最近ニュースを見ているとまた「新冷戦」と言われることが増えました。
アメリカと中国による貿易戦争(関税の掛け合いがメイン)は落ち着いたかと思えばまた燃え上がるということを繰り返しています。
今後もおそらくこのような緊張関係は続くでしょうし、世界的な経済の恐慌はこの両国間の小競り合いから起きる可能性もあります。
この何気なく報道されているアメリカと中国の対立ですが、実は21世紀の覇権を握る国家がどこになるのかを決める戦いであるとされています。
20世紀の覇者であるアメリカがその地位を守るのか、もしくは台頭する中国が追い抜くのかというものです。
個人的には、この両国の覇権争いがどう着地するかを見定めることは今後数十年先の世界秩序を見通す上で重要です。
例えば、20世紀通りアメリカ帝国が続くのであれば、アメリカ帝国の作った秩序の上で良いポジションどりをする必要があります。
しかしながら、仮にアメリカ帝国が崩壊するのであれば、色々と身の振り方を考え直す必要があるのです。(日本の対米追従外交はいいのかなど)
さて、この米中の覇権争いを見定める上で具体的なバロメーターがあります。
それは「5G」です。
「5G(generation)」は、第五世代通信システムのことですが、この5Gが世界にどう広がるかによってアメリカが覇権を維持できるか中国に譲ることになるのかが決まるということです。
その中で鍵を握る企業が表題にあるファーウェイという企業です。
ファーウェイというとスマホを製造している会社だとの認識が強くありますが、単なるスマホメーカーではありません。
アメリカの覇権をひっくり返す力があると言われています。
奇しくも、最近日本ではこのファーウェイを使うことがやばいことだと言われるようになりました。
- 中国共産党のスパイ?
- 情報を勝手に悪用している?
- 情報を盗用している?
しかし、この企業を単に「中国共産党のスパイ」だからやばい企業なのだと考えるのは短絡的です。
本日は主に下記書籍を参照しながらファーウェイはやばいので使うのはやめた方がいいのかというテーマについてまとめて見ました。
Contents
ファーウェイは何をしている企業なのか?
まず、ファーウェイという企業がどういう企業なのかについて簡単に述べたいと思います。
著書の中では次のように書かれています。
ファーウェイの現在の主な事業は、4分野に分かれている。第一に通信事業者向けの通信基地局建設や機器の販売。第二に一般企業向けの通信システムサービス。第三に一般消費者向けのスマートフォンやパソコンの販売。そして第四にクラウド事業である。
『ファーウェイと米中5G戦争』近藤大介(2019)講談社@新書
これはスポーツに例えるとサッカーも野球もラグビーも水泳もプロ級にできるという表現がいいかもしれません。
こんな企業は世界を探してもありません。
(ある人が言うにはAWSを提供するアマゾンと同等の力を持ちつつ、シスコシステム以上の通信インフラを提供し、サムスンと同等のスマホを開発できる・・・などと言われています。)
さて、そんなファーウェイの凄さは代表的なものとして3つの数字に表れていると著書では述べられています。
スマートフォン世界シェア2位
最新機器が販売中止になるまでは日本でも「ファーウェイ」という名を目にすることが多くなっていた人は多かったように思います。
その認知度を高めたのは他でもないスマートフォンの拡販があります。
日本ではiPhoneがまだまだ盤石で格安スマホの一角というイメージがありますが、実は世界のスマートフォンシェアは1位がサムスン、2位はファーウェイとなっているのです。【3位がiPhone,4位はXiami(中国), 5位はOPPO(中国)】
https://japan.cnet.com/article/35136558/
米中貿易戦争で販売停止が世界各国で起らなければ今年は日本でもiPhoneについで2位、世界で言えばサムスンを抜いてトップを取っていたとさえ言われており、強力なHWを保有しています。
興味深いのはファーウェイはOPPOやXiaomiのように低価格のラインで勝負しておらず、10万以上の高価格帯でのハイクオリティで勝負している点です。
数年前の中国は「安いけど品質は・・・」と言われたものですが、最新の機種などを見れば他国のものと比べて劣るどころか優れているとさえ感じるものとなっています。(あくまでここは主観ですが。)
通信基地局世界シェア2位
続いて、通信基地局です。
こちらが5Gの覇権争いにおいてファーウェイがアメリカから目の敵にされている中核部分の事業です。
イメージしずらい方のために補足すると、通信基地局というのは、ドコモやKDDI、ソフトバンクなどが移動体通信事業を営む上で設置する電波塔(インフラ)のようなものです。
ですから、基地局のクオリティ次第で我々が使うスマホの使用感が大きく変化するのです。
この社会のインフラを司るといってもいい通信基地局でファーウェイは世界第2位のシェアをとっています。【1位はエリクソン(スウェーデン)、3位がノキア(フィンランド)4位がZTE(中国)】
2位というと「圧倒的」感がないと感じるかもしれませんが、こちらもトランプによる妨害の影響がかなりあります。
例えば身近なところでいうと、日本ではソフトバンクが4Gにおいてファーウェイの通信基地局を採用していましたが、5Gではトランプのファーウェイ攻撃以後見送りせざるを得ない状況に追い込まれています。
こうして妨害を受けてファーウェイはかなり苦しんでいますが、、、実は多くの中国通エコノミストなどが「まともに勝負をすれば他の企業は太刀打ちできない」と指摘しています。
理由はいくつもありますが、例えば他社の5Gの基地局は一つ運ぶのに大型トラックが必要なのに対してファーウェイの基地局はわずか20キロでリュックサックでも持ち運べるものだと言われています。
これが何を意味するのかというと、「5Gを使うならファーウェイしかないよね」という結論に至る可能性が高いということです。
多くの国はできれば5Gだからといって新しい予算・人員・スペースをなるべく割かない形を希望しています。当然です。
我々だって、スマホを「あのサイズだから使っている」訳で、畳一枚ぶんくらいの大きさだったら使おうと思わないでしょう?
特にEUなどのスペースに余裕のない国では現状の4G施設とは別に新規に5G用の基地局を立てることを懸念しています。
そういった中で、トラックで運ばなければならない巨大な装置を新規に置くのに比べて、既存の4Gを設置している基地局の上に乗っけるだけならばどちらを使いたいかはいうまでもありません。
特許数世界ダントツの1位
最後にファーウェイをこれから覇権を握る企業であると述べる最大の根拠は「特許数」です。
特許というのは企業の力を示す一つの指標です。
下記はその世界の特許数ランキングなのですがファーウェイが圧倒的なのです。
組織別では、Huawei Technologies(ファーウェイ)が過去最高の5405件で2年連続1位。2位には三菱電機が入った。前年に2位だったZTEは、前年比29.8%も減らして5位に転落。
上位10組織は以下のとおり。10社中6社がアジア勢。トップ10の日本企業は三菱電機のみ。2017年は4位に三菱電機、9位にソニーが入っていた。
1位:ファーウェイ(中国)、5405件
2位:三菱電機(日本)、2812件
3位:Intel(米国)、2499件
4位:Qualcomm(米国)、2404件
5位:ZTE(中国)、2080件
6位:サムスン電子(韓国)、1997件
『2018年の世界特許出願、ファーウェイが2年連続1位--アジア勢が初の過半数に』c-net 2019年3月26日
2位に対してもダブルスコアに近い差をつけているファーウェイのポテンシャルは相当なものがあります。
企業としての底力は例えばアメリカが経済制裁を発表していく過程でも見られました。
Androidの使用に制限をかけると表明をした時、ファーウェイは独自OSを開発しているので問題ないという声明を出しました。(https://buzzap.jp/news/20190705-huawei-hongmeng-ark-os/ )
iOSとAndroidというアメリカが開発したOSを止めると言われたらおそらくどの国も「お手上げ」「降参」となるでしょう。
しかし、それに切り返す技術力を持っているのがファーウェイという会社なのです。
ファーウェイは中国共産党のスパイだからやばいのか?
ここまでファーウェイという企業がいかにすごい企業であるかということを述べてきました。
改めておさらいになりますが、ファーウェイは単なるハードウェアメーカーではありません。
これからの社会の「インフラ」を作りうるポテンシャルがある企業です。
さて、ここからが表題についてです。
この圧倒的力を持つファーウェイを快く思わない国があります。
それがアメリカです。
昨年頃から急にアメリカが「ファーウェイは中国共産党とつながっているやばい企業だから安全保障の観点から使用を停止すべきだ」と盛んに述べていたことを記憶している方も多いでしょう。
トランプ大統領の圧力に同調する形で、日本やヨーロッパのいくつかの国も追随する形の対応を取ると声明を発表しました。
アメリカのこの煽りの効果は凄まじいものがありました。
例えば、日本においてファーウェイはシェアが一瞬で3分の1になりました。
我々日本人も多くが「やばいスマホ」という認知をぐっと高めたことが定量的に伺えます。
スマートフォン(スマホ)の販売台数でファーウェイのシェアが激減している。BCNランキングで日次の販売台数シェアを集計したところ、問題発生直前の5月15日に15.3%でアップルに次ぐ2位だったファーウェイのシェアが、直近の5月22日に5.0%と3分の1に縮小したことが分かった。
『ファーウェイのスマホ、シェアが3分の1に激減、経済制裁決定後1週間で』BCN 2019年5月26日
https://www.bcnretail.com/market/detail/20190526_119771.html
さすがはアメリカと言わざるを得ません。
しかし、このファーウェイ評価は実はアメリカの「いちゃもん」レベルでしかありません。
なぜなら、「ファーウェイがやばい」ということをアメリカ側はまともに証明してないのです。
むしろ、ファーウェイが潔白であるということが明らかになるという展開になっています。
逆に、ファーウェイが「無罪」という証拠は出てきている。例えば、孟晩舟会長逮捕で揺れていた2018年12月17日、日本で信頼を得ている機器分解調査会社「テカナリエ」が、ファーウェイの当時の最新スマートフォン「Mate20 Pro」を分解した結果を公表した。<全ての半導体チップが存在する領域を細かく、1個1個チェックを行ったが、「余計なもの」は全く存在しなかった。>
『ファーウェイと米中5G戦争』近藤大介(2019)講談社@新書
このケースからわかるのは、アメリカという国家はろくに何も調べたわけでもなく「ファーウェイは中国共産党のスパイ」と振りまいていたならず者だったということです。
アメリカの方がやばい国家なんです。(我が国にもいる愛国カルト界隈と言ってることが変わりません。)
なお今の引用部分を補足すると、ここにある孟晩舟さんというのはファーウェイのCFOの方なのですが、実はアメリカが難癖をつけ急に逮捕しています。
これを見るとどちらが反社会勢力か見方が変わるのではないでしょうか。
こういうのをするのは中国だというイメージがあるかもしれませんが、やったのはアメリカなのです。
当時、このファーウェイの一件を見てイラク戦争と同じ構図だと思った方は多いでしょう。
ファーウェイを切るという選択は正しいのか?
最後にこの話題に絡めて今後の日本がどうなっていくかについて述べたいと思います。
今、このテクノロジーでトップをこれから走るであろうファーウェイを切ろうとしているのが日本です。
もちろん民間レベルでは「ソフトバンク」はファーウェイという会社の先見性を見抜いていました。
それゆえに先ほど触れたように基地局を4Gの段階からファーウェイにしていました。
このブログでは最近孫さんに批判的なことを書いていますが、ここは経営者としてさすがとしか思いませんでした。
しかし、日本の国家的決定に対してソフトバンクと言えども屈するしかなくファーウェイからの撤退を余儀なくされています。
この日本が行う徹底した対米追従はあとで振り返った時に大きな歴史の汚点であったと述べられる日がくるとさえ私は考えています。
確かに、テクノロジーはこれまでの軍事用途で使われてきたのは事実です。
それゆえに、ファーウェイが中国政府とつながっていないなどとも思いませんし無警戒でいていいとは思いません。
しかしだからと言って、「ファーウェイはやばいから使うのをやめるべきだ。」という論理はいささかアメリカの論理に乗っかりすぎです。
仮に、その考えをするならば「アメリカ」という国にも適応しないのはフェアではありません。
スノーデンの暴露話を聞くまでもなく、グーグルを筆頭に多くの企業が個人情報に関して「疑惑」はつきまとっています。
日本としてすべきはアメリカと中国双方を警戒しつつ最も国益に資する選択をしたたかにとることでしょう。
アメリカに追従して5Gの基地局で世界的に競える企業はありません。
日本はサムスンと開発する方向でやっているようですが、最悪の結末がありえます。(てかあんだけ韓国を危険視しておきながら通信インフラがサムスンなんです笑)
最後に〜我々の物の見方について〜
余談ですが、日本人の多くは無意識にアメリカに肩入れする物の見方になりがちです。
0と100ではないもののメディアがアメリカに肩入れするような報道をしているからなのでしょう。
かたや中国のこういった技術力の凄まじさについてはまだまだ認知するような報道は少ないように思います。
かくいう私も長らく無意識に欧米優位の思想を持ってきました。
転機はエマニュエル・トッドの『帝国以後』やアンドレ・フランクの『リオリエント』を読んでからです。
これらの本はいかに我々が無意識に欧米優位の考え方をしてしまっていたということを教えてくれる本です。
実は、アメリカほど厄介な国もありません。
このまま日本が追従を続ければカツアゲをされ続けてすってんになるのは時間の問題です。
5Gに限らず、日米FTAなどもアメリカの要求丸呑みの日本がこれから栄えるとはどうも思えないですね。