「本をたくさん読んだほうがいいぞ」
あなたが教わった先生、あなたが尊敬する上司、あなたの友達から人生で一度は言われたことがある一言かもしれません。
そうはいっても毎日の忙しい中で本を読む時間がないという人も少なくないのではないでしょうか。
そんな本を読む時間がないけど本はやはり読みたいというお悩みを持っておられる方向けに今日は記事を書かせていただきました。
■本を読む時間がない理由
さてまずは、本を読む時間をあなたが確保できない理由について書きたいと思います。
早速ですが、これについて考えられる一つの理由を書きたいと思います。
こういうトピックにおいて一般的な「自称やり手のビジネスマン」は「スケジュール管理が甘い!」「優先順位をちゃんとつけろ!」「そんな甘えたこと言ってるから君は稼げないんだ」みたいな説教に入ります。
ただ、私はそのスタイルを取りませんのでご安心ください。
まあ彼らの言ってることも悪くないんですが、それができりゃ苦労しねえよというわかりきったことを言って終わることが多いんですよね。
さて、私の持論に入ります。
あなたが本を読む時間がない理由はたくさん読まなければならないという意識が生み出す焦していることが原因です。
本をたくさん読まないといけないと思うから逆に手がつかないということです。
有名な実験で、製品点数を減らしたほうがむしろ売り上げが伸びたみたいなものがありますがあれに近いと思います。
しかし、ご存知ないかもしれませんが、今や新刊だけでも1日に数百数千と出るのが出版事情です。
大量に現れてくるものをいかに速読できようが間に合いませんし、そこまで大量に出てくるとくだらないものが山のように含まれています。
ですので、本を読む時間がないと思っているあなたに出来るアドバイスとしては本をたくさん読まなければならないという意識を捨て、くだらない本を読まないというスタンスを醸成しましょうということです。
■昨今の誤った読書トレンド
ただ、あなたが「たくさん読まなければいけない」と思ったのは偶々ではなく昨今の読書トレンドがそうさせているのでやむをえないところもあります。
といいますのも本屋に行ってもらえればわかりますが「いかに早く読むか」を指南する本が多いこと多いこと。
例えば「20分で一冊読めるようになる方法」とかそういうのが結構あるし、そういうのが結構売れているんです。
しかしながら、こういった速読は「悪しきトレンド」であると断罪しなくてはなりません。
なぜなら、誤解を恐れずに言えば、ものの数分で読める本というのは「読む価値がない」「くだらない」本だからです。
私も読書をし始めた3年ほど前には出版社のマーケティングに騙されくだらない本を大量に消費していました。
そしてそれは単なる時間の無駄だったと言えます。
なぜなら、そのような大量に消費した本で内容を覚えているものなどほとんどありませんからね。
結果的に、本を読む時間がないほどに多忙なのにその少ない隙間時間を見事に無駄にしていたのです。
さてここで小休止。
おそらくこの記事をここまで読んでなんか偉そうに書いてるクソガキだなと思ってる方がいることでしょう。
確かにクソガキです。ただ、啓蒙するとかそういうたいそれた思いはありません。
自分と同じ愚行をしてもらいたくないというだけです。
このことを教えてくれたのは私の場合はゲーテでした。
しかし、総じて人々はわれわれ老人のいうことを聞かないものだ。誰でも自分で物事をよく知り尽くしていると考えている。それで人々はあるいはいろんな損をし、あるいは長い間それでいろいろと迷ったりする。けれどももう迷っている時ではない。迷うのは私たちの老人のしてきたことだ。君らのような若い人々がまだ同じ道を歩むとすると、われわれが手探りしたり迷ったりしたことが何の役に立とう。そうしてゆけばまったく進歩しないだろう。われわれ老人の誤りは許してくれるべきだ。なぜなら私たちには平坦な道がなかったのだから。しかし、のちに生まれてくる人はー世はその人からより以上なものを求めているー二度と迷ったり手探りしたりすべきではない。
『ゲーテとの対話』エッカーマン(1968)岩波文庫
まあ先代と同じ過ちを犯すなという彼の指摘に救われた私が次は誰かを救いたいなみたいな感じです笑
読書は仕方を誤ると数十分の積み重ねとはいえ膨大な時間を無駄にすることになります。
最悪のケースだとこの愚かな読書を続け一生を終える人も少なくありません。
本を読む時間がないほど忙しいあなたをくだらない本がさらに時間を奪いさらに時間がなくなっていくという負のサイクルが完成すると非常にまずい。
このサイクルは「何冊読んだか」「何ページ読んだか」を数えるためにくだらない本を読み続けるということになりかねず、一生抜け出せなくなる人が続出します。中身が頭に入らずカウントしてるだけ的な。
そういう意味で、改めてですが本を読む時間がない人にお勧めするのは「本を早く読む技術」を身につけるのではなく、「少ない本をじっくりと味わう技術」を身につけるということです。
ちなみに小林秀雄という著名な批評家がいるのですが、彼は『読書について』の中でまず一番に意識すべき読書術について私と同じことを述べています。
扨て、引っ込みがつきかねるから、私も私の助言を二三述べよう。これは読むことに関する助言だ、・・・無論大変有益である。
1 つねに第一流作品のみを読め
質屋の主人が小僧の鑑賞眼教育に、先ず一流品ばかりを毎日見せることから始めるのを方とする、ということを何かで読んだが、いいものばかり見慣れていると悪いものがすぐ見える、この逆は困難だ。惟うに私たちの眼の天性である。この天性を文字鑑賞上にも出来るだけ利用しないのは愚だと考える。こうして育まれる直感的な尺度こそ後年一番物を言う。
『読書について』小林秀雄(2013)中央公論新社 p28
「第一流作品のみ読め」と彼は指摘します。これほど簡潔で素晴らしい読書術もありません。
そして、この第一流の作品を書いた作家を一人見つけたらその人の全集から日記まですべて読んでいくのだと続けます。
一流の作家なら誰でもいい、好きな作家で良い。あんまり多作の人は厄介だから。手頃なのを一人選べば良い。その人の全集を、日記や書簡の類に至るまで、隅から隅まで読んでみるのだ。
そうすると、一流と言われる人物は、どんなに色々なことを試み、色々なことを考えていたかが解る。彼の代表作などと呼ばれているものが、彼の考えていたどんなにたくさんの思想を犠牲にした結果、生まれたものであるかが納得出来る。
『読書について』小林秀雄(2013)中央公論新社 p12
本を読む時間がない人ほど一流の作家を見つけ徹底的にそれを熟読し突き詰めるということが大切なのです。
くだらない本を1000冊高速で読んでも時間が無駄です。
本屋に入る前から勝負は決まってるんですよね。
■本を読む時間がない人におすすめの本
現代の市場原理主義社会においては「値段が高い」イコール「製品としても優れている」という等式がほとんど成り立ちます。
しかしながら、その原理から外れている数少ない例が書籍の世界だと思います。
具体的には、くだらない本が1500円することがあるのに対して、700円で世界的名著が読めたりします。
それゆえに選ぶ側にもある程度の技量が求められます。
しかしながら、本を読む時間がない人にとってテクニックを修練する時間もないでしょう。
ただ安心ください。
修行は不要です。
一つだけ守ってください。
「国語や社会などの教科書で出てきたことがある本を読むべし」というアドバイスです。
教科書でも出てきたことがあるというのは例えば、社会科だと下記のような人でしょう。
- ルソー
- ホッブズ
- オルテガ
- デカルト
- ソクラテス
- プラトン
- アリストテレス
- マルクス
国語だと下記のような人でしょうか。
- 吉田兼好
- 鴨長明
- 本居宣長
- 小林秀雄
- 三島由紀夫
- 孔子
- 内村鑑三
- 二宮尊徳
多分一人は名前を聞いたことがあると思います。
その一冊から読んでみましょう。そしてその作家が気に入れば徹底的に読み込み、もしその方がクリーンヒットでなければその人物に関連する偉人の本を辿っていきましょう。
いずれ自分が敬意を持ってすべての書籍を読みたくなる人に出会います。
その時おそらくビジネス書を1000000冊積み上げても得られないような感動を得られます。
私の場合はハンナ・アーレント、アレクシス・ド・トックビル、エドマンド・バーク、モンテスキューあたりはとても気に入ってすべて読みました。
特にアーレントについて言えば下記のような日記を読むくらいすべて目を通しました。
どの人が気にいるかは自分のその時々の境遇などで変わるため私がハマった人にあなたもハマるかはわかりません。
ですので、私のハマった人に飛びつく必要はありません。
まずは、一流の作家と言われる人物を辿りましょう。
本を読む時間が無い人が今日からまずやるべきことです。
以上、本を読む時間がない人向けに言いたいことを書かせていただきました。
改めてまとめますと、まず「たくさん読まないといけない」という前提に縛られることをやめましょうということです。
この前提に立つと何から手をつけたらいいのかわからないから何も手につかないというパターンに陥るかかたっぱしからくだらない本を読み続けて時間だけをただ無駄に使う展開が予想されます。
それゆえに、まずこの前提をなくし「時間がないのだからより厳選した本をじっくり読もう」という発想に切り替えることが大切です。そして、その「厳選した本」とはあなたが教科書で聞いたことがあるような方であれば誰でも構いません。
そこで出会う「一流の作家」を読み連ねていくことで自分が感動を覚える作家を探してください。
そして、見つかればその人の全集や日記に至るまで読み尽くすのです。
これが本を読む時間がない人が今日から実践すべき読書術かと思います。
さて、本屋に行ってみましょう。