2018年の暮れですが非常に大きなニュースがありました。
TPPの発効ですね。12月30日に関係各国と共に宣言がなされました。
さて、このTPPについてはこれまで非常に楽観的な報道をメディアの多数が行ってきたためそのやばい側面があまり認知されていません。
それどころかここ最近に至っては、年明けということもあってかTPPの情報を扱う事すら避けている印象です。
そこで、TPPが発効されたのを機に改めて何がやばいのかをなるべく平易に書かせていただきました。
TPPに対する短絡的すぎる理解と議論について
さて、TPPと聞いてあなたはどういうものだと認識されているでしょうか。
おそらく下記の報道のような「加盟国との貿易を促進する(ために関税を引き下げる)協定」という認識が強いのではないでしょうか。
アメリカの離脱後に、日本など11カ国で合意したTPP(環太平洋経済連携協定)が30日、発効した。
TPPは、関税の撤廃・引き下げや、サービス・投資の自由化を域内で進める協定。
アメリカが離脱したあと、11カ国により署名が行われ、国内手続きを終えた日本など6カ国で先行して30日、発効した。
日本に輸入される牛肉は、38.5%だった関税が段階的に引き下げられ、発効から16年目に9%になるほか、豚肉は、価格の高い肉にかけられていた4.3%の関税が、10年目に撤廃される。
参加11カ国は、閣僚級の「TPP委員会」の初会合を1月19日に東京都内で開き、協定の運用や新規参加を希望する国の扱いについて議論する
『TPP“米国抜きで”発効 牛肉関税引き下げなど』FNN Prime 2018年12月30日
確かにこの側面はあるのですが、議論として非常にやばい部分があるのです。
ネットやテレビを見ていると賛成する方も反対する方も7−8割型関税の議論しかしていないためTPPがそういうものだという認知が広まってしまうのは無理もないのですが、TPPは単なる関税の高低を決める協定ではないのです。
例えば、TPP推進派はこういうことを言っているでしょう。
- 牛肉やチーズなどが安く手に入る。消費者としてはメリットが大きい
- 工業製品の輸出が加速する。製造業の多い日本にとって新興国の外需を取り込む大きなチャンスだ。
- 日本の農家を甘やかしているだけではダメだ。うまくやっている農家にもっとチャンスを与えられるTPPに乗り出そう。
だからTPPは参加すべきだと。
一方で、TPP反対派は下記のような意見が多いですね。
- 製造業はすでに海外に工場があり関税引き下げの効果は薄い。
- 一方で農家は安い農産品との競争に晒され大打撃を受ける。
だからTPPは参加すべきでないと。
もちろん関税についての議論も大事です。議論してはならないとは思いません。私自身上の反対派の意見に賛同しています。
しかし、私が言いたいのはそこだけの議論でTPPの正否を決める事自体がやばいというものです。
メリットデメリットを議論する上でもっとあげるべきやばい項目があるんです。
前置きはこのくらいにしてその「あげるべき項目」についてここからは書いていきます。
問題はどちらかというと非関税障壁(関税以外の領域)と呼ばれる領域のところです。
TPPの本当にやばいところ
明治時代、ペリー来航以降、欧米列強とその圧倒的軍事力を前にして不平等条約を結ばされたことはご存知かと思います。
さて、その「不平等」の内訳ですが主に下記の2つに分類されると言われています。
- 「関税自主権の喪失」
- 「治外法権の加速」
これを小村寿太郎などの外交努力によって戦争を経て取り戻したということですね。
さて、その当時と同じような状況に身を置こうとしているのがTPPという協定です。
なぜなら、TPPとは「自由貿易協定」というラベルを借りた「関税自主権の放棄」と「治外法権の加速」だからです。
本記事の主張は、この二つのうち後者の「治外法権の加速」に着目することを強調するものとなります。
特に賛成派はあまりこちらのテーマを議論に挙げず関税の議論に持ち込み「自由貿易は経済学の常識」という趣旨の結論で諭すことが多いですからね。(竹中平蔵さんとか)
さて、TPPによる「治外法権」の加速を見ていくためにまずは「治外法権」とは何かから見ていきましょう。
治外法権というのは辞書を引くと下記のようになっています。
外国に存在する人や物が、その国の外にあるかのように扱われ、
当該外国の管轄権、とりわけ裁判権に服しない権利。 Weblio辞書より
https://www.weblio.jp/content/%E6%B2%BB%E5%A4%96%E6%B3%95%E6%A8%A9
平たく言いますと、ある条件下ではその国の法律で外国人が裁かれないというものです。
治外法権の成り立ちの趣旨としては法整備などが不十分な途上国などにおいて外国人を保護することを意図していたようです。
誤解のないように補足しますと、もちろん制限はあります。
日本でも外国人の人が逮捕されているのはいうまでもありません。
そういう意味で、治外法権の理解としては一国の法支配において特定の外国人に対して例外的に抜け穴を用意するためのものというのが適切な理解かもしれません。
実は治外法権の典型例が日本にあるのをご存知でしょうか。
それは日米地位協定や日米安保です。
日本で罪を犯した在日米軍の兵士が日本の法廷で裁けないというニュースを見たことがあるでしょう。
あれは「治外法権」を日米地位協定などで取り決めているからです。
米軍はそれ以外にも日本人だとアウトなことが多数認められています。
つまるところ、米軍に対して法の抜け穴が用意されているのです。
この日米の例を見ていただくとあることがわかります。
外国人保護を趣旨として作られた「治外法権」も協定を結ぶ国同士の力関係によっては常にどちらかが必ず得をして、一方が必ず損をするというやばいものになり得るということです。(もちろんそうでない場合もありますが。)
日米地位協定のケースで言えば日米の力関係には明確に上下があり、そのほとんどは日本にとってはデメリットしかありません。
現在は沖縄にその不利益を押し付けているため、本島の人にはあまりその不利益のリアリティがないためこの話の理解が難しいかもしれません。
ですが、沖縄県の人が訴訟を起こしてもほとんど負けているのは調べていただくとわかるでしょう。
話が随分逸れましたので、ここでTPPに戻しましょう。
今の例を通して私が言いたかったのは、TPPという枠組みに付帯される「治外法権の拡張」は結果として日本に大きな被害をもたらす可能性があるということです。
これは例えば医療の分野でやばいことが起こり得るではないかとしばしば指摘されています。
なぜかというと、現在日本国内では法律で薬の値段や医療サービスを受ける際の「価格」は国が決めているのですが、TPPが始まると外資の参入にあたり国による薬価の設定は非関税障壁と見なされる可能性があるからです。
つまり、今は公的な保険の後押しもあり低く抑えられていますが、外資メーカーなどの要望でそれが参入を間接的にTPP協定に違反しているとなり引き上げを余儀なくされる可能性があるのです。お金を持っていない人は薬が超えないなんてことになりかねないということですね。
このような例はその他の産業においても同様に起こり得ると各方面で指摘されています。
しかし、ここまでの議論は「所詮はまだ起きていないことだ」という反論があるかもしれません。
事実、そのような心配ばかりしていても仕方ないというご指摘も非常に多いです。
(そんなことをいい続けていれば何もできないというものや過去にISDなどで訴えられたことが日本についてはないなどの反論がこれに該当)
おっしゃる通り、私が言っているリスクなどは全て「まだ起きていないこと」ですし、「これからも起きないこと」かもしれません。
しかしこれについては意見がありますので最後に書かせてください。
TPPへの賛否は結局は〇〇で決まる。
(ここまで色々書いてきてなんですが)最終的にTPPを支持するかしないかは現体制を信用するかしないかに着地すると思っています。
なぜなら、反対派は多数リスクを想定し、賛成派はそんなことは起こらないと言い続けているからですね。
このような議論は神学論争の様相すら呈してきています。
どっちにも理があって例えば、反対派の言ってるリスク分析は当たるかもしれないし、当たらないかもしれません。
一方で、賛成派のいうことも想像以上に当たるかもしれない一方で、リスクが想像以上になるかもしれません。
この二項対立は、例えばTPPの交渉過程が非開示にされているということへの反論でも見られます。
賛成派は「外交交渉を進める過程で秘匿にするのは当然。他国はそれを開示して破談したことがある」といいます。
一方で、反対派は「国民主権の否定だ。何も開示できないのは国民に不利益なものがあるからだ」と述べます。
これについて私の見立てでは、現時点ではどちらも正解ではありません。(私は反対派の方に理があるという立場ですが)
結局のところ、どちらが正しいかは行政を担っている人間のこれまでとこれからの行動により決まります。
そう言った中で改めてですが、私の立場がTPPに断固反対なのは行政のこれまでを見るとメリットとデメリットを甘読みになる可能性の方が圧倒的に高いと見ているからです。
つまり、行政の人間が信用できないんです。ここ数年だけでも外交・内政で失策の連続です。
・対ロシアでは3000億円を貢いだのにプーチンからは4島とも主権はロシアにあるかのように言われていること
・米韓FTAで韓国がひどい目にあっている中で、迫られている日米FTAも国内向けには「TAG」とごまかしていること
・防衛省のPKOに関わる日報を隠蔽していたこと
・財務省が公文書の改ざんを行い土地を不当廉売していたこと
・高プロの法案提出に際してデータを捏造していたこと
裏を返すとTPPにとにかく賛成の人はテクニカルな部分で論理展開をされる方もおられますが、その前提には体制に対しての比類なき信頼が流れています。その証拠に民主党時代はTPP反対だったけど、自民党になった途端隠れキリシタンが解放されたかのごとくTPP賛成を叫ぶようになられた方が多数おります。
結局のところ体制を盲信することに「やばい」と感じなければ「TPPは日本にとってチャンスだから参加しない理由がない」という形でこのまま行くわけです。
着地点を失いつつあるのでこの辺りでおしまいにしようと思いますが、まとめると次の3点になります。
1点目は、TPPの議論においては現在賛成派と反対派についてもメリットデメリットのカテゴリーを出し切ることなく関税の上げ下げでの論争に終止してしまっていることがやばいということです。
2点目は、関税以外のリスクについての論争については非公開の部分が多いことから最終的には現体制を信頼できるかどうかに着地せざるを得ないということ。
3点目、そんな中、少なくとも私はこれまで失政や改ざん隠蔽虚偽答弁をする行政に信頼は置けないということ。
下記は自由貿易に批判的だったリストの名著です。おすすめです。