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自己啓発にはまる人が後を絶たない理由

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「自己啓発」というジャンルが人気になり始めて結構な年数が経ちました。

 

これにはまる理由は人それぞれです。

  • これからは会社に頼って生きていくことができない
  • 起業できるような人になりたい
  • 成長しなければ取り残される などなど

 

ただ一つの時代の流れとして、「自己啓発」というものがこれからの時代を生きる上で必要だと考えている人が増えているでしょう。

 

 

さて、ここでテーマにしたいことがあります。

それはなぜ現代に生きる我々は「自己啓発」をする必要性にここまで駆られるのかというものです。

 

 

なぜなら、原始時代で狩猟をしていたときから人間は「成長するためには自己啓発しなければならない」と考えてきたわけではないからです。

 

少なくともこの「自己啓発」なるものは人間に固有のものではなく、何かそれを重視するように促す価値観があると考えるのが理にかなっていると私は考えます。

 

本日は、社会科学的な側面から自己啓発にはまる人が後を絶たない理由について書かせていただきました。

 

自己啓発にはまる人が増えた理由

まず、「自己啓発にはまる人」が後を絶たない理由について見ていきましょう。

これにあたって私の方で参照したテキストがヴォルフガング・シュトレーク『資本主義はどう終わるのか』という書籍になります。

 

氏はまさに「自己啓発」に多くの人がはまる理由を社会学の観点から描いてくれているのです。

 

彼によると自己啓発にはまる理由には段階があります。

まず、第一段階がこれまでの我々の行動基盤を型どってきたであろう「制度」の形骸化ならびに崩壊です。

これにより、我々が何に基づいて行動すればいいのかが見えなくなるところがスタート地点となるようです。

 

そこで何が起きるのかというと『最低限の安定性と確実性を確保する役割、最小限の社会秩序を創造する役割は個人へと移動する』という状態をやむなくされると彼は言います。

 

 

この「最低限」で「最小限」な社会の関与を肯定し、生きる上での秩序の構築を個人に委ねるイデオロギーを「新自由主義」と言います。

 

 

新自由主義と聞いてピンとこない人もいるかもしれませんので少し補足します。

テキストによれば新自由主義の具体的なエートス(習性)は『競争に勝つための自己啓発、市場に役立つ人材の育成、仕事への情熱的な献身、政府が機能しない世界がもたらすリスクを呆れるほど楽観的に受け入れる態度』だといいます。

  • 競争に勝つため
  • 市場に役立つ
  • 政府が機能不全である時代をむしろ歓迎する

ここにある「新自由主義的」な考えはそっくりそのまま「自己啓発」にはまる人が抱く価値観そのものではないでしょうか。

 

 

少し前にフリーエージェント社会の到来を描く書籍が人気を博しましたが、あのような書籍に書かれていたことはここの文脈でいうと「色々な制度は崩壊を迎えるがそれを歓迎しようではないか」というものでした。

 

どれほど自由ですばらしい世界の到来が待っているかということが繰り返し述べられたあれらの書籍に感化された人も多かったことでしょう。

具体的には下記のような本ですね。

 

自己啓発の危険性

このような自己啓発を後押しする「新自由主義」(ネオコン)の考えのどこが危険なのかに話を移しましょう。

一言で言えば、生きる道が「現状への適応」しかなくなることです。現状の環境自体を変えようという発想は消滅するのです。

 

この行動プログラムが忠実に履行されていることは重要だ。というのも、・・低社会のポスト資本主義社会を支えるのは、個人の適応行為だけであり、それによって社会の全体構造に広がる空隙が埋められなければならないからである。

『資本主義はどう終わるのか』ヴォルフガング・シュトレーク(2017)河出書房新社

 

ここで書かれていることは、自己啓発にはまる人はが制度という社会をかたどるものが次々に破壊されているということに対して、それをどうするでもなくただただ適応しようとだけするということです。

 

 

最近は「保守」という思想的立場をとる少なくない人が、これまでの伝統的な制度を守ろうということを述べるのではなく、崩壊していくのは避けられないのだからそういった世の中に適応しようと諭す立場が多く見られます。

 

 

どうりで今の「自己啓発」に勤しみ努力をする人は、制度が崩壊し無秩序になる世界で「まずは自分がどう生き延びるか」「相手を蹴落としてでもどう生き残るか」ばかりを考える訳です。

 

現状を追認することが果たして「保守」であり、「常識的」であると言えるのでしょうか。

 

自己啓発にはまる人が学ぶべきこと

最後に僭越ながら自己啓発にはまる人が学ぶべきことについて書かせていただきます。

 

それは、「現状に適応すること」が考えとして「正解」だと決めてしまわないことです。

そう思わせているのは他でもない「自己啓発」な訳ですが、あなたが今自己啓発に駆り立てられているのであれば、それはある社会の特定の価値観でしかないものを真理として受け取っているに過ぎないのです。

 

ハンナ・アーレントという人が現代人は砂漠にいるが、その砂漠の辛さを克服するために砂漠にどう住むかという思考しかできなくなっていると述べました。本当は砂漠を緑豊かにするという方法もあるはずなのにも関わらずです。

 

真の自己啓発とは崩壊し無秩序となる環境へ適応することではなく、人間同士が住みよい環境を再構築することではないでしょうか。

 

 

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