ご無沙汰しています。
今日も一冊ご紹介できればと思います。
本日ご紹介するのはマイケル・オークショット『政治における合理主義』です。
タイトルからして興味を持たれないかもしれませんが、我々の考え方に大きな示唆を与えてくれるという意味で、そこらへんに転がっている自己啓発書とは比較にならないほど我々を啓発してくれます。
オークショットについて一言だけ紹介しますと、彼はは20世紀最大の保守思想家とも言われている人物で、「常識人」「良識人」を代表する人物とも言えます。
それゆえに、彼の思想に学ぶことで「真っ当な価値判断」のできる人間となるヒントを得られると私は考えています。
今日はオークショットの保守思想について少しご紹介しながらなぜ「保守的であること」と「真っ当な考え方」が同義なのかということについても書いていきたいと思います。
■「真っ当な考え方」と「保守的であること」が同じ理由
最近、自己啓発書やビジネス書というのは流行していますよね。
本屋に行っても一番目立つところにそう言った本が置かれています。
これまでの常識が通じない時代と言われたり、未来がまったく見通せない時代と言われたりもしています。
さて、あなたはこういった先行きの見通せない時代、これまでの常識が通用しない時代にどうすべきだと考えていますか?
あらかじめ私の考えを述べますと今騒がれているのとはまったく正反対の見解を持っています。
「保守的であること」こそこれからの時代より重要になってくると考えています。
最近は「イノベーション」「創造的破壊」「先例のない挑戦」「安定を捨てることこそ何よりも重要」といった考え方がもてはやされ、人々の脳内を支配して言ってる中で「お前は化石人類か」と言われる方も多いことでしょう。
それでもやはり私は「保守的であること」こそこれからの時代重要だという考えを貫きます。
オークショットは『政治のおける合理主義』の中で下記のように述べています。
要するに、ある独自の行動は決してその独自性から始まるわけではなく、常にイディオムないし活動の伝統からはじまるのである。
マイケル・オークショット『政治における合理主義』(2013)勁草書房
オークショットは「独自の行動」は必ず活動の「伝統」から生じると断言します。
私の「保守的であること」の重要性を主張する最大の根拠はここにあります。
オークショットは、我々の行動規範は常に伝統からくるのであり、あらかじめ目的を自律的に立てたりすることなど不可能だと続けます
我々は、目的を予め考える能力、行動や活動それ事態に先立って行動に先立って行動のルールや行為規準を定式化する能力を手に入れることができない。
マイケル・オークショット『政治における合理主義』(2013)勁草書房
今の時代なぜかこれからを生き抜くために「ビジョンが大事だ」とか「人生の目的や目標を立てよう」といった未来ばかりを見る傾向にあるわけですが、オークショットに言わせれば伝統を振り返らない中でこれからの行動予測などむしろ遠ざかるということになります。
未来予測を場当たり的にすることはむしろ人間としての平衡感覚を失わせると彼は述べます。
「最善のもの」を手当たり次第選び出すために世界をあさることは・・・堕落した企てと言わねばならない。それは、人の政治的平衡感覚を失わせる最も確実な方法の一つである。
マイケル・オークショット『政治における合理主義』(2013)勁草書房
■オークショットが嫌悪した考え方
ただ、最近はどうもおかしいんですね。
自らの判断基盤となる「伝統」を破壊したり忘れ去ることが「これからの時代の生き方」として指南されているのです。
つまり、「これからの時代の生き方を教えろ」と言いながらこれからの時代の生き方を教えてくれるものを破壊するというあまりに不可思議な現象が起きているのです。
オークショットの考え方を非常にわかりやすくホセ・オルテガが『大衆の反逆』で書いていますので、引用いたします。
飢饉が原因の暴動では、一般大衆はパンを求めるのが普通だが、なんとそのためにパン屋を破壊するというのが彼らの普通のやり方なのである。この例は、今日の大衆が、彼らを育んでくれる文明に対してとる、一層広範で複雑な態度の象徴的な例といえよう。
オルテガ・イ・ガゼット『大衆の反逆』(1995)筑摩書房
パンを求めるはずの一般大衆がこんにちはなぜかパン屋を破壊するという無茶苦茶なことをやってしまう、、、オルテガによる現代人の極めてエッジの効いた描写な訳ですが、現代の日本でも同じことをやっているんですね。
さて、オークショットは「保守的であること」の重要性を説く一方で何を否定したか?
それは「安易な答えを求めること」ですね。
患者にとって、彼の病気はほとんど彼と同じくらい古く、その結果それをすぐ直す治療法はない、と告げられるのは、常に気の滅入るものだが、・・普通はそうなのである。
マイケル・オークショット『政治における合理主義』(2013)勁草書房
今我々を悩ませたり苦しめたりしているものは過去にすでにあったのだからまずはそれを見ろと彼はのべるわけですが、その時非常に重要なことを付け加えています。
それは、いくら気が滅入るようなことでも現実で直面する課題というのは何かボタンを押せば一気に解決するようなものではないということです。
別の箇所でオークショットはその安易なアクションがより状況を悪化させることも少なくなくないと注意喚起をしており、「着実さ」を我々に要求します。
政治的活動についての我々の理解が、深まれば深まるほど、それだけいっそう我々は、もっともらしいが誤った類推にほんろうされることが少なくなろうし、またそれだけ我々は、誤ったトンチンカンなモデルに誘惑を感じることも少なくなろうということ。
マイケル・オークショット『政治における合理主義』(2013)勁草書房
■合わせて読みたいオススメの本
まとめますとオークショットは近代への警告としてこう述べました。
まずは「今あるものを大切にせよ」ということですね。
「保守的であること」こそが真っ当であると。
次に安易な答えのように見えるものが時々現れようとも飛びつくなということです。
すぐに答えを求めると逆に状況が悪化しかねないと、熟慮し続けることがまずは真っ当な人間としてあるべき一歩だということです。
TPP、国家戦略特区、大阪都構想、東京大改革、郵政民営化、、、、こういうやつです。
最後にオークショットと関連して「保守的であること」(真っ当な考え方)を説いた方の関連書籍を記載して終わりとします。ありがとうございました。
エドマンド・バーク『フランス革命の省察』
アレクシ・ド・トックビル『アメリカのデモクラシー』
オルテガ・イ・ガゼット『大衆の反逆』
フリードリヒ・ニーチェ『善悪の彼岸』
ジャン・ヴァティスタ・ヴィーコ『学問の方法』