勤労統計の不正問題ですが、ようやく火がついてきたかマスコミも広く報道するようになりましたね。
ただ、統計の至る所に誤りが発見されたこともあり国民としてはこれをどう捉えていいかわからないことでしょう。
例を言えば「全身から大量出血している患者」を前にしてどうすればいいかわからないという感じですね。
朝日の報道では基礎統計の4割において法令違反の可能性が高いということがすでに報道されています。
「毎月勤労統計」をめぐる厚生労働省の不正調査問題をうけ、政府が56ある基幹統計が適正に調査されているか点検した結果、4割にあたる22統計に計31件の間違いなど何らかの問題があったことが24日、わかった。このうち統計法違反に該当する可能性がある間違いも21統計あった。
『政府基幹統計、4割の22統計に間違い 抽出方法など』朝日新聞デジタル 2019年1月26日
繰り返しになりますが、不正が多すぎてどこから手をつけていいかわからないというのが現在地です。
ただ、これについて「無能な官僚がバカをやらかした」という形で完結させることを許してはなりません。
改ざんを見ていくと「明確な意図」が見えてくるのです。
今日は勤労統計の不正について前回とは異なるところについて記事を書かせていただきました。
勤労統計不正で最も問題の箇所
勤労統計不正において最も問題の箇所と思われるところを見ていくことで「何が問題なのか」が見えてきます。
私が現状最も問題と考えているのは「賃金の伸び率を表す指数において、2018年とそれ以前とでサンプルを入れ替えるにあたり、過去に遡って同じサンプルに並び替えないことで、本来比較すべきものでないもの同士を比較して賃金が伸びたと発表している」データにあります。
もう少しわかりやすく言います。
厚労省は「統計の改定」と称して2017年以前に比べて2018年以降の賃金指数に企業規模の小さい会社を減らし大きい会社をたくさん入れました。
もちろんここだけでは問題にはなりません。
問題はここからで、本来であれば企業規模の大きい会社をたくさん入れたサンプルを使うのであれば2017年以前にも適応して統計全体を修正する必要があるのですが、2017年以前についてはそのままにしたのです。
結果的に、大企業がたくさん入ったものとそうでないものを比較してそれをもって昨対比率で賃金指数が上がったという発表をずっとしていたのです。
この不正に関していち早く察知され現在野党合同ヒアリングにも参加しておられる明石順平弁護士の記事が非常に的確なまとめとなっています。
私も賃金統計に違和感を感じ始めたのは明石氏も引用している2018年6月の名目賃金が3%以上という以上な伸び率を記録した時です。
どちらかというとアベノミクスに心酔している方でさえ2018年はそれまでよりも後退もしくは停滞しているという見解を多方面から示していた中で、この伸び率はおかしいなと強く思ったことを記憶しています。
厚生労働省が7日発表した6月の毎月勤労統計調査(速報)で、名目賃金を示す労働者1人当たり平均の現金給与総額(パートを含む)が44万8919円と前年同月比で3・6%増え、21年5カ月ぶりの高い伸び率になった。業績回復を背景に企業が夏のボーナスを増額した影響とみられるという。
『6月の名目賃金3.6%増 21年ぶりの高い伸び率』朝日新聞デジタル2018年8月7日
今となってはわかることですが、結局のところ名目賃金がここまで異様な伸び方をしたのは企業の業績が良くなった以上に、企業規模の大きい会社が多く入ったものとそうでないものを並べる「イカサマ」の結果なのです。(これこそ勤労統計不正の核心)
本当に企業規模の大きい会社に傾いているのかについては先の明石弁護士の記事を参照くださればと思いますが、明石氏が作成した記事のデータがどこからきているか個人的に興味があったこともあり私の方でも引っ張ってきてみました。(サイトにリンクがなかったため)
明石弁護士が参照しているのは下記のサイトにあるP10とp11と思われます。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/maikin-20180927-01.pdf
p10では賃金統計の改定にあたりどういうサンプルが入るかの前後比較があります。
これを見れば明らかですが、従業員規模が5−99名の中小企業を減らし、それ以上の企業規模をサンプルに追加しています。
そして、p11ではその入れ替えによってどのくらい変化するかということが書かれており、2086円生じると読み取れます。
意図はともあれこの改定から読み取れるのは「企業規模の大きい会社に統計データ抽出の傾斜をかけた」ということです。
さて、再三繰り返し書いていますがここは問題ではありません。
問題は明石氏も指摘されているようにそのように傾斜をかけた計算方法を2018年にのみ適応し、過去について再度データのとり直しはしないというところにあります。
企業規模が多く含まれるデータとそうでないデータを比べて「賃金が伸びた」と言ってるんです。(それゆえに昨年はほとんどの月で賃金がずっと昨年比上昇と報道され続けた)
中学生でもわかりますが常識的にアウトです。
勤労統計不正に対するトンチンカンな解決策
さて、今回の勤労統計不正において御用学者にインチキエコノミスト、そしてよいしょライターや体制翼賛者などがまた意味のわからない擁護を展開しています。
ここでは2パターンのみ取り上げます。
一つ目は、「統計にかける人的リソースの少なさ」が勤労統計不正の大きな要因だと述べている人間達です。
トンチンカンもいいところです。
もしそうであれば、統計のわざわざ面倒なサンプル入れ替えなどしなくていいわけで、そのままやっていればよかったのです。
(やったふりをすればよかった)
何故、2018年以降のみ賃金上昇がしたように見える改訂をしたのかに一切答えるものではありません。
もう一つが「ブロックチェーンを使って改ざんをされないようにしよう」という自称テクノロジー通の人間達です。
これも山程見ましたが、勘弁してくれという話です。
財務省の公文書改ざんの時も「ブロックチェーン、ブロックチェーン、ブロックチェーン」と連呼していた層と被りますが、問題が何かもわからないのに解決策を出そうとするなという話です。
「イシューから始めよ」とお得意のビジネススクールで習ったのではなかったのかと問いたいですね。
イシューがわからないのにブロックチェーンをいれてどうなるという話。
営業マンがいきなり訪問してきてとりあえずブロックチェーン入れましょうと提案してきて買う客がいるわけないでしょう。
だいたいブロックチェーンがそんな完璧ならば、例のビットコイン蒸発事件など起きなかったわけで、さらにいうならば運用する側の人間が腐ってるなかでいくら素晴らしい仕組みを入れても何の役にも立たないという単純なことに早く気づいてくれと言わざるを得ません。
要するにいくら厳重な警備を敷いたとしてもその警備員のなかに泥棒に手ほどきをする人間がいたらどうしようもないのと同じです。
勤労統計不正の「動機」こそがまず明らかにしなくてはならないこと
今勤労統計不正の問題で取り組むべきは課題の特定です。
具体的には何故2018年だけ賃金が上昇しやすいサンプルに入れ替えたのかということです。
人手が足りないなら改定などしなければいいわけで、わざわざこのようなことをしているからには間違いなく「動機」があります。
「賃金が上がっているように見せたい」と誰かが思わなければこのようないびつな統計発表はしません。
「動機」が見えなければ犯人の特定は無理なわけで、結局、例の森友学園に関わる公文書改ざんも動機の特定をメディアが追いかけ続けなかったから「次から頑張ります」みたいな舐めた着地になりかけているのです。
ここ数年だけを見ていても思うことですが、我が国は本当に「課題設定」から逃げる傾向にある民族です。
「何が問題だったか」を徹底的に追求しないから同じようなことが再度起きてしまう。
特に政治においては森友の公文書改ざんを突き詰めなかったから法務省のデータ捏造やら厚労省のデータ捏造が起きたと言っても過言ではなく、今回の勤労統計不正も課題の特定から逃げてきた「ツケ」ではないでしょうか。
以上となります。ご覧いただきましてありがとうございました。
個人的には引き続きこちらのトピックについては関心高く見ていこうと思います。