私は読書というと基本古典しか読まない人間です。
ただ、少し前まではビジネス書と呼ばれる類のものも読んでいたものでした。
若手が集まる読書会なんかにも顔を出していたのですが、意識の高い20代の方々の多くが読んでいた本があるのです。
その一つが『採用基準』でも有名ですが、伊賀泰代さんの『生産性』という本です。
こちら結構売れたらしくアマゾンでもランキング上位に入っておりました。
本屋でも平積みにされていたのを見た方が多いのではないでしょうか。
しかしながら、改めて読んで思ったのですが学ぶことがないですね。むしろ害しかない。
当時ハマっていた自分が恥ずかしい。
多分こういうことをいうと「お前馬鹿だな」とか言われそうですね。
ただ、相手がマッキンゼーにいたから正しいというものでもありません。
私は大前研一もマークしているのですが、マッキンゼーの方々はどうやら数字を使って物事を説明するのを好むのですが、その数字自体がデタラメだったりすることが少なくないんですね。
今日は、自戒も込めて伊賀泰代『生産性』に関する辛口の書評を書かせていただきます。
■目次
▶「日本生産性が低い」と断言するけど本当なの?
▶あまり知られていない本物の「反日」
▶マッキンゼーだろうが大学教授だろうが、、、
■「日本生産性が低い」と断言するけど本当なの?
そもそも論から始まるのですが、なんで「日本のホワイトカラーは生産性が低い!」と断言できるのか?という率直な疑問から始まります。
いやすごいんですよ。
伊賀泰代『生産性』の中では、「マッキンゼーでは、、、」「アメリカでは、、、」と対照的に「日本は生産性が低い。例えば、・・・」といった論法の繰り返しなんです。
まあマッキンゼーという頭の良いと言われることが定着した会社でそこで長年やってきた人がいうと「そうなのかなあ」と思ってしまいますよね。
しかも「無駄な会議」などの例を持ち込まれると、確かに「無駄な会議あるしなあ」という自己の体験からも「ホワイトカラーは生産性が低い」という刷り込みが始まります。
ただ、私は空気読めないですし、相手がマッキンゼーの人だろうが思ったことを言ってしまおうと思います。
「日本のホワイトカラーの生産性は低い」なんて断言できません。
しかもその根拠は何一つ著書には載っていません。結論ありきです。
ちなみに好意的に解釈しまして「あなたたちはそんなこと言わなくてもわかるわよね」的な感じなのかなと思い、日本の生産性が諸外国に比べて劣るのかを調べてみました。
伊賀泰代『生産性』においては「ホワイトカラーが」という趣旨でしたが、ホワイトカラーに限定したものがなかったため、一般的な労働生産性の比較のものを引っ張ってきました。(多分ここも伊賀泰代『生産性』の思い込みが激しい箇所)
下記の伊賀泰代『生産性』を持ち上げる記事でも「OECDが・・・」と書いているので多分続けて書いていく調査結果を参照して問題ないと思います。
http://biz-journal.jp/2016/12/post_17593.html
公益財団法人 日本生産性本部という団体が労働生産性の国際比較というのをやっていました。
そこでは、OECDが発表する生産性ランキングが載っています。
その算出方法はGDP(国内総生産)を人口で割るというものでした。
日本の国民1人当たりGDPは、37,372ドル (394万 円)で、35カ国中18位だった。これは、米国のほぼ2/3の水準にあたり、OECD加盟国平均(40,089ドル/422万円)を若干下回る水準である。主 要国と比較すると、フランス(39,813ドル/419万円)やイタリア(36,072ドル/380万円)とほぼ 同水準である
『労働生産性の 労働生産性の 国際比較国際』2016 公益財団法人 日本生産性本部
http://www.jpc-net.jp/intl_comparison/intl_comparison_2016R2.pdf
これを見ると確かに日本は先進国の中で真ん中より下ですね。(35カ国中18位)
他のニュースも見てみたのですが、下記の記事でも日本は生産性が低いというのが数値をもとに示されています。
2015年のG7諸国の労働生産性は、米国が最も高く、一労働時間当たりのGDPで68.3米ドル(名目購買力平価換算)。次いでフランスが67.5米ドル、ドイツが66.6米ドル、イタリアが53.6米ドルと続いた。日本は45.5米ドルでG7諸国中最低となり、OECD平均(51.1米ドル)を5.6米ドル下回った。
ただ、私はこの数値を見て日本はダメだという伊賀泰代『生産性』の主張に違和感を感じました。
幾つかあります。
一つ目が、算出方法です。
この指標は就業人口でGDPを割っていません。
高齢者の比率が高い日本は生産性が低く出てしまうのではないでしょうか。
(調べたら高齢化比率は先進国の中でも上の方でした。)
だから、数値として生産性が低く出るのはある程度仕方ないんです。
続いてが、GDPという指標がグローバル化した社会でその国の人が生み出したとは限らないということです。
何が言いたいかというと移民を大量に入れてるアメリカやドイツ、フランスはGDPを底上げしやすいんですよ。
先ほどのマイナビの記事でG7の上位3カ国はアメリカドイツフランスでしたが、すべて移民国家です。
*フランスは受け入れを減らしているものの現在いる人が多い。
日本は最近急速に移民を受け入れ世界5位の移民受け入れ大国と言われていますが、まだ世界的に見れば総数は多くありません。
要するに、移民を大量に入れれば、単純に安い賃金労働力が手に入るので先ほどの生産性向上指数に寄与しやすいということです。
3つ目ですが、私が元々SEやってたこともあるのですが、オフショア開発というのをご存知でしょうか。
現地法人にいる優秀なプログラマーに開発をしてもらうのです。
あれだと例えば取引しないのでそのまま付加価値として乗っけられます。(完成品だけファイルをもらってその人が作ったことにするなんて容易なんです。)
IT企業の比率が時代を経るごとに増えるのを見ていけばこのような経路で「生産性」を偽装することができるのです。極端な話、インドで100人のプログラマーに仕事をやってもらい日本に社員を一人置いて納品だけをさせればその日本人はとても生産性が高いということになるのではないでしょうか。
多国籍系のIT企業なんかはよくやっているので自国の雇用を奪っていると批判されることもありますが、統計上GDPはいくらでも増やせるんです。
ちなみに他にもたくさんあります。
一つが、途上国でめちゃめちゃ安く作らせたもの(仕入れ価格の下落)を箱詰めだけして高く売ればどうでしょう。生産性上がると思いませんか。これも国の生産性を操作する容易な方法です。
あとは為替や資源価格ですね。
日本のような産油国でない場合特に原油価格で景気が決まると言って良いくらい大きな影響があります。原油価格が下がれば生産性の数値は改善します。
これって「生産性」?笑
結論としては、伊賀泰代『生産性』はこれほど複雑な要因が絡み合っている「生産性」指標について疑うこともなく単純なGDPを人口で割った結果、「日本人は低い」と断言しているのです。
生産性は高いほうがいいですが、この統計だけを見て日本はダメだっていうのは「結論ありき」としか言いようがありません。
経済学や数学が得意な人は理論を見ているうちに現実を見失っていることが少なくありません。
こういう人がおそらく財界や政治の場所にも増えているからこそ「移民を入れよう」となるんでしょうね。
ちなみに大前研一も移民を入れろと言ってました。
どんなに有効な少子化対策を打って出生率を高めても、間に合わない。とすれば50万人のギャップを埋めて、日本の長期衰退を回避する方法は1つしかない。「移民政策」である。
『長期衰退を止めるには移民政策しかない』PRESIDENT 2013年9月30日号
フェルミ推定をする前に現実を見ようぜってことですね。
■あまり知られていない本物の「反日」
「朝日新聞」「毎日新聞」韓国、中国
こういったものは「反日メディア」「反日国家」と言われますよね。
そして、これを攻撃するのが最近日本の世論のおきまりの流れです。
しかしながら他にも反日がいるんですね。
それが今回挙げている伊賀泰代や大前研一をはじめとした新自由主義者やグローバリストですね。
こういう人たちは目先の金儲けのことしか考えられないので、口を開けば「ROE」や「日本はダメだ」と言います。
まあひどいですね。
エドマンド・バークという人が「バカは改革のリスクがわからない」と言いましたが、まさにそういうことです。
あの人たちは移民を入れると秩序が崩壊するとか、農協を守ることで昔の国柄を守れるといった他の側面から物事を考えられないんです。
だから発想が「日本はもうダメだからアジアに売って出ろ」とか「マッキンゼーでは、、、」程度のものしか出てこないんです。
2008年のリーマンショックを見てグローバル化がやばいってわかったのに未だにこんなことを言ってるのかと最近呆れることが多くなりました。
「時代の先を行っている」かのように見えている伊賀泰代、大前研一の方がよほど現実が見えてないと断言して良いでしょう。
今や多くの国家がいかにして「攘夷」を行うかを考えています。
菅直人や安倍晋三のように「開国だ!」「保護主義に対抗する」なんてのんきなことを言ってるのは日本のビジネスエリート層だけです。
■マッキンゼーだろうが大学教授だろうが、、、
いろいろ書いてきましたが、伊賀泰代『生産性』は反面教師として読むには非常にオススメの書であるという書評を書かせていただきました。
彼女には「自分の頭で考えよう」という本があるらしいのですが、まさに自分の頭で考える力が彼女の本では試されます。
彼女は著書の中で、「日本のホワイトカラーは生産性が低い」と決め打ちして、「製造業はましだが、、、」とか「アメリカでは、、、」と後付けの論理を作り込んでいるだけのようにしか私には見えませんでした。
今は、日本のオピニオンリーダーが「グローバリズムカルト」「新自由主義カルト」に汚染され、朝から晩まで「日本はダメだ」「日本をリセットする」「アジアに打って出ろ」と平然と言われる時代です。
他の国でこのようなことを言えば袋叩きに合うはずなのですが、日本人はアメリカさんの冠には頭が上がらないみたいで、「マッキンゼー」とか「ハーバード」とか「MBA」とかつけば頭が上がらないのかもしれません。
ただ、これらのカルトに入信している人は物事をそれほど真面目に考えているとは思えません。真に考えているのであれば、現状をもう少し尊重するという立場や日本の良さを少しは振り返るものだからです。
にもかかわらず諸君は、あたかもフランスがずっと未開の野蛮国であったかのように、全てを新しく仕切り直した。自国のあり方を全面的に否定して改革に走る、これは出発点からして間違っている。元手もないのに商売を始めるようなものではないか。
『フランス革命の省察』エドマンド・バーク(2011)PHP研究所
今日本から失われているのは「イノベーション」でもなければ「抜本的改革」でもなければ「リーダーシップ」でもありません。
「保守の精神」です。