フォローする

8月8日より著書を書店にて発売中

全体主義について

自民党は保守ではないー今改めて押さえておきたいことー

投稿日:

先日戦後最長政権を安倍政権は記録しました。

 

 

これを書いている2019年9月13日には内閣改造が発表されましたが、支持率は低いところでも40%後半で高いところだと50%後半近くをただき出しています。まだまだ国民の支持は底堅いのでしょう。

 

 

そして今、最大の難所と言われた「憲法改正」にとりかかろうとしています。

 

 

さて、この憲法改正という議論が沸き立ってきたところで改めて確認しておきたいことがあるのです。

それは、自民党という政党は「保守政党」ではないというとことです。

 

なぜか自民党というと「保守」や「右派」が支持するものとされていますが、それは遠い昔の話です。

まだまだ認知されていないということもあり、この改憲が叫ばれるタイミングで復習しておきましょう。

 

自民党が保守ではないと言い切れる理由

早速ですが、自民党が保守ではないと断言できる理由について書いていきます。

そのために「保守」とは何かをまずは考える必要があります。

 

ここで小難しい偉人などを引用しようというつもりはありません。

そういうのを学ぶことは重要だと個人的には思いますが、「保守」というのはその語から多くの人がイメージする意味で考えるだけでも本ケースで言えば十分です。

 

具体的には、伝統や慣習を重んじる立場です。「保守」という言葉の意味についてこの定義にあまり反対する人はいないでしょう。

 

これに少しだけ付け加えると、そこから帰結していえることとして、伝統などを危険に導く急激な変革や革命といったものには断固として反対する立場とることも大きな特徴かもしれません。

 

さて、本題に話を戻しますと、この広く共有された意味に照らすとき、安倍政権及びそれが率いる自民党は保守ではないのです。

 

確認作業自体は簡単です。

 

過去の言動をいくつか拾い上げれば明快でしょう。

例を挙げたほうが早いと思いますので、安部首相の発言をふりかえりましょう。

安倍晋三首相は25日、首相官邸で衆院解散を表明する記者会見を開き、「生産性革命、人づくり革命はアベノミクス最大の勝負だ」「人づくり革命の安定財源として消費税率引き上げによる財源を活用したい」と述べた。

『安倍晋三首相会見詳報(1)「生産性革命、人づくり革命はアベノミクス最大の勝負」「人づくり革命の安定財源は消費税率引き上げによる財源を活用」』産経デジタル 2017年9月25日

https://www.sankei.com/politics/news/170925/plt1709250087-n1.html

 

彼は、「革命」という言葉をスローガンとして採用しています。

革命というのは現存の状態を根本的にひっくり返すということを指しますから、「保守」という考えとは相いれません。

 

むしろ革新派および左派と言われる立場に該当する思想です。

 

 

こういうことを申し上げると「切り取りをするなあ」とか「印象操作だあ」という保守の方にいつも叩かれますので、他にも例をあげましょう。

 

施政方針演説というものがあります。

 

こちらは首相が節目節目で今後の政治の進め方について表明をするものなのですが、ここを参照すれば同様にその人やその人が所属する団体の程度思想が見えてきます。

 

試しに、平成30年1月の施政方針演説を見てみましょう。

 

こちらでは「改革」という言葉を19回「革命」という言葉を6回使っています。(一方で「伝統」や「慣習」などは0。*「習慣」は生活習慣という文脈で一回のみあり)

『第百九十六回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説』

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement2/20180122siseihousin.html

 

 

改革や革命をここまで連呼する集団が保守ではないことは私から申し上げるまでもないことでしょう。

 

これをもってしても「切り取りだあ」と思われるかもしれませんが、そういう方はぜひほかの施政方針演説を見てください。

ほかの施政方針演説を見ても「改革」という言葉が何よりも使われています。

 

 

保守的であるかは過去の言動や行動から判断すべき

この例を通して改めて伝えたいのは自民党は世間で言われている「保守」政党ではないということです。

 

今や共産党すら言わなくなった「革命」という言葉を使っているのは自民党だけですから、字義に照らすならば革命政党は共産党でも社民党でもありません。

 

しかしながら、現実においてはY新聞やS新聞をはじめとした同人誌系列などがつくる「保守」というラベルに多くの人が流され続けています。

 

 

冷静にここ数年で自民党が何をやってきたかをふりかえるべきでしょう。

・「移民政策ではない」と言いながら進める移民政策

・農業団体へのはしごはずしともいえるTPPや日米FTA

・現行憲法の枠内とは180度異なる解釈を示したうえでの安保法案

・デフレ下での消費税増税および法人税減税

・防衛的にも経済的にもメリットが明示されない辺野古基地建設

 

他にも日本国民にとってメリットがないどころか苦しめるような政策ばかりを推進しています。

 

 

もちろん、一つの見方として自民党の支持が底堅いということを踏まえると「格差が広がる社会」や「アメリカの言いなりになる国家」になることを願う人がたくさんいるという可能性もあります。

 

 

しかしながら、そのようなことを知った上で望む人は財界のケツ舐めだるまくらいのものでしょう。

 

 

少しだけでも現実で起きていることに関心を持ち、何をしているのかをみていけば「なにかおかしいぞ」と思うのに時間はかかりません。

しかし、その「少しだけでも」関心を持つことすらままならない人があまりに増えているのです。

 

そのことは投票率にまさに現れているでしょう。

 

保守とは何かを語る前に読みたい3冊

アメリカや財界の言いなりになっていく今の日本に何が必要かと言えば、それは「保守」的な態度でしょう。

改革や革命と叫ぶことが歴史上どのような帰結をもたらしたかを知るのは今からでも遅くはありません。

 

そこで最後に、「保守」について語る前に読むべき書籍をご紹介したいと思います。

 

 

なぜか今は「保守」思想を学ぶために、百田尚樹、櫻井よしこ、門田隆将などを読むようですが、「保守思想」の土台となった人に直接あたることをわたくしとしてはお勧めしたいと思います。

 

下記は、私の独善ではなく、「保守思想」の議論云々で出なかったことはないくらい読まれている書籍になります。

 

主食ときいて「米」「パン」「麵」があげられるかと思いますが、下記の3冊はそれくらいのものです。

 

エドマンド・バーク『フランス革命の省察』

まずは「保守思想」と聞いておそらく世界的にも第一想起される人物の著書です。

 

「近代保守主義の父」ともいわれるバークですが、彼がなぜそういわれるに至ったかを教えてくれる一冊です。

題名の通り「フランス革命」について考察されたものなのですが、彼はこの革命が失敗であることを多くの人がその革命の余韻に浸っている段階でこの著書において予言したのです。

 

詳細は割愛しますが、フランス革命が成功し、お祭り騒ぎとなっているけれどもまもなく内輪もめをもたらし最後は軍事独裁を導くだろうとここでは書かれました。

 

これは、ナポレオンによる軍事独裁を予言したわけですが、バークはもちろんナポレオンが登場する前に亡くなっています。

彼がここまで見通せたのは「保守」という考え方を身に着けていたからだとされます。

 

急激な変革をもたらすものはいかに表面的に良く見えてもすべて失敗に終わると著書の中では繰り返し述べられているのです。

政治体制を新しく構築するにあたり、物事を単純明快にすることを目指したと自慢する連中は、政治の何たるかを少しもわかっていないか、でなければおよそ怠慢なのだ。単純な政府とは、控えめに言っても機能不全を運命付けられた代物に過ぎない。

『フランス革命の省察』エドマンド・バーク(2011)PHP研究所

マイケル・オークショット『政治における合理主義』

続いては、おそらくバークと並んであげられる保守思想の名著です。

 

バーク同様に合理主義(効率重視)による社会改革を批判した主著です。ただし、彼とは思想において少々異なるという点だけ補足しておきます。

 

バークは「国体」というものを重視し、イギリス王室を起点とした君主制や伝統的なイギリスにおけるキリスト教的価値観へ立ち返ることを主張しました。

 

一方で、オークショットは起点となる場所があるというよりは純粋な形での「懐疑主義的」な立場をとりました。(デカルト的だけどデカルトとは異なる的な感じ)

 

端的に言えば、「効率的」とされるものに対してなんとなく「それで大丈夫か」と疑ってみるということですね。

 

 

根拠はないし、合理的ではないものですが、そのなんとなく抱いた「疑い」に価値があると彼は考えたのです。

 

しかし、その「なんとなく」が伝統などに根ざしており、その感覚を軽んずるべきではないと彼は考えていたようです。

 

このような「保守的な態度」はバーク以上に今日の我々にとってなじみが深いものといえるかもしれません。

中心にあるのは、合理主義者の確実性に対する執着である。彼において技術と確実性とが分かちがたく結合するのは、彼にとって確実な知とは、確実性のためにそれ自体を超えて他のものに目をやる必要のない知、つまり最終結果が確実であるだけなく、出発点から確実であり、最初から最後まで確実であるような知のことであるためである。

『政治における合理主義』マイケル・オークショット(2013)勁草書房

 

福田恒存『保守とは何か』

3冊目が日本において最も著名ともいえる保守思想の本になります。

 

福田恒存の『保守とは何か』です。

 

 

福田は評論家や翻訳家として活躍した戦後を代表する知識人です。

 

 

日本の保守系知識人と言われる人のほとんどが福田恒存の影響を受けており、『保守とは何か』の編集にあたった浜崎洋介氏などもその典型でしょう。

翻訳本としてはシェイクスピアの『ヴェニスの承認』『リア王』『ハムレット』などを手掛けているところからも「古典」に学ぶ重要性を唱えていたとされています。

 

冒頭で「保守」について伝統や文化を重んじることという趣旨を述べましたが、そのためにはどうするべきかということがここでは書かれて言います。ただ単に現状維持や現状追認ではないと述べているところがミソです。

 

保守派がつねに現状に満足し、現状の維持を欲しているといふ革新派の誤解である。戦術的誤解でなければ希望的観測である。日本の保守党すら、明治以来今日に至るまで、たえず進歩と改革を考へてきた。保守派が合理的でないのは当然なのだ。むしろそれは合理的であつてはならぬ。保守派が進歩や改革を嫌ふのは、あるいはほんの一部分の変更をさへ億劫に思ふのは、その影響や結果に自身が持てないからだ。・・・保守的な生き方、考へ方といふのは、主体である自己についても、すべてが見出されているといふ観念をしりぞけ、自分の知らぬ自分といふものを尊重することなのだ。

『保守とは何か』福田恒存(2013)文芸春秋

 

これら3冊を読めば、自民党が保守ではないことはあまりに明らかなものと理解されるでしょう。

 

もちろん、保守ではない自民党を支持するというのはそれは一つの自由ですので私としては何も言うことはありません。

しかし、問題はそういう人以上に、「よくわからないけど支持」ということです。

 

理解したうえで白か黒か決めるべきであるということですね。

読書会を大阪とスカイプで開催しています。

-全体主義について

Copyright© 悲痛社 , 2023 All Rights Reserved Powered by AFFINGER4.