今日から不定期で「今読むべきおすすめの本」として一冊ずつ多少丹念に紹介するという記事を書いていこうと思います。(自分で読み返すいい機会にもなるので)
私の極めて主観的なレビューと要約ですので、参考程度に読んでもらえれば幸いです。
第一回は保守思想の大家エドマンド・バークの『フランス革命の省察』を取り上げます。
エドマンド・バークというと私の中では勝手に超有名人なのですが、あまり教科書などには出てこないこともありあまり知名度は高くないようです。(先日読書会をやって初めて気付きました。)
ただ、思想史的にはかなり重要な方です。
プロフィールの詳細はウィキペディアに預けますが、「保守主義の父」とも呼ばれ、あとに続く保守思想家のほぼすべての人が影響を受けたと言われている人物です。
有名な思想家でいうとエマニュエル・カント、マイケル・オークショット、ハンナ・アーレントなどでしょうか。
今日は、この保守思想の聖典とも言えるエドマンド・バークの代表作『フランス革命の省察』をひきながら今この本を読むべき理由をかければと思います。
巷で「保守」を標榜している人間のデタラメぶりとバークのいう意味での「保守」がいかにかけ離れているかが見えてくれば幸いです。
■目次
▶「保守」の意味がわからない人こそ読むべき
▶教科書で美化されて語られる「フランス革命」の実態
▶大暴れする「自称保守」は売国奴である
■「保守」の意味がわからない人こそ読むべき
「希望の党は改革保守です。」
「私は闘う保守です。」
「保守」というキーワードがポツポツと政治家や評論家などから相変わらず出てくる今日この頃ですが、「保守」という言葉の意味をご存知でしょうか。
- 自民党?
- 安倍総理?
- 読売新聞?
- 百田尚樹?
確かに上に挙げたものは巷で「保守」と言われています。
では、逆に「保守」ではないとカテゴライズされるのはどういうものをさすのでしょうか?
- 朝日新聞?
- 民主党?
- 共産党?
- 枝野幸男?
- 辻元清美?
一般的にこれらは「保守ではない」(左翼)と呼ばれています。
さて、これらの成否はさておき今日における「保守」を巡る論争の中で2つ言えることがあります。
一つが、言論の世界においては「保守」と「保守ではない」勢力を二項対立にし物事を語るのが一般的であるということです。
そしてもう一つが、暗黙の前提として「保守」こそが「正義」であり、「保守ではない」のは「バカ」であるという見立てが主流的だということです。
こういった意味合いもあり言論の世界では「保守」という称号をめがけ多くの言論人が椅子取りゲームをしています。
「私が保守派だ」という人の多いこと多いこと。
ですから、私もバークの保守思想を知るまでニュースを見れば見るほど「保守ってなんなのかわかんなーい」という状態にありました。
では、あらためてですが、「保守」とは何かを考えてみましょう。
あらかじめ断りますと保守とは何かについての絶対的な定義はありません。
ただ、私の考えでは保守とは何かと聞かれたら次のように答えます。
保守的であるとは「保守思想」と歴史上カテゴライズされてきた思想家に近い考え方を持つことである。
具体的に言えば、モンテスキュー、トックビル、オークショット、バジョット、ヒューム、ゲーテ。。。。。などでしょうか。
前置きが長くなりました。
今書いた「保守思想」と歴史上カテゴライズされてきたその一人が今回あげるエドマンド・バークなのです。
すなわち、彼の代表作である『フランス革命の省察』を通して見えてくるバークの考えに近いことが「保守」的であることのコンセンサスを得るために避けられないのです。
もちろんバークを絶対視する必要はありませんが、この本から「保守とは何か」を考えることで少なくとも世間一般でカテゴライズされている「保守」を鵜呑みにするよりは良いと私は考えています。
早速ですが、エドマンド・バークにとっての保守とは何かを見ていきましょう。
『フランス革命の省察』の末の方に下記のようなテクストがあります。
国家のあり方を変えてはならぬと主張しているのではない。だとしても、あらゆる変更の目的は、これまで享受してきた幸福を今後も維持すること、すなわち保守に置かれるべきである。
『フランス革命の省察』エドマンド・バーク(2011)PHP研究所
ここに書いているバークの記載は保守とは何かを端的に記載しています。
つまるところ、「いかなる変化を取り入れる際にも現状を最大限尊重せよ」というものです。
よく勘違いされるのですが、「保守的であること」は「変化を一切拒むこと」ではありません。
エドマンド・バークは重ねて『フランス革命の省察』でまずは現実の良い点を見出せと述べています。
「国はこうあるべし」という自己の理論に酔うあまり、現実の国家に良い点を見いだそうとしない者は、本当の意味では社会に関心など持っていない。
『フランス革命の省察』エドマンド・バーク(2011)PHP研究所
安易な理想に流され現実を潰すことは非常にまずい考え方だとバークは釘をさします。
一方で、エドマンド・バークが徹底的に批判した考えを見てみましょう。
それは、革命思想そのものなのですが、具体的には「現状に対して抜本的な急速な変化を与えるほど望ましい」と考えることです。
少し長いですが、エドマンド・バークが革命派に強烈な批判を浴びせる理由について書かれている箇所を引用します。
今回の革命はとんでもないものだという確信は、結果的にいっそう強められた。現在のフランス政府の振る舞いについて、私はあれこれチェックし、遠慮なく批判してきたものの、これは以下の理由による。
革命を主導する連中は、時代を超えて人々の間に根付いた良識を軽んじ、新しい観念論に基づく社会制度を一から作り上げようとしている。けれども伝統的な良識の価値を重んじる立場からすれば、ほかならぬ革命派や、彼らが作りたがっている社会制度の方こそ、良し悪しをシビアに評価されるべきなのだ。
評価を下すにあたり、われわれは革命派の主張にじっくり耳をかすが、彼らの権威を自明のものと見なしたりはしない。歴史が育んださまざまな固定観念には、人間を望ましい方向に導く作用があるにしろ、革命派はそれら全てに背を向けた。
伝統を踏まえたバランス感覚にしても、公然と否定される始末。ならば当のバランス感覚を頼りにするわけには行くまい。この革命では、普通なら政治を行う際の指針となるものが何もかも捨て去られている。
『フランス革命の省察』エドマンド・バーク(2011)PHP研究所
ここでバークは「革命」とか言ってる連中はなんとなく胡散臭いと思っていたが、やはりよく見ていけばそのデタラメぶりは次々明らかになったと述べます。
そのような直観が湧いた背景には革命派が徹底的に今あるものを見ずに理想論ばかり語っていたからに他なりません。
■教科書で美化されて語られる「フランス革命」の実態
これまでの内容でおそらく次のような感想を持たれたのではないでしょうか。
フランス革命が、教科書で語られるような「良いもの」であるという印象がどうも一面的ではないかと。
一般的な理解としてフランス革命は悪党であるルイ王朝を市民が打倒することで自由や平等を獲得したという物語が主流的です。
そして、その思想基盤となったルソーは教科書でも大きく取り上げられる待遇です。
ただ、カーが述べたように「歴史というのはその解釈をする人で大きく変わる」とはまさにこのことかと思わされるわけですが、エドマンド・バークの予想したようにフランス革命は自由を獲得するどころかまったく逆の結果(恐怖政治と軍事独裁)になりましたし、改革の結果良い方向に行くどころかあらゆるところで問題が頻発する結果となりました。
ここでは、バークが指摘したフランス革命の問題点に関して具体的な事案を紹介します。
この具体的なケースはいずれ起こる恐怖政治の引き金となると彼は予想していたように思います。
まず一つ目ですが、当時の革命派は教会の権威を一切取り上げようと働きかけました。
具体的には土地の取り上げなどを行ったわけですが、伝統が紡いできた宗教の権威を否定することがいかに愚かな結果になるかをバークは次のように述べています。
しかるに宗教の権威を否定する者は、人々から格差に耐えるための拠り所を奪ってしまう。これでは働く意欲が起こるはずもない。勤勉の精神は、倹約の精神とともに忘れ去られるだろう。貧しいものや哀れな者は、結果的にますます追い詰められる。宗教を否定する者は、貧民の無慈悲な敵なのだ。のみならず、怠惰な者は、懸命に働いた者が得た財産や、蓄積された富を奪おうと暴れだすに違いない。
『フランス革命の省察』エドマンド・バーク(2011)PHP研究所
バークは、貧困を耐え凌ぐ上で非合理的な宗教が大いに役に立っているにもかかわらず、それを破壊したことでこれから秩序の崩壊やモラルの崩壊が起きると予言します。
もちろんこれだけがこの後の時代の社会不安の要因とは言えませんが、のちのフランスにおける暗黒時代の一要因となったことは否定できません。
2つ目を見ましょう。
革命派は国土を伝統を無視した幾何学的分割の実施しました。
権力を握ったとたん、祖国を荒っぽく引き裂いたのは、フランス革命政府が史上初めてではなかろうか。ここで注目すべきは、国土を幾何学的に分割した点にしろ、全てを数量で決めたがる傾向にしろ、革命派がまるで「外国から攻め込んできた征服者」のように振舞っていることといえる。
『フランス革命の省察』エドマンド・バーク(2011)PHP研究所
全文は載せられないのですが、幾何学的にフランス国土を分割したことで地政学的に不利な地位にある地方が衰退に追い込まれるであろうとバークはこのあと述べていきます。(ここではすでにその兆候が見えているとバークは指摘)
一見合理的に分割した革命派の取り組みが実は人間の生活のリアリティに当てはめた場合極めて最悪な結果となると彼は予言します。
最後ですが、急進的な改革を好むあまり政治制度の「手続き」まで破壊したとバークは指摘します。
何でも変えたがる革命派は、制度を整備する手順までひっくり返した。
まずは判事を任命する。彼らは一応、法律に基づいて裁判を行うことになている。ところが肝心の法律については、そのうち決めたら通達すると言い渡す始末。判事達が身につけてきた学識・・など、これでは少しも役に立たない。
『フランス革命の省察』エドマンド・バーク(2011)PHP研究所
革命派は「改革」を断行するべく、議会での熟議や手続きを放棄して法案を成立させたり、司法への介入し判事を選んだりともう無茶苦茶なことをしたとバークは指摘しています。
この他にもエドマンド・バークは革命派の改革のデタラメを列挙していくわけですが、バークは総括として以下のように述べます。
だが、法的な根拠もなければ必然性もなく、権力を手にした者の都合だけで生まれた政府となると、容易に祝福することはできない。それは悪徳や陰謀を基盤とした代物であり、社会のまとまりを乱すか、下手をすれば完全に破壊してしまう。
『フランス革命の省察』エドマンド・バーク(2011)PHP研究所
バークはフランス革命でお祭り騒ぎになっている段階で、これからフランスが滅びの道を行くと書いた上のテクストは残念ながら的中してしまいます。
■大暴れする「自称保守」は売国奴である
さて、今のエドマンド・バークの考えに基づいて日本で「保守」と言われている人について考えてみましょう。
スコープを当てる方として最も良いのが自称「闘う保守」である安倍晋三さん(とその支持者)でいいでしょう。
安倍晋三さんは自称保守なのですが、彼の政治思想をここで振り返りましょう。
まずは最も最近の施政方針演説(平成29年1月20日)を見てみました。
この中で安倍さんは「改革」という言葉を22回も使っているんですね。
逆に「守る」などの保守を連想させるキーワードが一つも見当たりません。
https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement2/20170120siseihousin.html
「あれ?おかしいなあ」となるのが普通の感覚かもしれません。バークの思想とは相入れませんからね。
しかも、安倍さんは最近「改革」という言葉では本足りなくなったのか「革命」という言葉を使い始めています。
安倍晋三首相は1日夜、第4次安倍内閣発足にあたって官邸で記者会見し、「一心不乱に政策を前に進め、結果を出す」「結果重視、仕事第一、実力本位の『仕事人内閣』が気持ち新たに始動する」と決意を語った。また「生産性革命」と「人づくり革命」の推進のため、年内に平成29年度補正予算案を編成する考えを表明した。安倍首相の冒頭発言の詳報は次の通り。
http://www.sankei.com/politics/news/171101/plt1711010045-n1.html
それを裏付けするように彼が断行した改革は国の秩序や伝統を根本からひっくり返そうとしているようにしか見えない政策ばかりです。
- TPP
- 種子法廃止
- 安保法案の強行採決
- 北方領土の主権放棄
- 外国人労働者の大幅な受け入れ
- 消費税増税の裏で法人税減税
その他、彼が今成し遂げたいとしている「一院制」「水道事業の民営化」「緊急事態条項」「道州制」などはさらに既存の秩序を解体する急進的なものばかりです。
これが「闘う保守」の正体なのです。
これのプレーンがT中H蔵なのです。
これを保守と持ち上げてるのがY新聞なのです。
これらをエドマンド・バークの保守思想と照らして「保守」と言えるでしょうか。
別に私はエドマンド・バークを絶対視するべきとは思いません。
バークでなくとも、古今東西のまともな保守思想を記した書物を拾ったところで結果は同じです。
今の安倍さんを「保守」と呼ぶのは無理筋です。
彼の取り組みは彼なりの保守なのでしょうが、その大半は見ていけばレントシーキングや売国政策と言って差し支えのないものばかりなのです。確かに昔の自民党は「保守的」な議員はいましたし、一定の勢力を保っていました。
しかし、今はもうその面影もありません。
民主党以上の売国勢力に成り下がっているのです。
「民主党よりマシ」ではなく、「民主党よりひどい」のが今の自民党がやってることなのです。
以上、エドマンド・バーク『フランス革命の省察』を通していろいろ書いてきました。
我が国における保守思想のおかしさと本来あるべき保守的である態度との乖離がどれほどあるか伝われば幸いです。
安易な改革を行いむしろ状況を悪化させている彼らを支持する理由などないのです。
前例のないことを試すのは、実は気楽なのだ。うまくいっているかどうかを計る基準がないのだから、問題点を指摘されたところで「これはこういうものなんだ」と開き直れば済むではないか。熱い思いだの、眉唾ものの希望だのを並べ立て、「とにかく一度やらせてみよう」という雰囲気さえ作ることができたら、あとは事実上、誰にも邪魔されることなく、やりたい放題やれることになる。
『フランス革命の省察』エドマンド・バーク(2011)PHP研究所
自称保守は国を滅ぼしかねないという教訓を『フランス革命の省察』は教えてくれます。
ぜひ実際に手に取ってみてください。
バークの処女作『崇高と美の観念の起源』もオススメです。合わせてぜひ!
ご覧いただきましてありがとうございました。