突然ですが、あなたがもし「経済とはどういうものか」と聞かれたらどのように答えますか。
「うーん」と言葉に詰まってしまう人は少なくないのではないでしょうか。
別に私も経済の専門家でもなければ評論家でもありませんので同じレベルですので安心下さい。
「経済とは何か?」というのは非常に難しいと思うんです。
ただ、そんな私でも最近一つだけわかったことがあるのです。
経済というものはそれ自体では複合的にいろいろなものが絡み合っているため端的に説明することが難しいということですね。
例えば、経済を表すためにGDP、失業率、実質賃金、消費者物価指数、円安、デフレ、、、、などなど多くの言葉が使われます。
経済のある側面を表すためにこれらの経済指標は使われます。
ここで本題なのですが、この経済指標というのがどうも「我々の経済の理解を進めるもの」とは限らず、「我々を誤った方向へ導くことがある」のです。
このことは、やや極論かもしれませんが、「経済指標を盲信する人ほど現実の経済がどういうものかわかっていない」というアイロニカルな結果を生み出し得るのです。
今日は、現在経済を語る上で頻繁に使われるもののうちGDP(国内総生産)物価(インフレとデフレ)為替(円安と円高)を取り上げます。
■目次
▶GDPを増やせば国が豊かになる?
▶インフレは善でデフレは悪なのか?
▶円安は日本に有利で円高は日本の不況のバロメーター?
■GDPを増やせば国が豊かになる?
さて最もよく使われる経済指標と言っても良いのが「GDP」という言葉です。
こちら経済を勉強したことがない人でも言葉くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。
GDPという経済指標はGross Domestic Productの略称で、一定期間内に国内で産み出された付加価値の総額のことを指します。
直近でもGDPに関しては以下のようなニュースがありました。
『7~9月GDP改定値、年率2.5%増に上方修正 速報は1.4%増』
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL07HN9_X01C17A2000000/
直近3ヶ月はGDPが増えたようです。
いいことのように見えますよね。
ちなみに経済指標としてGDPに重点が置かれている理由について内閣府は以下のように述べています。
GDPは国内で一定期間内に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額。 “国内”のため、日本企業が海外支店等で生産したモノやサービスの付加価値は含まない。
一方GNPは“国民”のため、国内に限らず、日本企業の海外支店等の所得も含んでいる。以前は日本の景気を測る指標として、主としてGNPが用いられていたが、現在は国内の景気をより正確に反映する指標としてGDPが重視されている。
以前はGNPを用いていましたが、グローバル化に伴う企業の海外進出を鑑みて国内経済をより詳細に把握するためにGDPというものが生み出されたようです。
さてこの国内の付加価値の合計を示すGDPを増やせば日本は豊かになることのバロメーターだと多くの経済評論家が語っています。それも大学で経済学を教えているような人ほどそのようなことに疑いを持っていません。
一例として私が使っているニュースアプリのNewspicksの下記記事のコメント欄をご覧ください。経済の好調ぶりの根拠として雇用指数などで語る人もいますが、GDPを持ち出している人が少なくありません。
https://newspicks.com/news/2680394?ref=user_2234402
さて、この頭のいい人が諸手をあげて使うGDPですが、私は極めて疑わしい目を向けるべきだと考えている立場です。
あらかじめ前置きでお願いしますが、「専門家じゃないのに黙ってろ」はなしでお願いします笑 というのも私の勘では「経済学を学んだ人ほどこの経済指標を疑えない」と思うからです。
実は、安倍政権はGDP600兆円を達成すると下記のサイトでは書いているのですが、GDPを絶対視した場合に想定されるリスクをここでは指摘しましょう。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/gdp_2016gaiyou.pdf
それは移民政策の推進による国の秩序が崩壊するというものです。
というのもGDPは一定期間で国内で生み出された付加価値の合計ですので、極端に言えば移民を大量に連れてこればGDPを大幅に伸ばすことができるんです。
事実、みんな大好きマッキンゼー出身の大前研一はある記事でGDPを維持するために移民政策しかないと断言しています。
大前はこの中でドイツを例に移民を大量に受け入れることで労働コストを上げずに生産性を向上させ世界的にも高い競争力を維持していると絶賛しています。
失業率が低くても、足りない人手は移民で補うから労働コストは上がらない。だからドイツの国際競争力は高い。頑なに移民を拒み、モノづくりの基盤を海外に流出させている日本とは対照的だ。日本の場合、移民を入れる気もなければ、システムもない。私は『平成維新』を出版した25年前から「移民をしなければ日本の将来はない」と主張し続けてきたが、80年代のような泥縄式の移民政策ならやらないほうがいい
『長期衰退を止めるには移民政策しかない』 大前研一
もちろん大前もどんな移民でも受け入れろとは言っていないと述べています。
では彼の言う移民政策とはなんなのか。
移民政策で重要となるのは、計画性とスペックである。景気がいいときだけ工場や工事現場に放り込んで、景気が悪くなれば解雇して知らんぷり。そうやって追い込んでおいてトラブルを起こせば「これだから外国人は信用できない」では、移民は定着しないし、移民に対する国民の理解も進まない。
たとえば年間30万人という目標を設定したら、そのために必要な仕掛けを割り出して、5年計画なり10年計画なりで、環境をしっかり整備する。
「どういう人材が必要か」というスペックも大事で、ドイツの場合、必要な350種の職種がハッキリ定義されている。
シンガポールやオーストラリアにしても、「わが国はこういうスキルを持った人材が欲しい」と世界にアピールして、人材獲得競争を展開している。のんびり待ち構えているだけで、良質な移民が集まるほど甘くない。世界の国は優秀な途上国の人材を奪い合っているのだ。
『長期衰退を止めるには移民政策しかない』 大前研一
大前によればドイツやシンガポールはうまく受け入れる移民を選定する仕組みがあるからこれを真似して日本もやればうまくいくと述べているわけですね。
「俺は時代の先を見ているぜ」と自信満々の大前研一で日本の現状を嘲笑するというのが彼の論の典型的な組み方です。少し話が逸れたように見えるかもしれませんが、大前研一の考え方は極めてGDPという経済指標を信仰する考えから来ています。
労働生産性を高め付加価値の合計(GDP)を増やすために安価な労働力を海外から持ってくることを勧めていますからね。
ただ、私からすれば彼は化石人類です。
現実を見ていないから真剣味にかけているんです。だから嘘がつけるのです。
まず、ドイツは移民受け入れをそんなに首尾よくやれているのかを見ましょう。
下記は東洋経済オンラインの記事ですが、ドイツの移民政策の実態について大前研一のイメージとはまったく異なる状況が書かれています。
――これほどの規模の難民を受け入れるのは、少子化傾向にあるドイツが「将来の労働人口を確保するため」という報道があった。実際には、どうだったのか。
当時の国民感情から説明したい。まず、2015年の秋の時点でドイツ国民の多くが他国の困っている人を助けることができる「新しいドイツ」を誇りにし、ドイツのよい面を世界に見せたい、という思いがあった。新たにやってきた人が労働人口となってドイツを助けてくれるだろうという期待もあったが、大きな理由は「人道上」であって、次に「ドイツにとってもよい」という感情があった。
実際には、2015年に入ってきた難民・移民の中で現在正社員として仕事に就いている人は1割だ。当初は過度の期待があった。メルセデス・ベンツやシーメンスなどの大企業が「歓迎する」と表明したが、本当に難民を雇用した大企業はほとんどない。
『ドイツを悩ます難民積極受け入れのジレンマ』
もちろん本記事では移民政策により大前の述べたような少子高齢化にうまく対応できた事実があることは認めています。
しかしながら、上にあるように移民は優秀な人材としてきたのではなく、使い勝手の良い労働者として駆り出されたというのが大勢だったと指摘されています。(正規雇用を多くの大企業はしなかった)
下記に引用するリンクも移民政策に安易する政府への警鐘を記した良記事ですのでぜひご覧ください。
しかし、移民は本当に日本を救うのだろうか。耳に入ってくるのは「人口が何人減るから、外国人を何人入れて穴埋めしよう」という帳尻合わせの議論ばかりだ。政府からは、大量受け入れに伴う社会の混乱や、日本人が負担しなければならなくなるコストといった負の側面についての説明は聞こえてこない。『移民「毎年20万人」受け入れ構想の怪しさ』
少し長くなりましたがまとめます。
ここで言いたいのはGDPという経済指標は国にとってむしろ最悪なものとなる場合があるということです。
GDPが増えたとしても国内でテロがよく起きる国になりかねないのです。
これが豊かだと言えるのでしょうか。嘘つきは大前研一の始まりなのかもしれません。
GDPが我々にとって良いのは、日本人が自らの手で過去に比べて多くの付加価値を生み出せるようになった時です。場当たり的に移民を連れてきてごまかすととんでもないツケを将来払わされるのです。(現在そのようなことは測定できませんが。)
最もよく使われるGDPという指標こそまずは疑ってかかるべきであるということをまずはお持ち帰りいただければ幸いです。
■インフレは善でデフレは悪なのか?
さて続いては、「インフレとデフレ」と騒がれる物価に関する経済指標についてです。
こちらもよく聞くのではないでしょうか。
- デフレ脱却をなんとしても成し遂げる。
- インフレターゲットを2%に設定する。
こういったことを政府や日銀は頻繁に公言しています。
なにやらインフレが起きれば万事解決と言わんばかりのいいぶりですよね。
ただ、これもまた疑わしいと私は考えています。(嘘なんじゃないかと。)
私の見解はあまりに当たり前かもしれませんが以下です。
- 良いインフレがあれば悪いインフレもある。そして悪いデフレだけではなく、良いデフレもある。
常識的に考えて上のことは納得いくのではないでしょうか。
しかしながら、経済学を学ぶとこの常識がなくなるようです。
例えば、ロイターの黒田日銀総裁に関する下記のテクストをご覧ください。
黒田総裁はこの日も、日本の予想物価上昇率は「ゼロ%近辺から1%前後まで上昇した」が、「2%の目標にはアンカーされていない」と述べた。「当然、目標に向けて上下双方向のリスクに対応するのは極めて自然」とし、「原油価格や為替など(物価に影響のあるさまざまな要因を)無視してよいということはない。十分勘案しながら適切な対応をする」と明言した。物価の下落要因が原油などであっても、必要があれば追加緩和を辞さない姿勢を示し、「必要ならばなんでもやる」とも強調した。
『黒田日銀総裁、2%目標道半ばで原油動向「無視できない」』
https://jp.reuters.com/article/boj-kuroda-idJPKBN0JX0P420141219
ここの中でなにが書かれているのかをまとめますとインフレターゲットを2%でおいた黒田総裁の政策はその目標に届かず厳しい状況であることが書かれているのですが、これに関する黒田総裁の弁が「頭がおかしい」のです。
インフレ目標を達成できなかった要因の一つに原油安があったわけですが、これに対して残念そうに話すわけですね。(これは他の記事でも多数見られます)
「インフレは善でデフレは悪」で思考停止しているのです。
常識的に考えて原油安は「良い」でしょう?
原油安で困るのは石油王くらいです。
石油は普段使っていないと思っている人でも、電気を発電するのにも料理をするにも工場を稼働させるのにも使っていることをイメージして下さい。生活コストの多くに原油価格は影響を与えることがすぐわかるでしょう。そしてこの値段が下がることが不幸でしょうか?
今我が国では恐ろしいことにこの程度の常識もない人が中央銀行の総裁をやっているんですね。チンパンジーを運転席に座らせたらどうなるかはわかるでしょう?
確かにケインズは緩やかな物価上昇が望ましいと述べましたが、それにはいろいろ条件が付帯されているのです。国民の賃金が増えない中でのインフレは単なる害悪でしかありません。
それが次の為替の話にもつながります。
■円安は日本に有利で円高は日本の不況のバロメーター?
- 円安のおかげで日本企業の多くが過去最高益だった。
- 円安が戦後の日本の急成長を後押しした。円高ではダメだ。
こういった意見が未だに世の中では主流的ですね。
円安になると輸出に際して、国際市場における製品競争力が高まるから輸出大国の日本は円安にもう少し向かうべきだ、、、そんなことを経済評論家が言っています。
例によってこの発言も疑わしいことをここでは指摘していきます。
まず、円安の恩恵は思っているほど今の日本にそれほどありません。
下記の記事では円安と円高のどちらがメリットがあるのかということが検証されているのですが、円安万歳の論調ではありません。
下記の記事の調査では円高円安の立場が分かれています。
http://toyokeizai.net/articles/-/52633
確かに輸出を多く行う日経225にはいるような企業群は円安の恩恵を受けられるかもしれません。しかし、原材料(原油など)を輸入してものを作って国内で販売している会社はどうでしょうか。むしろ負担が増えるのです。
最近大企業が過去最高収益を円安で得たと報道されていますが、冒頭に挙げたGDPが同水準でここ数年推移していることを考えるとどこかが逆に減っていると考える必要があります。
その減っている一つが円安による原材料高で苦しむ企業などがあり得るのです。
(もちろん断定はできるものではありませんが)
他にも上の東洋経済の記事で興味深かったのがファーストリテーリングやニトリのような海外工場で作ったものを国内に逆輸入するような企業も円高の方が恩恵があると書かれています。ですので、大企業といえど円高のほうがメリットが大きい企業もあるようです。
それに加えて、円安恩恵の代表例であった自動車産業もその多くが昔とは異なり現地生産を増やしています。例えば、ホンダはアメリカに輸出する車の8割をアメリカ国内で生産しており日本からの輸入という構図はもはや存在しないと言ってもいいほどになっているのです。
誤解なきように補足しますが、通貨安が必ずしも害ばかりではないというのが私の立場です。例えばサムスンが日本の電気産業を駆逐したと言われていますが、あれは競争力以上にウォン安によるところが大きかったと言われています。日本の技術力が負けたなどと言われていましたが、為替の影響というのは過小評価できません。
いろいろ書いてきましたが、円安で恩恵をたっぷり受けられたのは遠い昔の話だということです。そのイメージで現在も考えると経済指標を誤って解釈してしまうということですね。「通貨安=良い」というプロパガンダが安倍政権によって貼られていますが、本当にそうなのか考える必要があるのです。
先ほども言ったように大企業が円安などで過去最高益を上げてもGDPは横ばいということは国内のどこかでGDPを減らしている要因があるということなのです。それが輸入物価の上昇で苦しむ企業たちの可能性があるわけですね。
以上となります。
他にも経済指標について書きたいことはあったのですが文字数の関係もありここで一旦終わりにします。お読みいただきありがとうございました。
私が伝えたかったことは一つです。
MBAホルダーだろうが経済学部教授だろうが、エコノミストだろうが信用できない可能性があるということです。肩書きの立派な嘘つきに騙されないようにしなくてはなりません。
かれらは事実 も情報も必要としていなかった。かれらには「 理論」があり、その理論に合わないデータはすべて否定されるか無視されたのである。
『暴力について――共和国の危機』ハンナ・アーレント(2000)みすず書房.
p.s
私が経済学者を疑うきっかけをくれた本を載せておきます。
理論を愛好するあまり現実離れしてしまう危険性を教えてくれたのはケインズとリストとポラニーでした。
経済学の国民的体系 (岩波オンデマンドブックス)|岩波オンデマンドブックス