最近自民党総裁選があるとのことで、安倍さんと対立候補である石破さんが積極的にメディアに出ていますね。
基本的には安倍さんが当選するというのは規定路線と言われているところですが、石破さんは粘りを見せられるのでしょうか。
さて、安倍さんはこれまで経済関連のワードをメインテーマにしてきましたが、今回は「憲法改正」というのをしきりに言っています。
「憲法改正こそ自民党の党是だ」ともおっしゃっておられ高い使命感を背負って憲法改正を実現しようとしています。
さて、私は憲法改正はするべきという立場ですが、安倍さんの手による憲法改正は絶対にするべきではないという立場です。安倍さん及びその周辺の人たちは現在の日本国憲法に呪いの言葉をかけるようにすらなってきていますが、安倍さんの手による憲法改正と比較すれば今の日本国憲法は素晴らしいものです。
今日は、安倍さんによる憲法改正の問題点について書かせていただきます。
■安倍さんは憲法が何かをわかっていない
突然ですが、質問です。
あなたは下記のような人見つけたらどう思いますか?
- 法律を知らない弁護士
- 医学を学んでいない医者
- 保険の知識がないライフプランナー
- ペーパードライバーのタクシー運転手
絶対に頼れないですよね。
そして、その職務に携わるべきでないと思うはずです。
しかしながら、驚くなかれ。まさにこのような悲劇が今の日本を襲っているのです。
今の日本では憲法改正が必要だと言っている人が「憲法とは何か」を知らないんです。
安倍さんの「憲法観」については過去にもこのブログで紹介してきましたが、改めて復習しましょう。
安倍さんは憲法とは何かについて下記の動画でこう述べています。
憲法についてですね、考え方の一つとして、国家権力を縛るものだという考え方がありますが、これはまさに王権が絶対権力を持っていた時代に主流的な考え方でありまして、今まさに憲法というのは、日本という国の形、そして理想と未来を語るものではないか。
(2014年2月3日 衆議院予算委員会において)
安倍さんは憲法について「国家権力を縛るもの」という考え方は古いという持論を展開しています。そして憲法が国の「理想と未来を語るもの」と述べています。
なおこれは言い間違いではなく、この動画の後半で示されているのですが、別のところでもう一度同様の答弁をしていました。
さて、この憲法観をいつもは官僚の作成した答弁書を棒読みの安倍さんも自信を持ってカンペなしで読んでいることから相当に自信のあるものなんでしょう。
しかしながら、相当程度に憲法が何かわかっていないように思えます。
まず「王権が絶対権力を持っていた時代」に「憲法が国家権力を縛るもの」という考えはありません。絶対権力持ってるって縛られてないやん。。って話です。
逆に、王権の絶対権力が暴走したことでそれを制限するために生まれたのが憲法です。(これを立憲主義というようです。)最初がマグナ・カルタですね。
ですので、憲法というものの役割が時代に応じて追加されていくにせよまずは「国家権力を縛るもの」でなければもうそれは憲法とは言えないのです。
もちろん、現在の日本国憲法では国民の義務(勤労の義務や納税の義務)も明記されており、「国家権力を縛るもの」という成り立ちに直結するものばかりとは言えません。
しかしながら、「憲法が国家権力を縛るもの」という考えが次点に来たり古いものであると考えそこを変えるべきとするのは大間違いなのです。
■9条改憲は餌でしかない
安倍さんは「国家権力を縛るもの」という考えは全否定しないもののそれを第一義的な憲法の役割であるという考えには懐疑的な立場の方です。
そういう憲法観を持っている人が憲法改正を言い始めるというのは非常に危ういというのがここまでのまとめです。
それをこここ子ではもう少し具体的なところから見てみます。
まず、根本的な危うさとして言えるのが「危うい憲法観を元に作成された危うい憲法草案が公にあまり周知されていない」というところにあります。
具体的には憲法9条を前面に出しながらその他に関しては半ば意図的にとも言えるほどにベールに包まれています。
それゆえに少なくない人が「憲法改正=9条改正」と認識しているのではないでしょうか。
直近の記事でも安倍さんは9条の改正への言及がメインです。(他の記事も結構そうです。)
安倍晋三首相は12日、山口県下関市で講演し、「憲法に自衛隊を明記することで私は責任を果たしていく」と述べ、憲法9条改正に取り組む決意を表明した。
安倍首相、9条改憲「責任果たす」=自民案、次の国会提出目指す
2018年8月12日 時事通信社
ただ、憲法改正の本丸は先の安保法案を無理くり通したことなども加味すると別のところにある(当初はそうであったとしても今はうつっている)でしょう。
なぜなら、解釈でなんでもありになりましたからね。
下記の9条の条文読んで「集団的自衛権」が合憲と解釈できる政権です。
1.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
自民党が推薦した学者勢にもほとんど「違憲」と言われた挙句、安倍応援団に「学者自体を否定させる」というチンピラのようなやり方をしていたことは記憶に新しいでしょう。
13日の衆院平和安全法制特別委員会で、公明党推薦の村田晃嗣同志社大学長(国際政治)は「多くの安全保障専門家は法案に肯定的な回答をする。学者は(違憲論が多数の)憲法学者だけではない」と主張した。村田氏の発言の詳細は以下の通り。
同志社大学長・村田晃嗣氏「学者は憲法学者だけではない」「戦争法案と表現したら安保の理解深まらない」2015年7月23日
https://www.sankei.com/politics/news/150713/plt1507130012-n1.html
ここで押さえて頂きたいのは、憲法9条を変えなくてももうなんでもありになった今ここが本丸とは考えにくいということです。
今もメディアでは憲法9条改正で自衛隊違憲論争がどうだのと報じられていますが、その論争に巻き込まれることこそがそもそも危ないのです。
では憲法改正の本丸はどこか?
これはおそらくではありますが、新設された第9章の緊急事態条項と第10章の憲法改正発議要件の変更でしょう。
まずは緊急事態条項の方から見ていきましょう。
結構文量があるのですが読んでいくとかなり危ないです。
第 九 章 緊 急 事 態 ( 緊 急 事 態 の 宣 言 )
第 九 十 八 条 内 閣 総 理 大 臣 は 、 我 が 国 に 対 す る 外 部 か ら の 武 力 攻 撃 、 内 乱 等 に よ る 社 会 秩 序 の 混 乱 、 地 震 等 に よ る 大 規 模 な 自 然 災 害 そ の 他 の 法 律 で 定 め る 緊 急 事 態 に お い て 、 特 に 必 要 が あ る と 認 め る と き は 、 法 律 の 定 め る と こ ろ に よ り 、 閣 議 に か け て 、 緊 急 事 態 の 宣 言 を 発 す る こ と が で き る 。
2 緊 急 事 態 の 宣 言 は 、 法 律 の 定 め る と こ ろ に よ り 、 事 前 又 は 事 後 に 国 会 の 承 認 を 得 な け れ ば な ら な い 。
3 内 閣 総 理 大 臣 は 、 前 項 の 場 合 に お い て 不 承 認 の 議 決 が あ っ た と き 、 国 会 が 緊 急 事 態 の 宣 言 を 解 除 す べ き 旨 を 議 決 し た と き 、 又 は 事 態 の 推 移 に よ り 当 該 宣 言 を 継 続 す る 必 要 が な い と 認 め る と き は 、 法 律 の 定 め る と こ ろ に よ り 、 閣 議 に か け て 、 当 該 宣 言 を 速 や か に 解 除 し な け れ ば な ら な い 。 ま た 、 百 日 を 超 え て 緊 急 事 態 の 宣 言 を 継 続 し よ う と す る と き は 、 百 日 を 超 え る ご と に 、 事 前 に 国 会の 承 認 を 得 な け れ ば な ら な い 。
4 第 二 項 及 び 前 項 後 段 の 国 会 の 承 認 に つ い て は 、 第 六 十 条 第 二 項 の 規 定 を 準 用 す る 。 こ の 場 合 に お い て 、 同 項 中 「 三 十 日 以 内 」 と あ る の は 、「 五 日 以 内 」 と 読 み 替 え る も の と す る 。 ( 緊 急 事 態 の 宣 言 の 効 果 ) 第 九 十 九 条 緊 急 事 態 の 宣 言 が 発 せ ら れ た と き は 、 法 律 の 定 め る と こ ろ に よ り 、 内 閣 は 法 律 と 同 一 の 効 力 を 有 す る 政 令 を 制 定 す る こ と が で き る ほ か 、 内 閣 総 理 大 臣 は 財 政 上 必 要 な 支 出 そ の 他 の 処 分 を 行 い 、 地 方 自 治 体 の 長 に 対 し て 必 要 な 指 示 を す る こ と が で き る 。
2 前 項 の 政 令 の 制 定 及 び 処 分 に つ い て は 、 法 律 の 定 め る と こ ろ に よ り 、 事 後 に 国 会 の 承 認 を 得 な け れ ば な ら な い 。
3 緊 急 事 態 の 宣 言 が 発 せ ら れ た 場 合 に は 、 何 人 も 、 法 律 の 定 め る と こ ろ に よ り 、 当 該 宣 言 に 係 る 事 態 に お い て 国 民 の 生 命 、 身 体 及 び 財 産 を 守 る た め に 行 わ れ る 措 置 に 関 し て 発 せ ら れ る 国 そ の 他 公 の 機 関 の 指 示 に 従 わ な け れ ば な ら な い 。 こ の 場 合 に お い て も 、 第 十 四 条 、 第 十 八 条 、 第 十 九 条 、 第 二 十 一 条 そ の 他 の 基 本 的 人 権 に 関 す る 規 定 は 、 最 大 限 に 尊 重 さ れ な け れ ば な ら な い 。
4 緊 急 事 態 の 宣 言 が 発 せ ら れ た 場 合 に お い て は 、 法 律 の 定 め る と こ ろ に よ り 、 そ の 宣 言 が 効 力 を 有 す る 期 間 、 衆 議 院 は 解 散 さ れ な い も の と し 、 両 議 院 の 議 員 の 任 期 及 び そ の 選 挙 期 日 の 特 例 を 設 け る こ と が で き る
https://jimin.jp-east-2.os.cloud.nifty.com/pdf/news/policy/130250_1.pdf
少し長いので、やばそうなところを私なりにピックアップします。
これが仮に成立すると「外 部 か ら の 武 力 攻 撃 、 内 乱 等 に よ る 社 会 秩 序 の 混 乱 、 地 震 等 に よ る 大 規 模 な 自 然 災 害 」の場合に緊急事態を宣言することで、「内 閣 は 法 律 と 同 一 の 効 力 を 有 す る 政 令 を 制 定 す る こ と が で き る」ようになると書かれています。
国会の審議なく法律が作れるんです。
普通に恐ろしいでしょう。
また、この緊急事態が宣言されると「そ の 宣 言 が 効 力 を 有 す る 期 間 、 衆 議 院 は 解 散 さ れ な い 」ともあり、国会発議でアップデートもできますので、これは論理的には永遠に議会が解散されないまま続くことになります。
自民党の改憲草案が通ると議会が永遠に解散されず、時の権力者が法律を作り放題になるんです。
どれだけ楽観的に見ても民主主義の放棄です。
しかもこれが発動できる要件がゆるゆるで、先般西日本の地震がありましたが、論理的にはあのようなケースで「緊急事態」の宣言は可能です。
もしこれが当時憲法に書かれていれば今頃文字通り「独裁政治」を始められたんです。
こういう話をすると「安倍さんはそんなことをしない」「今はヒトラーやスターリンのような人はいない」などという自称保守がいますが、ああいう連中の方が普段自分たちで連呼しているリアルポリティクスが欠如しています。
「人間は間違う」という前提で制度や仕組みを作るというこれまでの保守観とは相反する連中と言っても良いでしょう。
自民党は近代国家を破壊したいとしか思えない思想を展開しているのは、先の話に戻りますがやはり「憲法とは何かの本質が」がわかっていないからなんでしょうね。
もう筆頭の改正発議要件を「過半数」にしようとする10章も実は発想としては結構危ないんです。
過半数というのは実は一番時の権力者に都合のいいものです。
もし「もっと変えやすくすべき」というならば、発議要件をむしろ3分の1とかにして野党でも発議できるようにすればいい。「自分に都合の良いように」もっと変えやすくすべきという発想だからああいう条文になる。
やはり憲法が「権力者を縛るもの」という認識が薄いからなんでしょうね。
■護憲派は無害
よく社民党や共産党のように憲法改正を断固反対する人たちを見て「左翼は花畑」と言っている人がわんさかいますが、これまでに述べたように自民党の憲法改正草案を飲んで問題ないと考える方がよほど「花畑」です。
百歩譲って安倍さんが改正をして問題が起きなくてもあの条文は次の権力者に引き継がれますから小池百合子みたいなのが出てきたらやはり国が滅びます。
そういう意味でいうと護憲派というのは今あろうとするものを守ろうとするだけなので実害がありません。それによるデメリットが0とは思いませんが、自民党の改憲草案を飲むくらいなら今の日本国憲法の方が数段素晴らしいと断言しても良いでしょう。
以上、自民党の憲法改正の問題点について思いつくままに書いてきましたが、最後にまとめます。
まず、安倍さん及び自民党は憲法が「権力者を縛るもの」というベースの考えが希薄です。
そして、それは憲法改正草案にも現れていることを示しました。
緊急事態条項は選挙なしで権力者が権力の座にいすわれることを可能にするもので民主主義の終演となります。そうなれば中国のような一党独裁政治になる可能性は極めて高いです。(今もすでに片足突っ込んでるが)
そういう意味で、憲法9条に目が行きがちですが、ぜひ改正草案を実際に見てみていただければと思います。
9条は間違いなく本丸ではないですから。