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経済

TPP11が間も無く発効されるがその内容は?

更新日:

TPP11がおそらく2018年中には発効にまで至りそうです。

政府は具体的に今年の12月30日には正式に発効になるとすでに広報していますのであとは時間の問題といったところです。

 

TPP11についてはあまりご存じない方もいるかもしれませんが、実は、我々の生活にも非常に関係する話題となります。

具体的にはTPP11を発効することで世界最大規模の自由貿易圏が誕生すると言われており、発効と国内手続きを完了した国との間で工業品や農産品の大規模な関税引き下げが実現していくのです。

日本政府は三十一日、米国を除く環太平洋連携協定(TPP)が十二月三十日に発効すると発表した。米国が保護主義を強める中、世界最大規模の自由貿易圏が誕生することになる。発効と同時に、批准(国内承認)の手続きを完了した国との間で幅広い工業品や農産品の関税が引き下げられる。

『TPP、12月30日発効 6カ国批准』 2018年10月30日 東京新聞

http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201810/CK2018103102000278.html

『農産品が安く買えるからめちゃめちゃいいじゃん!』

『自動車産業などの輸出も増えるね!』

 

 

TPPについては朝日や毎日をはじめとする現体制に批判的な論調のメディアでさえ肯定的に報道してきており、TPPはまさに全国民でコンセンサスが取れるほどのいいものだという熱気が世論を覆っています。

 

しかしながら、このTPP11は世間で見なされているほどいいものではありません。

なんとなく農産品が安く買えてラッキーといったそういう認識であるべきではありません。

 

今日は、小生なりにTPP11発効を前にしてその問題点を上げていきます。

TPP11の概要と期待される効果

ここではおさらいとしてTPP11とはなんたるかをもう少し掘り下げつつ、どういった経緯で発効に至っているのかを少しだけご紹介します。

 

TPP11という名前自体は当初12カ国で批准を目指すTPPがアメリカの離脱によって破断したため生まれた名前になります。

11か国は下記になります。

  • メキシコ
  • カナダ
  • シンガポール
  • ニュージーランド
  • 日本
  • ベトナム
  • ペルー
  • チリ
  • ブルネイ
  • マレーシア
  • オーストラリア

コンセプトは21世紀型の包括的な経済連携協定を作りましょういうもので、実は冒頭の関税だけでなく様々なルールを域内の国家間で統一しましょうというものなのです。

具体例としては政府のホームページでは下記のように書かれています。

TPPは、モノの関税だけでなく、サービス、投資の自由化を進め、さらには知的財産、電子商取引、国有企業の規律、環境など、幅広い分野で21世紀型のルールを構築するもの。

『TPPとは』内閣官房TPP等政府対策本部

http://www.cas.go.jp/jp/tpp/about/index.html

ルールを統一することで一言で言えば「円滑な経済活動を実現し、全ての国が恩恵を受けます」というのが参加各国が想定している世界観を実現しようとしているのです。

 

ただ、こういったビジョンだけでなく政府はTPP11参加による効果試算をしています。

我が国の実質GDPはTPP11が無い場合に比べて約1.5%押し上げ られると見込まれる。2016年度GDP水準で換算すると約8兆円に相当。 その際、労働供給は約0.7%(約46万人)増加すると見込まれる。

『日EU・EPA等の経済効果分析(概要)』内閣官房TPP等政府対策本部

http://www.cas.go.jp/jp/tpp/torikumi/pdf/20171221_eutpp_bunsekigaiyo.pdf

GDPも増えるのに参加しないわけがないよねという話です。

確かにGDPも増えて国民が農産品を安く買えて、輸出も増やせるならばTPP11発効に反対する理由などなさそうです。

 

しかしながら、ものはそう単純ではないというのが私の見解です。

TPP11の問題点

TPP11の問題点は挙げ始めるとキリがありませんが、あえて一つに挙げられるのは「あまりに楽観的すぎる思考」につきます。

 

例えば、「市場」という概念への盲信は凄まじいものがあります。

TPP11の世界観では「市場の失敗」というものが考慮されていません。

いわゆる「予期せぬ出来事」があり得るということが想定されていないということです。

 

世界恐慌やリーマンショックで学んだにも関わらずです。

政府の効果試算には随分と楽観的なシミュレーションが書かれています。

関税率等の外生的な変化を契機として、価格や貿易数量に変化が生じる。それを受けて、国内における各種主体の行動が変化し、①所得増が需要増、投資 増へとつながり、②貿易開放度上昇が生産性を押上げ、③実質賃金率上昇が労 働供給を拡大する、といった動きにつながる成長メカニズムを内生させている。

『日EU・EPA等の経済効果分析(概要)』内閣官房TPP等政府対策本部

http://www.cas.go.jp/jp/tpp/torikumi/pdf/20171221_eutpp_bunsekigaiyo.pdf

ここについてツッコミどころが満載なのですが、まず「①の所得増が・・・」がおかしいですね。

 

関税が下がることが所得増につながるとなぜ言えるのでしょうか。

例えば、日本で農産品を作っている農家は激しい競争にさらされむしろ所得が低下します。

この時点でつぎの2、3、4は全て破綻します。参加各国で日本より農業生産の効率が高い国が非常に多い。(オーストラリアを筆頭に)

 

 

また、関税が下がるというのと合わせてよく語られる「輸出が増える」論もうそです。

日本の輸出もほとんど増えません。

 

その理由は日本の輸出は高付加価値の自動車と半導体が輸出の1、2を占めますが、参加各国でそれらを気軽に買える国がどれほどあるのでしょうか。

参加各国のGDP比でいうと日本の数分の一の国ばかりです。

海外の富裕層に売るにしてもそれほど効果があるとは言えません。

 

また一点付け加えると、自動車や半導体は海外に工場があり海外で生産して販売ということが当たり前になっており国内で作って輸出するという考えは1960年代とかの話ではないでしょうか。

 

色々と書いているのですが、この手のシミュレーションは数字遊びでしかなくその数字でモデル化できないものを計算する上で「考慮する」のではなく、「切り捨てる」という方に走るため現実世界では全く当てにならないのです。

 

18世紀にフリードリヒ・リストが幾度となく指摘し、20世紀ではケインズ、今日においてもスティグリッツなどが指摘する中でいつになったらこの自由貿易神話から目覚めることができるのでしょうか。

この理論体系はいたるところで、互いに自由なまた無制限な取引を営む個人、私利を追求するという生得の衝動に委ねられさえすれば皆がそれで満足する個人をしか見ていない。それは明らかに諸国民の経済学の体系ではなくて、国家権力の介入がなく、戦争がなく、外国の敵対的な貿易上の措置がない場合に樹立されるはずだという、人類の私経済学の体系である。・・・・だが、一つの国民の全体がその処分できる自然諸力を活用して価値とするためには、また貧しくて無力な国民を向上させて福祉と勢力とを持たせるためには、どんな手段を使うべきであるかということは、そこからは知ることができない。それというのも学派が、政策を一切拒否することから、諸国民の特殊な状態を無視して全人類の福祉だけを心配しているためである。

『経済学の国民的体系』フリードリヒ・リスト(2014)岩波オンデマンドブックス p233

 

「自由貿易」なるものは存在しない

「自由貿易」を語る人はいわゆる「左翼」的といって差し支えないでしょう。

そんな理想郷は存在しません。

 

この発想はマルクス主義やフランス革命期のジャコバン派と同じです。

自由貿易心酔に走る人たちはマルクス主義など嘲笑の対象でしかないでしょうが、根元が全く同じなのです。

 

 

マルクス主義では資本家をぶっ倒せば理想的なプロレタリア社会ができると考えていました。

しかし現実にそれをやったらとんでもないものが生まれたわけです。

 

 

フランス革命におけるジャコバン派もそうです。

王政をぶっ壊せば市民による平和な世界ができると考えていましたが、実際には内輪もめと恐怖政治です。

 

 

自由貿易もまたそうです。

「自由」の無制限の拡張の先にあるのは『リヴァイアサン』の世界だけです。

力のあるものに最終的に食われるだけです。

 

 

そのいい例が今日本が引き込まれている日米間でのFTAです。

自由貿易協定であるFTAを結べば日本は豊かになるでしょうか。

 

そんなことはありません。

少なくともFTAをアメリカと直で結んだ韓国やNAFTAにおけるカナダやメキシコはひどい目に遭っています。

 

詳細は割愛しますが、アメリカは日本に対して完全に力関係が上ですから「自由」なる協定が結ばれるわけがありません。

 

フェルナン・ブローデルもまた指摘していることですが、市場におけるルールも価格も何もかも「均衡」ではなく、「不均衡」から生じるという見方があまりに世の中には乏しいのです。

・・・・ごく最近まで、経済学者たちは、市場経済の図式と教義の中でしか議論してこなかった。チュルゴーにとっては、流通こそが経済活動のまさしく全てだった。それよりはるか後になっても、デヴィッド・リカードは同様に、市場経済の活発ではあれ狭い流れしか見なかった。ようやく五十年来、経済学者たちは、経験から学んだおかげで、自由放任の自前の効力を擁護することはなくなったとはいえ、その神話は、今日の世論や、政治的言説から今なお消え去ってはいない。

『歴史入門』フェルナン・ブローデル(2009)中公文庫 p60

 

長々と書いていますが、TPP11の発行に際しても日本のこれまでの外交交渉における失敗を見ていてなぜ諸手を挙げて支持できることでしょうか。

 

今言える一つのことは経団連の要望と引き換えに日本の農業を切り捨てたという構図です。

「弱きを切り捨て強気を助く」というのをあからさまにやっているのです。

 

最後に一言。

こういうことを言うと、「農家を甘やかすな論」や「輸出できるほどいいものを作っている農家がいる論」が出てきます。

 

ただ、いずれも誤りです。

 

まず、農業を甘やかさないために関税を切り下げるべきというのは逆です。

農業が強烈な競争にさらされて潰れればさらに補助金漬けや生活保護対象になりかねません。

自立させるためには強くなるまで粘り強く保護するしかないのです。

徐々に保護を緩めていくという「育成」の視点が遠回りに見えて実は近道です。

 

 

 

続いて、輸出できるほどいいものを作っている論ですが、個別の例を過剰に一般化しすぎです。いわゆるネオリベ論は論理は通っているように見えますが、民主主義的ではありません。

 

日本は湿度も高いし、平野が少ないし、生産効率を上げるのには限界があります。

外国の方がそういう意味で広大な敷地を持っていたり天候に恵まれていたり害虫が少なかったりといい条件が日本に比較して多数あります。

そういう意味でマクロ的には真正面から勝負しても日本の農業は負けます。

 

加えて言うならば農業を「金儲け」の観点からしか見ないというも気にくわない話で、自分たちの生死に直結するものを外国に依存してもいいという発想はあまりに花畑です。

 

そんな戦争なんて起きないよというのが発想ですが、今トランプがトヨタの工場をアメリカに移さなければ関税を死ぬほどあげるぞと脅していることなどを見れば外国を盲目的に信頼できる理由の根拠の方があまりに薄すぎるというものです。

 

長くなりましたが、TPP11はもう発効されるのは時間の問題でどうしようもありませんが、日米FTAの方はまだ間に合うと思います。

 

こちらの方がTPP11より露骨にデメリットが出てくることでしょう。

こういった経済連携協定は表層的な「メリット」にとらわれず、デメリットやリスクに最も目を向けられて欲しいものです。

 

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