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「保守主義」とは何か

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今日もまた一冊最近読みました本を取り上げたいと思います。それにより保守主義とは何かについて考えていきたいと思います。

保守主義といえば、エドマンド・バーク、マイケル・オークショットなどが上がってきますが、本日はカールマンハイムの『保守主義的思考』を使って保守主義とは何かを考えていきます。

 

マンハイムといえば『イデオロギーとユートピア』という本が有名です。

ただ、実は保守思想家としてもかなり有名と言われています。

 

私もこの本を読んで改めて保守主義について考えさせてくれる良書だと感じました。

マンハイムの保守主義を学ぶことで昨今迷走する「保守とは何か」も見えてくるかと思います。

 

 

本題に入る前に少し前置きをします。

一般的に言われていますが読売新聞は「保守」メディアではありませんし、安倍晋三さんは自分で保守と言おうとも「保守」政治家ではありません。要するに昨今で言われている「保守」という言葉があまりに適当な意味で使われているのです。

 

マンハイムによれば保守とは「常に個別具体的に判断をする」ということを特徴とします。

それゆえにある人やあるメディアが保守と決まっているということなどありえません。

その思考停止こそ保守主義的ではありません。

 

前置きはそれくらいにしていよいよ本題に入っていきましょう。

 

■「保守主義」と伝統主義や復古主義が異なる理由

まずマンハイムが『保守主義的思考』の中で紙幅を割いているところから書いていきたいと思います。

それは「保守主義」と伝統主義及び復古主義の相違です。

 

一般的に「保守主義」はイメージとして「何かひたすらに古いものを守り続ける」「古いものをとにかく復活させようとする」といった伝統主義及び復古主義的文脈で捉えられます。

 

もちろんケースによってはそのように行動することは否定しません。

しかしながら、マンハイムの『保守主義的思考』の中ではこういったニュアンスで保守主義は語られません。明確に区別されます。

「保守主義的」に体験し行為するということは、(単なる伝統主義的なのとは異なり)、この「保守主義的構造関連」の一局面(概ね同時代の局面)に身をおき、それを単に部分的にか全体的にか「再生」するにせよ、また特殊な生き生きした状況に適合させてさらに発展させるにせよ、とにかくこの構造関連から行為する場合であり、かつそのかぎりにおいてだけである。動的構造関連のこの独特な客観性を把握したときにはじめて、われわれは「保守主義的」行為を伝統主義的行為から区別することができる。

『保守主義的思考』カール・マンハイム(2013)ちくま学芸文庫

なんとも抽象度が高く難しいこと書いているように見えますね。ただ、言ってることは単純でhなあいかと思います。

私もあっているかはわかりませんが、おそらくこういっているのではないかと考えています。

 

”「保守主義的」に体験し行為するということは、(単なる伝統主義的なのとは異なり)、この「保守主義的構造関連」の一局面(概ね同時代の局面)に身をおき”

 

こちらの部分に集約されているのですが、「保守主義的」に体験し行為するとは概ね同時代の局面に身を置くことであるとマンハイムは述べています。

 

これは要するに自らを特定のイデオロギーに当て込むことなくその時代の状況をまずはよく理解することから始めるべきだと言っており、その後にその時代状況にあった処方箋を出すべきだということです。

 

「めっちゃ当たり前のこというやん」という印象を受けるかもしれません。

 

 

しかしながら、これを実践することは簡単な話ではありません。

なぜならば、近代自体が我々が意図するとせざるとして「常に変化する」ものだからです。

 

『保守主義的思考』の中でマンハイムは以下のように述べています。

近代的保守主義の成立の根本原因、そして同時にまたその共通点は、近代的世界が動的になったこと、この動化が社会的分化の基礎の上に成立すること、この社会的分化がまた精神的コスモスの全内容を「捲き添え」にすること、そしてそれを担っている社会層の根本志向が凝集核となり、互いに対立して動く世界観(およびこのなかに埋蔵された互いに対立して動く思考様式)の創造的中心となること、にある。

『保守主義的思考』カール・マンハイム(2013)ちくま学芸文庫

マンハイムは近代的世界は動的であると述べています。

ここは極めて近代保守主義成立の経緯を理解する上で肝になります。

 

何もしなくても勝手に変化が起こると彼は述べているのです。

 

だから、保守主義の立場をとるということは「今はどういう時代かを考えること」を常に要求され、その時々で変わる処方箋(prescription)を用意し続けなければならないという話につながるのです。

 

そう考えれば伝統主義や復古主義のようなものとは異なることがわかるでしょう。

近代保守主義においては上の二つと異なり「時代の変化」を前提として受け入れている側面があるのです。

それゆえに例えば「時代の変化に適応できない人」を「保守的」と形容するのはマンハイムのいう保守主義観とは全く別物であることがお分かりいただけるでしょう。

 

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■「保守主義」と新自由主義(グローバリズム)が混同される現代社会

ところで、昨今日本では以下のような言葉が知識人から次々に出てきます。

  • 日本の終身雇用や年功序列はダメだ。人材の流動性を高めなければ
  • 自由貿易は経済学の常識。国をもっと開いていかなければ日本は国際社会から取り残される。だからTPPだ。
  • 日本のGDPはこのままでは伸びないから移民を入れよう

いわゆる「世の中はグローバル時代なのに日本はそれに適応できていない。だから大規模な構造改革や規制緩和が必要だ」という論調です。これは新自由主義・新保守主義と言われる思想です。

 

なぜこの話をするかというとこの話をする人をなぜか「保守」と日本では呼ぶからです。

 

新自由主義はフリードリヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンが提唱したことで有名ですが、その思想は単純明快で「市場原理に任せれば万事最終的にはうまくいく」という(軽薄な)ものです。

 

これが「時代を理解し、その時代にあった適切な処方箋を出す」保守主義に当たるのでしょうかが要検討ポイントになります。

結論から言うと全く保守主義的な立場とは言えません。

 

日本の知識人の楽観的な提唱とは裏腹に市場原理を強化しグローバル化を世界的に推し進めた結果今世界で起こっていることは果たして喜べることでしょうか。もし喜べることなら彼ら・彼女らは「保守主義」としてまっとうなアプローチだと言えます。

 

しかしながら実態は異なります。

所得格差の異常なまでの拡大及び賃金デフレやそれに伴う社会秩序の悪化(テロリズムの勃興)が多発しています。

その他問題を上げ始めればキリがないのですが、

少なくともグローバリズムはかなり弊害があるというコンセンサスは経験的に世界的に取れています。

 

しかしながら先に述べたように我が国の主流派はこの行き詰まりの見えているグローバリズムをこれからより加速させようとしています。(最近だと水道事業の民営化など)

 

頭がおかしいとしか言いようがありません。

保守主義の立場からすれば真逆のことをしていますからね。

 

ですが、おかしなことに時代状況を考えればいくべきでない方向により加速させようとする勢力が「保守」と呼ばれているのです。

 

具体的に言いますとマンハイムのいう「保守主義」の立場から考えればありえないことを自民党及び安倍政権(+その取り巻きの乞食論壇人)はしているのです。

逆に、左翼(革新政党)と言われる政党の共産党が「TPP反対」「法人税減税反対」と保守的な態度を取っているのです。

 

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■終わりにー保守とは何かー

今回は「保守主義」の意味をマンハイムの言葉から考えつつどうも最近「保守」と言われる連中の行動や言動がこの言葉の意味からかけ離れているぞということを書かせていただきました。

 

なぜこの誤解が生じているのかについて一応私なりに当たりはつけています。

最後に今自民党がグローバリズムとファシズムの悪いとこどりをした政党であるにもかかわらず「保守政党」に見える理由を少しだけ書きます。

 

おそらくですが、彼ら・彼女らが明治維新期を絶賛しその世界観を目指そうという姿を見せているからだと思われます。

要するに復古的な立場を「保守主義」と考えてしまっている人が少なくないということですね。

 

しかしながらある特定時代を「理想」と掲げそれに向かおうとするのはむしろ保守主義の立場から離れる行為です。

ロマン主義化されていない保守主義は、つねに直接的な個々の場合から、出発し、自己の特殊な環境を超えてその視野を拡大しない。

『保守主義的思考』カール・マンハイム(2013)ちくま学芸文庫

マンハイムが述べているように「ロマン主義化」されればそれはもう保守主義ではありえないのです。

全く現実を見ていないと言わざるをえません。

保守派は常に現実を見て、その変化に対して現時点で出せる最適解を模索しなければならないのです。

これはマンハイムにこだわらずともオークショットやバークにしろ同じようなことを言っています。

 

今の自民党はこの言い方がいいかはわかりませんが、「大人になりたくない」と学生時代のアルバムを見続け現実を受け入れられないクソガキです。「保守」的な立場をとるのであれば今最も現実を見ている政治勢力や知識人を支持すべきでしょう。

 

 

以上回り道をしつつ保守主義について書いてきました。

私はよく共産党の方が自民党よりマシというので「左翼」だの「パヨク」だの中傷にまみれるのですが、今の自民党の現実の見てなさは尋常ではないと思っています。(おそらく共感を得られないと思いますが)

 

逆に共産党は自衛隊を廃止すると言ったり革命をすると言ったりなんかもうしなくなりました。かなり現実を見るようになったように思います。

 

それゆえに、自民党を正常化させる意味でも共産党やその他政党がもっと支持勢力を拡大すべきだと思っています。それこそが私の考える現時点での保守主義的な態度ではないかということです。

 

ただ、まだまだ「読売新聞=保守」「自民党=保守」「ケントギルバート=保守」「竹中平蔵=保守」で思考停止している人は少なくありません。

カルト化する思考は絶対に保守主義ではありえないのです。

 

 

以上となります。

ご覧いただきましてありがとうございました。

 

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