「歴史修正主義者」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
その正体は、現在のポストトゥルースという言葉と符合するとも言われています。
何故ならば、彼ら・彼女らは「事実」というものを受け入れられず、感情を満たすものを事実以上に「正しい」とするからです。
すでにここまでの文章を書いただけでもおそらく歴史修正主義者からは色々とツッコミがあるかもしれません。
しかしながら、こういった立場を歴史修正主義者と言わざるを得ませんし、そしてこの立場は批判されなければならないと私は考えています。
本日は、「歴史修正主義者」という立場に立つ人の正体と彼らの何が悪いのかを書かせていただきました。
「歴史修正主義者」の正体
まず、「歴史修正主義者」の正体について書いていきます。
頭ごなしに「バカ」「クズ」といっても何も進みませんので、少し冷静な記述にいたします。
結論から述べますと、もちろんその全てがこれに該当するわけではありませんが、「相対主義」という立場こそが歴史修正主義者の正体であると私は考えています。
「相対主義」というのは、「普遍的な意義のある概念なんてものは存在しない、存在するのは、土地ごと、文化ごとのローカルな決定だけだという態度」です。
これはポストモダン哲学という立場から派生もしくはそれをルーツにしていると言われています。
ポストモダン哲学の筆頭に来るのはフリードリヒ・ニーチェという人ですが、彼を筆頭に多くのこれに該当する哲学者たちは「一切のものは作られている」と考えたり、「普遍的に我々が信じうるものはない」と考えたりします。
二十世紀以降の思想哲学は多かれ少なかれこの土台の上に醸成されてきており、それが歴史修正主義にも受け継がれているのです。
「歴史主義者」の何が悪いのか
さて、この立場は何が悪いのかに話を移しましょう。
「差別」のような悪を積極的にではないにしても正当化しうる論理構造を内側に持っているという点になります。
これは本題にある歴史修正主義者の正体につながってきます。
なぜそのような論理構造を持てるのかというと先に触れた通り、相対主義はあらゆる価値観や意見をローカルに存在するものとする認識があるからです。
この相対化のプロセスは「内」と「外」に明確に線引きをすることで達成されます。
その結果、例えば違う場所の違う文化的条件のもとで生きている人のことを自分とは全然異なった他者として扱うようになるのです。「人間ではない」存在として。
直近で誰がということを上げることはここでは控えたいと思いますが、例えばナチスはポストモダンの開祖とも言えるニーチェの思想を大いに評価し理論的に取り入れました。
そして、あらゆるものを相対化し、ドイツ人の外部に「ユダヤ人」を据えることをし、彼ら・彼女らを非人間化することでホロコーストを正当化する論理を生み出したのです。
ポストモダンの哲学者の理論がほとんど全体主義につながっていることを指摘した人がいるのですが、「相対主義」の役割は少なくないのです。
「歴史修正主義者」に必要な新実在論
こういった歴史修正主義が大手を触れてしまう相対主義に対抗するものとして今人気のマルクス・ガブリエルは「新実在論」というものを提唱しています。
これを最後にご紹介します。
彼の考えはすんごくざっくりというと、普遍的な事実が存在するという前提に立ち善悪の議論をしていくべきという立場です。
それほど目新しさを感じないかもしれません。
しかし、この「当たり前」が今求められているとガブリエルは考えているようです。
例えば「議論しても相手と分かり合えないし議論しても無駄かも」「本当のことを言っても誰も喜ばないから嘘をついたほうがいいかも」といったような現代社会に膨らみつつあります。
この空気を彼は一掃しようとしているのです。
誤解してはならないのはこれは科学万能主義ではありません。
科学的なものやエビデンスベースも尊重しますが普遍的に存在する(と思われる)倫理も重視します。
時には倫理>科学となることを意味します。
これはサンデルが著書で紹介していた事例を絡めて話すとあるタバコメーカーがタバコを売るために衝撃の調査結果を出した例を挙げればご理解いただけると思います。
簡単に紹介すると、そのメーカーはある国でタバコの売り上げを高めるためにこれまでの常識であった「喫煙はがん発症のリスクを高め社会的にも医療費コストが増えるからやめさせるべきだ」というものに対し「タバコをガンガン吸わせたほうが(人が早く死ぬので)医療費コストがむしろ下がる」という結果を提出したのです。
この調査結果の正否はともかく、仮に正しいとしてもほぼ全ての人が「倫理的にまずい」と思うことでしょう。
この時々での普遍的正しさを追求し、評価するということをガブリエルは我々に求めるのです。
改めてになりますが、新実在論はそれが科学的にであれ倫理的にであれ「事実」を重視します。
これこそがポストトゥルース時代と言われ、歴史修正主義者がベストセラーを書くような時代にあって人々が知っておくべき哲学なのだとガブリエルは言うのです。
彼の思想は最近はじめて知ったのですが、私がいいなと思う点を最後に少し話します。
端的に言うと彼は「現実の問題」に首をつっこむのです。
これまで多くの哲学者は抽象概念の言葉遊びに終始したり、理想論を述べて終わっていたりした中で、現実の問題に首を突っ込み意見を述べていくのです。
もちろんこれをすることは敵を作りますから、アンチガブリエルが多いのは納得がいきます。
しかしながら、哲学にこれまで欠けていたものを補ってくれているという感覚を私にもたらしてくれました。
彼に賛同するもしないも自由ですが、ぜひ一度彼の考えに触れてみることをお勧めいたします。