰謀だ」

 

デフレが悪であるという図式は長らく政治家や言論人の間でも主流的な考え方です。

この発想はジョン・メイナード・ケインズと呼ばれる世界的な経済思想を打ち立てた人に影響を受けたものだと思われます。

それどころか、賃金と物価の下落が行き過ぎると、重い負債を抱えた企業者は返済に喘ぎ、ほどなくして債務不履行にまで行くこともありうる。これは投資に対して重大な負の効果をもたらす。しかも物価水準の下落が国債の実質的負担に、それゆえ課税に対して及ぼす影響は、事業の確信にとって極めて有害となる可能性が高い。

『雇用利子及び貨幣の一般理論』ジョン・メイナード・ケインズ(2008)岩波文庫

 

一般的に「デフレが悪である」と考える人のお話を聞いていると、物価の下落は「貨幣を持っていたほうがいい」と考えさせたり、「負債を重くのし掛からせる効果がある」という考えをもたらし経済が活力を失うという観点からきています。

 

そして、逆に持続的にインフレが進む場合、貨幣価値が下がるので、投資に積極的になったり賃金アップにもつながるし極めて望ましいとのことです。

 

確かにそうでしょう。ただそれは常に当てはまるのでしょうか。

 

ちなみに今述べたインフレ万歳という発想は日本の高度成長期と現在を比べる所から来ていると思います。

『給与額(平均)と物価の推移』総務省より

 

しかしながら、いろいろ見ていくとあまり頷けないことが多々あるのです。

本当に「インフレ=善」で「デフレ=悪」は本当なのでしょうか。

 

私の結論は「良いインフレもあるが、悪いインフレもある。一方で、良いデフレもあるが、悪いデフレもある」という立場です。

「そんなの当たり前じゃん」って個人的には思っているのですが、いわゆる経済学をみっちり勉強した人に限ってこのプラグマティックな発想は受け入れられないようです。

 

今日は、「デフレ=悪」というパラダイムについていろいろと書いてみました。

 

■目次

良いデフレ・悪いデフレ
「デフレは悪」は思考停止
ただケインズ派と結論はわりと似ている

■良いデフレ・悪いデフレ

一般的にデフレが悪いことであると断言する人に見られる傾向としてあげられることがあります。

それはすでに述べたように高度経済成長期の日本を過度に一般化しているというものです。

下記のグラフは拝借したものですが、確かに高度成長期にはインフレがかなり起きていました。

消費者物価指数推移(1950年-2017年)(1950年の値を1.00とした時、持家の帰属家賃を除く総合)(全国)(2017年は3月時点までの平均値)

http://www.garbagenews.net/archives/2064125.html

そしてこれと連動して賃金も上昇していました。

 

『給与額(平均)と物価の推移』総務省より

それゆえに、インフレは良いもので最近続いているデフレは悪であるとなるわけですね。

 

ただ、これを書く過程でいろいろな「インフレが良いもの」と考える方々の意見を参照したところ、上のグラフの一例を過度に一般化している印象が拭えないのです。

 

ケインズも述べていたことですが、「賃金上昇」がついてこないインフレは悪です。

購買力が低下して人々の暮らしは苦しくなりますからね。当然です。だから購買力が上がらないならデフレの方がいいんです。

 

他の角度からみましょう。

ケインズ派を愛好する方々(三橋さんなど)を取り上げます。

彼らの話はとても勉強になることが多くしばしば聞かせてもらってるのですが、私は「デフレ=悪」論だけには賛同しかねています。

 

例えば、彼らがよく言っている言い分の代表に「ここまで長い間デフレになっているのは世界で日本だけ」(歴史的に見ても)というものがあります。

 

これは歴史を見ていくと少なくとも間違いです。下記は世界史の2016年センター試験でも出たミッチェルという方の有名な歴史統計を見てみましょう。

『イギリス歴史統計』B.Rミッチェル(1995)原書房

産業革命は18世紀の終わり頃から19世紀に起きたとても大きな社会の構造転換です。

この時、上にあるように100年間で起きているのは「デフレ」です。(一時的な物価上昇はありますが)

 

そして下記は産業革命期の賃金に関するデータです。

『イギリス歴史統計』B.Rミッチェル(1995)原書房

デフレ下で賃金が上昇しています。給料が上がっているのにお米の値段が下がってるんですよ。素晴らしいではありませんか?

 

つまり産業革命においてはデフレが悪いものであるどころか良いものだったのです。

 

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■「デフレは悪」は思考停止

そもそもリフレ派やケインズ派の方々はその依拠しているケインズの言葉を忘れています。

経済学者や政治哲学者の思想は、それが正しい場合にも間違っている場合にも、一般に考えられているよりもはるかに強力である。事実、世界を支配するものはそれ以外にはないのである。どのような知的影響とも無縁であると自ら信じている実際家たちも、過去のある経済学者の奴隷であるのが普通である。権力の座にあって天声を聞くと称する狂人たちも、数年前のある三文学者から彼らの気違い染みた考えを引き出しているのである。私は、既得権益の力は思想の漸次的な浸透に比べて著しく誇張されていると思う。もちろん、思想の浸透は直ちにではなく、ある時間をおいた後に行われるものである。なぜなら、経済哲学および政治哲学の分野では、二五歳ないし三十歳以後になって新しい理論の影響を受ける人は多くはなく、したがって官僚や政治家やさらには煽動家でさえも、現在の事態に適用する思想はおそらく最新のものではないからである。しかし、遅かれ早かれ、良かれ悪しかれ危険なものは、既得権益ではなくて思想である。

『雇用利子及び貨幣の一般理論』ジョン・メイナード・ケインズ(2008)岩波文庫

ケインズが古典派経済学を批判した書物の最後に述べた言葉です。

我々をきつく縛っている最大のものは「思想」であると彼は述べています。

 

「デフレは悪いものである」という考えはケインズ自体が最も戒めたことではないでしょうか。

 

良いインフレもあれば、悪いインフレもある。

良いデフレもあれば、悪いデフレもある。

 

 

それだけのことです。これこそプラグマティズムというものでしょう。

それでもまだご納得いただけない方に「インフレが一貫して続いている」アメリカを例に悪いインフレもあるということを書いていきます。(今まさにそうです)

『世界経済のネタ帳』より

 

いわゆる経済学の本場とも言えるアメリカは上の図のように物価が上がっています。

そしてみんな大好きGDPも増加しています。

 

IMFより

 

では、アメリカは日本より豊かで素晴らしい国と考えるのは正しいのでしょうか。

ベンジャミン・ディズレーリという人が述べたましたが、統計はしばしば「嘘をつくため」に使われるそうです。

(私も今統計使って話してるんで、「お前も嘘だな!」と疑ってください笑)

 

 

GDPというのは国内総生産のことを言いますが、、これは極端な話、移民を大量に入れて働かせたり、ザッカーバーグやベソスが100兆円稼いでいても増えていく数値です。(認識間違って当たらすいません)

 

ですので、物価上昇もGDPの増大も国民の生活には相関がある場合もない場合もあるのです。個々の人々がどのくらい稼いでいるかは全く見えません。

 

アメリカに関してはむしろ人々の生活をインフレの結果苦しめているとさえ考えています。

 

こちらのサイトがわかりやすくまとめてくださっていますが、GDPに加え国民の平均所得の上昇しているグラフも「国民一人一人の豊かさ」を示すのに良いものではありません。

https://messe.nikkei.co.jp/fc/i/column/market/127673.html

 

少しグラフを拝借します。

アメリカ商務省、国勢調査局より引用

ここで書かれているのは富裕層のみが所得をあげている傾向にあり中間層以下はほぼほぼ所得が増大していないということが見られます。ただこれでも平均自体は上がるということはおわかりいただけるでしょう。

 

これが素晴らしい世界でしょうか。

何が言いたいのかというとGDPだか国民所得の平均だかわかりませんが、マクロ的に国が豊かになっているように見えても実態は全く正反対のことが多分にあるということです。

 

賃金が上がらない中でインフレが先ほどのように進んでいるということは購買できるものが減り、結果としてより生活は困窮します。

仮に賃金が上がらないのであれば、国民にとってありがたいのは少なくともインフレではありません。デフレです。

 

 

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■ただケインズ派と結論はわりと似ている

最後にまとめを。

 

ネットを見ているといわゆるリフレ派を批判する水野和夫さんなどを「無責任な老害」とこき下ろす人がいます。

また、デフレ推進派はグローバリスト擁護者で売国奴だという意見もあります。

 

 

しかし、「インフレこそ素晴らしい」という発想の方が私は無責任だと考えます。

常にケースによるという考え方を忘れるべきではありません。

 

 

最後にデフレ脱却論客の言い分のおかしさについて改めてもう一度別の角度から批判します。

 

デフレ脱却の必要性を訴える人の根本には、必ずと言っていいほど「デフレの場合、現在貨幣を持っている人にとっては購買力が向上する。だから投資をせずに貨幣を温存しようとし、経済が停滞する」というものがあります。三橋先生や中野先生などもよくこのようなことを述べられています。

 

ただ、本当にインフレが緩やかに起きれば「貨幣価値が減るから投資しよう」となるでしょうか。今の日本には投資対効果に見合うものがそこまであるようには思えません。また、賃金デフレは「悪」ですが、デフレ自体が百害あって一利なしというのは少し暴論な気がします。(*中野さんの別著を読むと「賃金デフレ」と限定しているものもあります)

 

 

他にもデフレが絶対悪であるという論客の方にはおかしいことがあります。

「貨幣を溜め込むことが得であると考える人の撲滅」をしようとするわけですがこれは変です。

必ずしも経営者は自分のためだけから貨幣を溜め込んでいるわけではありません。(特に日本の場合)

 

日本政府は最近内部留保を賃金に還元するような働きかけに積極的です。

そして、マスコミも企業を守銭奴であるかのように批判しています。

 

しかし、実態は異なるのではないでしょうか。

確かに還元できる余裕があるのであればそれは良いことですが、すでに日本はアメリカなどより労働分配率は高いです。

 

そして、本質的には日本の社長の多くが「雇用を守る」ということを非常に大切にしています。

だから不況の時にリストラをしなくていいように備えている会社が多いのです。

 

 

アメリカのように業績悪化ですぐにリストラを断行しないのは日本企業の社長の多くが資金を手元に置いてあるためです。

 

 

もちろんこれがすべての会社とすべてのケースに当てはまるとは思いません。

 

しかしながら、一側面としてリストラしないために平時から備えているという解釈はできないでしょうか。

「溜め込んでいるのはデフレだからで、インフレを起こそう」というのはちょっと暴論です。

おそらく多少インフレが起こったところで貨幣をとにかく投資しようという論理にはならないと思います。

 

 

私がこの記事を通して伝えたかったことは幾つかありますが、本質は「デフレは悪とは言えないこともある」ということだけではありません。

 

マクロ経済学以上に伝統などが作り出してきた思想の方が我々の社会運営にとって極めて密接に影響があるということです。

 

日本がこれまでアメリカなどに比べて格差を抑制できてきたのは日本資本主義の精神があったからこそです。

 

アメリカ資本主義の精神(私的利害の追求を徹底するネオリベ)を真似ていれば今のアメリカのようにGDPや平均所得は上がっていくが多くの人が賃金も上がらない中で物価上昇に苦しんでいるという状況になっていたでしょう。これが良いことでしょうか。

 

 

おそらくマクロ経済学や大前研一のような人たちから学んでいけば日本も同じ道をたどるでしょう。

どちらの思想を選ぶかは自由でしょうけれども、アメリカに習うことが必ずしも良いものではない、むしろ日本の方が素晴らしいこともあるということを念頭にいただけると幸いです。

 

ちなみに青木さんや藤井さん、三橋さんに中野さんなどの考えについても批判的なことを書いてきましたが、私の結論は同じです。

 

資本主義を政治が組織化すべきだと思いますし、市場原理主義の行き過ぎを抑制する規制を今は多く行うべきだと。そして有効需要の創出のために公共投資も含めた財政出動をある程度増やすべきだと。ただその思考の過程が少し私と異なりました。

 

以上お読みいただきましてありがとうございました。

*まだまだ間違いがあるかもしれませんので、今後理論が変節するかもしれません笑

まあそれこそ学問ってことで許してください

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*ちょっと論がつまり切っていないので随時追記していきます。

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