- 新卒一括採用が日本経済停滞の要因
- 新卒一括採用ではなく、全面的に過年度採用に移行すべき
- 新卒一括採用のせいで不要な人材をクビにできない
我が国の伝統であり、特色であるものの一つに「新卒一括採用」というものがあります。
終身雇用とセットで徒弟制の一番下から入ると言ったイメージを作り出している雇用制度のことですね。
今でこそ批判的に見られていますが、高度経済成長期を支えたとも言われ長らく評価されてきました。
アメリカの企業が真似をして取り入れたとも言われています。
しかしながら現在は、新卒一括採用さえやめればよくなるとばかりに多くの識者が語っています。
個性を潰すや人材の流動性を損ねている等々諸悪の根源と考えている人も多いでしょう。
ただし、この新卒一括採用を安易に否定するというのはあまり賢明ではありません。
なぜなら、かつては良かったからこそ今も含めてやっているからです。
というのも会社は営利団体ですから「停滞」を引き起こすならばとっくにやめればいい話です。
なお、グーグルやアマゾンといった外資系企業でさえ日本では新卒一括採用をやっています。
ということはこれは日本においてはするメリットが大いにあると考えるしかありません。
そういう意味で、新卒一括採用を批判するにあたってはそれをする企業の「理」を押さえる必要があるのです。
そこで、本日は新卒一括採用はなぜなくならないのかというテーマについて書かせていただきました。
新卒一括採用がなくならない理由
まず、新卒一括採用がなくならない理由について見ていきましょう。
これは色々な角度からみて「コストが安くつく」からです。
ここでいう「コスト」というのは色々な角度があるのですが、ここではあえて一つに焦点を当てて話します。
日本の新卒一括採用がなくならない理由は次の例でお分りいただけると思います。
一つの会社で「営業部長」がやめるという現象が起きた時のことをイメージして見てください。
その時どのようにして問題に対処するでしょうか。おそらく二つのパターンがあるでしょう。
- 今の課長を一人部長に引き上げる(そして空いた課長のポストには係長を一人引き上げる。)
- 中途採用で営業部長を採用する
海外はどうかはともかくとしてほとんどの日本企業は前者の選択肢を取ろうとするのではないでしょうか。
ここに日本型雇用の本質があるのです。
日本企業の多くでは空いたポストにはさらに下から引き上げるということを繰り返し最終的に「一つの平社員の席」を採用できればいい状態にするのです。
なぜこれをするかといえば結構メリットがたくさんありますが大きく2つからいえます。
まず外部から平社員を一人採用するというのは間違いなく部長級を一人採用するより簡単です。そしてコストも安い。
次に、外部からとってきた場合、実際はどうかはともかくとして活躍するかの不確実性が非常に高いですが、内部から引き上げた場合、見知った人間ですし過去の会社での勤務状況も分りますからパフォーマンスを想定しやすいというのがあります。
もちろん、日本においても中途採用はありますので、0か100かでとらえないでください。
しかし、傾向の問題として、日本が新卒一括採用にこだわるのはこういったメリットがあるのです。
「新卒一括採用なんていらない。全部中途採用でいい。」といってる人は一言で言えば「現場がわかってない」のです。
ちなみに小池和男氏によれば新卒一括採用はアメリカなどでも普通に行われており、特にないと思われてるようなゴールドマンサックスのような多国籍企業ほど優秀な大学の学生にツバつけするのが慣行となっています。
この辺りは『日本企業はなぜ強みを捨てるのか』を参照ください。
新卒一括採用は負を生み出してるという指摘について
なお、今や諸悪の根源とされる新卒一括採用は「世の中に負を生み出しているのか」について興味深いデータがあるのでご紹介します。
下記はOECDの従業員の平均勤続年数を表したものになります。(p123)
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2018/documents/Databook2018.pdf
データの切り方が日米とその他の国で違うもののいくつかのことが読み取れます。
まず、「日本はアメリカと比べると1年以内に辞める人の比率は圧倒的に少ない」ということです。そして、「20年以上の勤続者という数値もアメリカより格段に高い」ということが言えます。一応グラフにして見ました。
上記データより作成
「一年以内に辞める人の少なさ」はアメリカだけでなく、他の国を加えて比較しても顕著です。
データの都合上全て並べて比較するために先ほどのグラフを「平均勤続年数1年未満の率」「平均勤続年数1年以上10年未満」「平均勤続年数10年」に分けて見ました。
上記データより作成
日本は一年以内にやめる人が圧倒的に少ないというのがお分りいただけるでしょう。
これは悪いことでしょうか?
一年以内に辞める人が多いアメリカのような国を「人材の流動性が高く素晴らしい国だ」と解釈されるでしょうか。
私個人の見解としてはこのデータは日本の新卒一括採用が想像以上に良いものであると感じさせるものでした。
なぜなら、ごく例外的な場合を除いて、企業が最初の一年で採用者に対してコストを回収できるとは思えないからです。これは社長さんや採用をしている方であればうなずいていただけるでしょう。
幹部クラスでさえもが最初は色々と教えたりしなくてはならずすぐに利益を生み出す人間になることは稀です。
そんな中、会社が期待するのは「その教えた投資が時間が経ってちゃんとリターンとして帰ってくること」です。
それゆえに、ある程度の勤続の長さはむしろポジティブなものであるはずなのです。
アメリカやデンマーク、オーストリアなどは2割が一年以内にやめていますが、これはミスマッチが相当あると思われ、企業にとっても労働者にとっても負があると言わざるを得ません。
なお蛇足ですが、日本人叩きでおなじみの大前研一さんという人がいます。
彼は日本人が会社にしがみついていることをよく批判しているのですが、実はそのイメージとは正反対の興味深い発言をしているのです。
──就職は3回まで、ですか? つまり4社目以降は、給料が下がると?4社目から、給料は下がり始めます。国際的な一般論として言えば、2社目で(給料が)うんと上がって、我慢して、そこですごい成果を出して、3社目でドーンとトップに就く。こういう話ですよ。──では、NewsPicks読者も3社目で頂点を目指すようなキャリア作りを意識したほうがいいですか?そんなの当たり前です。2社目で我慢することが大事で、そうじゃないと、転職グセがつくじゃない。そうなると3社目、4社目で自分の値段がどんどん落ちます。まれに4社目で上がる人もいるけども、3社目でピークを狙わないと駄目です。1社目はとんでもない会社に入っちゃったな、でいいんです。1社目は踏み台に使って、2社目でがーっと実績を出しで、3社目でポンといい所に行くと。こういう感じですね。
大前氏がこのようなことを述べているのは意外ではないでしょうか。
四社以上になると年収が下がるからよくないと言っているのです。転職はせいぜい3回が限度だと明確に述べています。
ということは仮に60歳までしか働かないと仮定しても一社当たり7年から10年ほどいなくてはならなくなります。
日本の新卒一括採用を批判する人は、ガンガン転職するような世界観をイメージする人がいます。
しかし、それはすでに述べたように問題が結構あるのです。
例えば、繰り返しになりますが先にも触れたように企業は最初の一年から数年は採用コストに対してマイナスのことがほとんどなことを上げなくてはなりません。
それゆえに、ある程度定着してくれるという期待が持てないとまともな条件で採用しようとしないのです。バイトとかならいいんですが。
そういった中でレジュメで転職回数が多い人と少ない人のどちらを取るかと言えば多少能力差があったとしても社数経験がある人を選ぶことがほとんどだと思います。
新卒一括採用はマイナーチェンジでOK
そういうわけで結論としては新卒一括採用はむしろ一年以内の負を生み出す現象を抑える非常にいい制度の可能性が高いということです。
仮に問題点があるとしてもそれをマイナーチェンジするという保守的な対応でいい可能性が高いのです。
一年以内離職は先にも述べたように会社も労働者も双方にとってマイナスのことがほとんどです。
その指数が一番低い日本はむしろ雇用慣行に関しては「先進国」なのです。
シリコンバレーだか西海岸だかわかりませんが、そういうものに取り憑かれて既存の秩序や伝統を否定的にしか見れない人は極めて危うい考えであるということはいうまでもありません。