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おすすめできる本

ハンナ・アーレントを手に取りたい人にまずおすすめの本

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今話題の思想家といえば誰でしょうか。

 

もちろん一人に絞ることは極めて困難ではありますが、その一人にハンナ・アーレントを上げることができます。

2012年には彼女の名前をタイトルとした映画が日本でも話題になりましたし、トランプ大統領誕生以降『全体主義の起源』がアメリカで非常に再読されています。

 

ただし、彼女の文章は読みやすいかといえばそうではありません。

私は最初に手に取った代表著作は解説を読んでもよくわからなかった記憶があります。

 

 

そうはいっても彼女の著作が今日において意義深くなっているのにはいくつもの理由があると考えています。

本記事ではハンナ・アーレントに興味のある方向けにまずは手に取りたいおすすめの本を断片的にではありますがご紹介いたします。その際に合わせて理解を進める上でおすすめの著作も追記させていただきます。

 

『全体主義の起源』

まず、彼女の名を世界に轟かせたのがこちらの作品です。

 

この作品を読まずして、アーレントの思想に触れたとはいえないほどに読んでおきたいおすすめの一冊です。

「全体主義」という言葉自体を一般的にしたのはこの著作ではないかとも言われています。

 

 

さて、その中身ですが、一言でいうと全体主義という「個人が全体に従うべき」とする考えがなぜ生まれてくるのかについて書かれています。

この「全体主義」の具体例としてアーレントが分析の対象として上げるのがナチスドイツとスターリンのソ連です。

両統治は歴史的にも桁違いの人殺しが完遂されたとされ、その数は数百万にのぼりました。そのことは多くの人がご存知のことでしょう。

 

その統治のあり方を「全体主義」的統治とアーレントはカテゴライズしたわけです。

過去の専制統治と比較しても桁違いに人命を軽んずるような統治形態が容認された理由を考えることが彼女の思考のスタート地点です。

 

 

彼女は残酷な全体主義が誕生する引き金として2つのポイントをあげました。

1つは個人のアトム化です。そして、もう1つは「論理」が持つ抗しがたい強制です。

 

まず一つ目から見ていきましょう。これ(個人のアトム化)は要するに「社会において個人がバラバラの状態にある」ということを意味します。

イメージとしては社会において多くの個人が顔を突き合わせているのにそのそれぞれが交わることなく流れていくような社会を念頭においていただくといいかもしれません。

今の日本も無関係とは言えないでしょう。

 

ではこれのどこが問題なのでしょうか。

 

アーレントは『アトム化によって社会の中に居場所を失ったばかりか、常識がそれにふさわしく機能しうる枠組みをなしていた共同体的な人間関係の全領域をも失ってしまった』という形で説明します。

 

「常識」というのは、我々が生きていく中で行う価値判断の土台となるものですが、それが社会において個人が孤立化すると崩壊すると彼女は言っているのです。

 

我々はつい「常識」の存在をあまりに自明のものとしているためにその源泉がどこにあるか見逃しがちです。

 

しかし、紛れもなく社会で他者と関わりあう中でそれを見出すのであり、他者との関わり合いを実質化しうるものが破壊されれば意図も簡単に崩壊するということを述べているわけです。

 

なお、ナチスやスターリンは自らの権力基盤を強固にする上で、このような個人の価値基盤を提供しうる共同体を徹底的に破壊することに勤しんだと彼女は指摘しています。(ナチスはキリスト教などを敵視していた)

彼女はこれを「テロル」と呼んだ事は有名です。

 

ただ、ここで彼女の「テロル」という概念に引っ張られて欲しくありません。

まずもって重要なことは社会として危機が訪れる条件の一つに個々人がバラバラの状態で付置されている状態を上げることができるということです。

 

では、この常識の崩壊と「全体主義」がどう繋がるのかに話を移しましょう。

それを説明するのが二つ目の「論理」が持つ抗しがたい強制です。

 

彼女の考えを非常に簡潔に言えば、常識を失い判断の基盤を失った個人の価値基盤として入れ替わりで登場するのが「論理」の持つ強制性です。

 

仮にその「論理」が高尚で素晴らしいものであれば問題はないのですが、逆に愚かなものであった場合どうなるでしょうか。

おそらく、大衆を誤った論理に基づいて誤った行動へと導かせる状態が完成してしまうでしょう。実際、それが現実化したのが「全体主義」なのです。

 

ここで押さえるべきは、論理の中身(どういう種類のイデオロギーか)よりも「論理」自体が持つ必然性にこそ危うさがあるという点です。

実際、ヒトラーやスターリンも自らの議論を準備するにあたりこのことを意識していたであろうとアーレントは著書の中で述べています。

ヒットラーとスターリンはいつも、世間でよく使われる「Aと言った以上Bと言わなきゃならない」という言い方で彼らの議論を固めることをとりわけ好んだが、この理屈が・・・・現代人を納得させたことは疑いない。

『全体主義の起源3ー全体主義ー』ハンナ・アーレント(2017)みすず書房

 

最近は「この道しかない」というフレーズや「Aの道かBの道しかない」というフレーズが政治の場でも好まれていますが、まさにそれは全体主義を予期させる言葉と言えるでしょう。誤った二分法や限定の檻に人々を絡め取ることで多くの人を危機に導くのです。

 

 

ここでは政治という領域の文脈で述べてきましたが、このような「全体主義的な統治」は会社や学校のような小規模な組織においても起きうることです。そのように読み替えていただければ、今何と向き合うべきなのかに対する一つの答えが見えてくるでしょう。

 

 

『人間の条件』

続いておすすめの著作としてあげられる2冊目はもう一つの代表作『人間の条件』です。

こちらは人間が社会と関わるあり方を分類する中で、人間とはなんなのかについて考えた書籍だと私は考えています。

アーレントは、それを「労働」「仕事」「活動」の3つの観点から分類し説明を試みるのです。

 

ここでは個々に全て説明する紙幅はありませんので対照的な「労働」と「活動」の2つのポイントだけかいつまんでおきます。

 

 

まず、「労働」からですが、こちらはその言葉からイメージするように多くの大人が従事するものです。

 

この活動を理解するポイントは2つあります。

一つ目は当人の「したい」「したくない」とは無関係に「強いられる」という性質を持っているというものです。

理由は単純で「働かないと死ぬから」であり、それが強力な行動基盤となります。

実際、背後に何も残さないということ、努力の結果が努力を費やしたのとほとんど同じくらい早く消費されるということ、これこそ、あらゆる労働の特徴である。しかもこの努力は、その空虚さにもかかわらず、強い緊迫感から生まれ、何物にもまして強力な衝動の力に動かされている。なぜなら生命そのものがそれにかかっているからである。

『人間の条件』ハンナ・アーレント(1994)ちくま学芸文庫

ここでアーレントはどれほど空虚で耐え難く無意味なものと感じられようとも生命そのものがそれにかかっている以上、従事せざるを得ないのが労働の本質だと述べています。

 

 

続いて二つ目ですが、「労働」という活動自体はそれを始めるにあたり必ずしも他者を必要としないということをアーレントはあげます。

例えば、労働という活動力は他者の存在を必要としない。

『人間の条件』ハンナ・アーレント(1994)ちくま学芸文庫

「いや。会社に行けばみんなで働いているじゃないか」という指摘があるかもしれません。

しかし、それだと他者と同じ場に物理的に居合わせるという意味でしかありません。

 

極端な話で言えば、あなたが会社に明日行かなくて会社が何一つ回らなくなるということはないでしょうから、「労働」が他者の存在を必要とはしないというのは大げさな話ではありません。

 

他の例を挙げるならば、今目の前の作業を仕事場でするにあたりあなたは他者の存在がなければ何一つ始められないでしょうか。

おそらくそうではないでしょう。

 

 

ここで、彼女が言わんとするところは、彼女が人間の条件の一つとしてあげる「活動」と見比べる事でクリアになります。

「活動」というのは、含みはあるものの言論活動という意味で理解していただいて良いかと思います。実際、具体例として彼女は古代ギリシアのポリスをあげています。

 

この「活動」の最大の特徴が他者の存在を「必ず」必要とするという事です。(「労働」とは対照的に)

言論活動をするにあたり「他者」なしでできる人などいるかと考えていただければご理解いただけるでしょう。

もちろん不可能です。できるという人がいたらそれは「アブナイ人」です。

 

では、「活動」を通して何を我々はしようとするのでしょうか。

それについてアーレントは次のように述べています。

言論と活動は、人間が、物理的な対象としてではなく、人間として、相互に現れる様式である。

『人間の条件』ハンナ・アーレント(1994)ちくま学芸文庫

アーレントは「誕生」には二段階あると考えています。

 

第一が肉体的な誕生で、第二が社会における誕生です。一般的には一つ目を「誕生」と我々は呼ぶわけですが、アーレントはそれだけでは「人間」とは言い難いというのです。

 

つまり、我々は単に母胎から生まれるだけではなく、社会における他者との交わりを通して「生きている」というリアリティを実感することができるということを言っているのです。

 

仮に、この「他者」との交わりを失うような方向に社会が向かえばどうなるでしょうか。

おそらく、我々は生のリアリティを実感しにくくなるかもしくは動物的な欲求の充足に甘んじることを余儀なくされるのです。

 

アーレントが危惧しているのはまさにこの言論活動の領域が社会から失われていくことでした。

「共同体」と呼ばれるものが、「労働」をするためにバラバラの個人が結集することを目的とするものばかりになったり、人々をつないでいた宗教的媒介が崩壊するようになったりといくつもの兆候を彼女は捉えていました。

 

功利主義の観点で言えば「活動」は非生産的で無駄なものであるわけですが、生産性だけで世の中を作り変えると極めて恐ろしい社会になるのです。詳細は本書で見ていただければと思いますが、お気付きの方もいるようにここまでの『人間の条件』の話は『全体主義の起源』と繋がっています。

 

両作品のつながりを意識いただくとより彼女の捉えていることに魅了されることでしょう。

 

『過去と未来の間』

残りの作品については一言紹介といたします。

3つ目に取り上げるのは『過去と未来の間』です。

 

こちらはエッセー調で書かれた著作でありあまり知名度は無いもののアーレントの思想概要を理解する上では一番最初に読むということもお勧めできる著作です。

すでに触れたような功利主義のカテゴリーで価値判断をする土壌が社会で強化される近代社会についての分析は特におすすめです。

功利主義のアポリアは、手段と目的というカテゴリーの枠組みそのものにある。それは、達成された目的一切をすぐさま新しい目的の手段へと転化してしまい、それによっていわば、意味が生まれそうになるや否やその意味を破壊してしまうのである。「何の役に立つか」という功利主義の問いが一見際限なく続くうちに、言い換えれば、今日の目的がより良き明日の手段に転化してゆくという一見際限のない連鎖において、功利主義の思考によっては決して答えらえない一つの問いが最後に浮かび上がってくる。

『過去と未来の間――政治思想への8試論』ハンナ・アーレント(1994)みすず書房

 

『イェルサレムのアイヒマン』

4冊目は『イェルサレムのアイヒマン』です。

こちらは映画化された『ハンナアーレント』のモチーフとなった作品です。

 

『全体主義の起源』がナチスドイツの実相を「社会」という側から見たのに対して、本著作はアイヒマンという「個人」を通して捉えにいった作品です。アーレントの結論は、アイヒマンというのがただの上司の命令に忠実なサラリーマンの延長のような人間であり、そのような「凡庸な人」が数百万とも言われ人を殺すことを主導していたというものです。

 

なお、この結論が当時の世界においてどれほど衝撃的で受け入れがたいものであったかを考えて読むのがお勧めです。

なぜなら、ナチスドイツのユダヤ人ジェノサイドを裁くにあたり多くの国民がアイヒマンも含めたナチスの主導者たちを「悪人を絵に描いたような人物」であると考えていましたし、そうであってほしいと願っていたのです。

 

それにもかかわらず、私も含めた多くの人と変わりがないただの一般人がこのようなジェノサイドをやってのけたという彼女の見解は我々の想像力の範疇を超えていたのです。

 

 

 

『暗い時代の人々』

5冊目は『暗い時代の人々』です。

こちらは彼女と同時代に生き、彼女が強く影響を受けた人物たちへの評伝集です。

 

アーレントをより深く理解したいという欲動にかられる人には特におすすめです。

レッシング、ローザ・ルクセンブルク、ヤスパース、ヘルマン・ブロッホ、ベンヤミン、ブレヒトなどが出てきます。

 

なお、これは主観ですがこの中で単著レベルで読めてとっつきやすいのはローザ・ルクセンブルク、ヤスパース、ベンヤミンです。

 

以上5冊取り上げさせていただきました。

私自身、ハンナ・アーレントをきっかけに多くの思想哲学にのめり込んだこともありますので、今のアーレントブームというのは嬉しいものがあります。

最初はなかなか理解しずらい部分もありますが、著作を横断的に繰り返し読んでいけば、彼女の思想の今日的意義は私が説明するまでもないと思います。

 

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