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時事

実質賃金の改ざんについてーその原因と恐るべき我が国の現在地ー

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勤労統計の記事をこのブログではたびたび扱ってきましたが、直近ではその中でも「実質賃金」という指数における改ざんについて大きく取り上げられています。

本日はこちらを取り上げたいと思います。

 

このトピックが教えてくれるのは官僚と政治家が明確な意図をもって国民をだましに来ているということです。

マンパワーの不足といった同情は不要です。

 

いよいよ日本の崩壊も最終局面に来ているといわざるを得ません。

いまだに思考停止している体制翼賛者の問題点も末尾に記載しておりますので、あなたの近くにまだ安倍政権を支持している人がいたら水をぶっかけてあげてください。

 

実質賃金改ざんの概要

すでにニュースなどでは幅広く取り上げられていますが、改めて実質賃金改ざんのニュース概要を書いていきます。

 

興味深いのはこの実質賃金については朝日新聞や東京新聞などはともかくとしていわゆる「政権寄り」とされる読売新聞までもが行政を批判的に述べる記事を公開しているところでしょうか。

読売新聞がどのように本件を報道しているか下記に抜粋いたします。

厚生労働省は23日、不適切調査問題を受けて再集計した実質賃金の伸び率を公表した。これによると、3、5~7、11の5か月で前年同月比がプラスだった。最もプラス幅が大きかったのは6月の2・0%。

 これに対し、野党の試算では、6月と11月を除き、すべて前年同月比でマイナスとなった。最もマイナス幅が大きかったのは1月で、1・4%だった。

 厚労省の調査は、前年の17年と18年で対象となる事業所を一部入れ替えている。野党は17、18年を通じて調査対象だった事業所のデータを試算に使った。

 厚労省の担当者は、野党の試算について「同じような数字が出ることが予想される」として事実上、追認した。野党は「政府が公表した伸び率は実際より高く出ている」と批判している。

『実質賃金、実は18年大半がマイナス…野党試算』 YOMIURI ONLINE 2019年1月31日

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20190130-OYT1T50118.html

何が書かれているのか。

 

それは、賃金統計の改ざんが指摘された後、23日に厚労省は再調査ということで実質賃金指数の再調査を行い伸び率を再度公表しました。

改ざんがあったということがわかったのですから当然です。ここまでは至極まっとうな対応。

 

ただ、ここからが問題なのです。野党が試算をするとそれ(改ざん指摘後に再度出してきたもの)すらデタラメだったのです。

さてここで「野党の集計なんて印象操作で信用ならん」といい始める自民党盲信者が現れるかと思いますが、そんな信用のおけない野党の試算を否定しなかったのが当の厚労省です。

 

つまるところ、厚労省は改ざん指摘後の再集計でさらにごまかしをかけたことを認めたのです。

これは控えめに見ても国民をだまそうとしていたのは間違いありません。

 

 

しかもごまかし方が仰天するものです。

改ざん前の最初のものはもちろん改ざん指摘後の再集計後も厚労省は、実質賃金の指数が2018年においてほとんどプラスで各月に推移していたと発表しました。

しかしながら、最終的には厚労省が認める野党の再集計した試算だと2018年のほとんどがマイナスだったとわかったのです。

毎月勤労統計をめぐる問題に関連して厚生労働省は三十日、二〇一八年の実質賃金が実際はマイナスになる可能性があることを認めた。これまで同年の実質賃金の伸び率は、公表済みの一~十一月分のうちプラスは五カ月(対前年同月比)あったが、専門家が実態に近づけて試算したところ、プラスはわずか一カ月だけで、通年でも実質賃金は前年より減っている見通しだ。

同日の野党合同ヒアリングで、統計問題に詳しい明石順平弁護士による試算を野党が提示。厚労省の屋敷次郎大臣官房参事官は「(厚労省が試算した場合も)同じような数字が出ると予想される」と認めた。

『実質賃金 大幅マイナス 専門家算出 厚労省認める』東京新聞 2019年1月31日

マイナスに推移する統計をプラスだと言い張るというのは異常事態です。

もう中国や北朝鮮の経済統計批判など微塵も行う立場ではありません。

 

実質賃金改ざんが起きた原因

さて、この実質賃金改ざんが起きた原因はなんなのでしょうか?

それについては、1月26日の記事で書いたものと重複します。

勤労統計の不正から見えてきたこと

 

詳細は上記の記事を見ていただければと思いますが、一言でいえば「2018年が高く見えるように統計データを改ざんした」のです。

具体的には、2018年のデータだけ標本となる企業サンプルに規模の大きい会社を増やしたのですが、その際、2017年より前については遡及改訂しなかったのです。

 

これはどういうことかというと、見かけ上は同じ「賃金指数」について経年のグラフが並ぶわけですが、その中身が全く異なるものを比較するグラフが作成されていたわけです。

 

いまいち伝わらない方のために極端な例をいいますと、2017年は近所の100名規模の中小企業10社で比べていたのに、2018年だけトヨタ、ホンダ、電通などの大手10社にサンプルを入れ替えておきながら「賃金が2017年と比較して2018年は伸びた」と言っているのです。(もちろんここまで極端ではない)

 

幸いこれによりプラス幅が大きすぎて統計全体にひづみがでてしまい実質賃金指数もおかしいのではないかということに気付くきっかけとなったわけですが実は今もこれについては訂正されていません。

ですので、現在進行形で賃金統計が発表されるたびに「うそ」が発表されているといってもいい状態が続くのです。

 

2018年の実質賃金をプラスに見せたいという誰かの意図が原因で統計が改ざんされたのです。

 

安倍信者のアクロバティック擁護

しかしながら、こんなデタラメを目にしてもいまだに擁護を続けるのが安倍信者と呼ばれる人たちでもはや「親衛隊」と呼ぶにふさわしい忠誠心を発揮しています。(私は現段階でこの改ざんが安倍首相のせいとはいっていませんが)

 

いまだに擁護を続けているのは主に3パターンありましたので、そちらについて個別に問題を指摘して終わりにします。

民主党時代から改ざんはあった

よくあるのが、民主党政権時代にも改ざんがあったことをいうことで「どっちもどっち論」に持ち込むもしくは「官僚悪玉論」に持ち込もうとするパターンです。

これは、報道を表面的にしかとらえていない典型なのですが、今回の勤労統計というのは改ざんが広範囲に及んでおり問題を混同しています。

 

私の考えでは、「2004年ごろからあったとされる改ざん」と「2018年だけ賃金が高く出る改ざん」は分けて考える必要があります。(今後さらに分かれる可能性がありますが)

 

前者は10年から20年以上にわたって厚労省が長きに渡って行ってきたもので、後者はここ数年で「2018年の賃金を高く見せたい」という誰かの意志から始まった改ざんです。

 

今実質賃金関連の報道で問題視するべきは後者の方です。

運用側が悪意を持って恣意的に改ざんしていますので、マンパワーの不足を補ってもIT化しても解決策になりません。

 

そして言わずもがなですが、後者の改ざん(2018年の賃金が高く出るように行われた改ざん)は民主党時代には起こりえません。

 

少なからずここ1-2年に「2018年が高く見えるようにくみかえよう」と考えたといわざるを得ません。

 

 

実質賃金という指数に意味がないと言い出す

さて、続いては、「実質賃金」という指数には意味がないというものですね。

これも単に議論から逃げているむちゃくちゃな理論で、実質賃金自体に意味がないならば、厚労省はなぜ改ざん指摘後も実質賃金を「高く見せようとする」必要があったのでしょうか?

全く意味がない指数なのに官僚が必至こいてごまかそうとするって不思議ですよね。

 

実質賃金については確かに短期的に増加することが必ずしもいい意味を持たないという立場を私自身以前別記事でも触れましたが、「持続的に実質賃金が下がり続けること」は「悪」だと私は考えています。

アベノミクスで話題の名目賃金と実質賃金についての考察

なぜならば、実質賃金は国民の「購買力」を表すものです。

たとえば、同じ「1万円」という通貨でも実質的な購買力が低い通貨であればうまい棒しか買えませんし、もし高ければプリウスがかえるのです。(極端な例ですが)

それゆえに実質的な購買力を示す実質賃金が持続的に伸びることは望ましい一方で、それが仮に下がり続けるのは相当まずいです。(ちなみに日本の高度成長期や産業革命期は実質購買力が増加し続けた時代です。)

 

さて、安倍政権以降はというと実質賃金が小泉政権下よりも民主党政権化よりも大幅に下がり続けた時代です。(下記記事などで推移を参照可能)

http://www.thutmosev.com/archives/73972516.html

 

安倍信者は統計の指数自体に難癖をつけていましたが、他でもない当の行政の側が実質賃金が下がり続けていたところこそ最大の泣き所だったのではないでしょうか。

 

マンバワーが足りないのに2018年だけ頑張って改ざんしていますからね笑

 

 

雇用が改善する過程で下がるのは当然

さて、最後が安倍信者にとっての最大の砦ともいえる「雇用が増えているから実質賃金が下がるのは当然」というものです。

これもデタラメの印象論だと言わせてください。

 

アベノミクスとはもはや安倍首相自体が声にすることすらなくなりましたが、信者の中ではまだまだアベノミクスは健在です。

 

その最大の論拠が「雇用」です。

雇用が良くなっているからアベノミクスは成功、民主党よりましと強気でいられるのです。

実質賃金が雇用の新規増大に伴って下がるという理論は印象論としては起こりそうな気がしますが、それこそ裏付けがなさすぎます。

 

そもそも論としてこの理論自体がどこから出てきたのか謎ですが、今の日本には少なくとも当てはまらない理論です。

私がそう主張する論拠は下記の総務省統計のp7です。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/27/27p/dl/sankou27p.pdf

 

p7では名目賃金、消費者物価指数、実質賃金が経年で推移するグラフがあります。

ここを見れば実質賃金が大幅に下がっているものの名目賃金は安倍政権誕生の平成24年〜平成25年にかけてと比べると「微増」しています。

仮に新規雇用者が増大し、低賃金の労働者が増えた関係で一時的に実質賃金が下がっている論理が正しいとすれば、それに連動して名目賃金も同様の動きを取らなければなりません。

 

しかし、全く連動していないというのがこのグラフからわかります。

 

では、本当に実質賃金が下がっている理由は何かですが、それも先のグラフからわかるのですが、消費者物価指数の上昇です。

極めて強く実質賃金の下落と消費者物価指数の上昇は連動しています。

 

 

難しく考える必要はなく、この消費者物価の上昇で実質的な通貨の購買力が奪われたのです。

なお消費者物価指数の上昇は下記の「円安」と非常にタイミングが連動しています。

http://xn--7cko4fuex60q.com/usdjpy/2007-2016-chart.html

 

要するに、安倍政権誕生後の金融緩和により、大幅な円安が進行し実質的な購買力が減退したという単純な話なのです。

ですので、実質賃金が大幅下落しているのは雇用が増えたからだというのは印象論で、円安による消費者物価指数の上昇がほとんどの要因であるのです。(くどいですが)

 

アベノミクス信者は結論ありきで相関の強さなどを完全に無視して安倍政権を擁護するので危険です。

そうはいってもエコノミストなどを名乗りながらインチキなことを言う人も最近は非常に増えました。

そんな中で我々ができることは専門家の言うことを鵜呑みにしないことです。

 

これだけです。今は政治家や役人、エコノミストに大学教授が平気で公然と嘘をつく時代なのは本件ですでに明らかになっています。

 

 

以上、色々書いてきましたが、最後に本題に少し話を戻します。

実質賃金が改ざんされたのは民主党政権崩壊後数年経ったあとから2018年1月に至るまでの数年間です。

何度でも伝えますが、10年前や20年前からあったとされる改ざんとは明確に別物です。

 

これは厚労省が自発的に勝手に改ざんしたという仮説も民主党時代からあったという仮説も絶対に成り立ちません。

「2018年の賃金を高く見せたい」という誰かの意志(おそらく政治家)が統計改ざんをもたらしたのです。

 

この件はぜひニュースなどをウォッチしていただき見逃さないようにしてみてください。

だんだん我が国はボルシェヴィキもスターリンも毛沢東もヒトラーも笑えないくらいおかしくなってきているというみたくない事実を目にするのは避けられませんが。。。

例えばロシアのボルシェヴィキー政府が社会主義国に失業はあってはならないというイデオロギー的要求を貫徹するためにとった方法は、明白な失業の事実をプロパガンダで欺いて失業者はいないと言いくるめるのではなく、プロパガンダなど全然使わずに失業給付を一切廃止してしまうという方法だった。

『全体主義の起源3』ハンナ・アーレント(2017)みすず書房 p64

 

読書会を大阪とスカイプで開催しています。

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