- 速読術をやり始めてから一ヶ月に二十冊も読めるようになりました。
- 私はビジネス書を1日に五冊読めます。
- どうやったらもっと早く読めるようになりますか。
富、名声、力・・・この世のすべてを手に入れた男・海賊王ゴールド・ロジャー。彼の死に際に放った一言は、人々を海へかり立てた。
「オレの速読術か?欲しけりゃくれてやる。探せ!この世のすべてをそこへ置いてきた!!」
男たちはグランドラインを目指し、夢を追い続ける。世はまさに、大速読時代!!
世はまさに速読の時代と言っても良いかもしれません。
読んだ本の冊数を競い合うというのが頭のいい人のバロメーターとなりつつあるようです。
「速読術」みたいな本を早く読む方法を書いた本も売れているようでして、私みたいに月に2−3冊しか読めない人は読書界隈では「雑魚」に分類されるようです。
いつまでたらたら読んでんだよと。
そんな読書界隈の雑魚である私ですが、数年前までは冊数を競う世界にいました。
つまり、元々はいかに多くの本を読むかを考えていたわけです。
その時の経験はもちろん無駄ではありません。
ただ、今振り返って思うのは「優れた本をゆっくり読んだほうがいいよね」ということですね。
この感覚に納得のいく人と行かない人がいることは承知で申し上げますが、本当におすすめできるような良い本というのは「速読」を許さない本だと気づいた時に速読をやめちまいました笑
じっくりと、そして何度も読みたくなる。。。。
それこそが偉大な本の条件ではないかと。
今日は、そんな速読会のドロップアウトボーイである私がおすすめする「とても速読では読めない本」を紹介します。
ちなみにすべて古典で、早く読みたい人からすると「ぜーったいに読みたくなくなる本」です。
■目次
▶ハンナ・アレント
▶フリードリヒ・ニーチェ
▶シャルル・ド・モンテスキュー
▶マイケル・ポラニー
▶フリードリヒ・リスト
▶アレクシ・ド・トックビル
▶エドマンド・バーク
▶ジョンメイナード・ケインズ
▶ニッコロ・マキャベリ
▶セーレン・キルケゴール
■ハンナ・アレント
ハンナ・アレントは、私が古典書にはまるきっかけをくれた思想家でもあるために一番初めに持ってきました。
彼女のプロフィールについてはウィキペディアに預けますが個人的に彼女の著作でおすすめの古典を3冊下記にアップします。
『人間の条件』
のちに紹介する『全体主義の起源』と並んで、彼女の初期の代表作の一つです。
こちらの著書は人間の行動を「労働」「仕事」「活動」の3種類に分類し各々を分析しています。
そして、彼女が言うにはこの3つのカテゴリーの優先順位が近代以降ひっくり返ったとのこと。
「労働」に傾く近代以降の社会に警鐘を鳴らした本だと言われています。
なんとなく毎日の過ごし方に違和感をある人から手に取ってもらいたいおすすめの古典です。
ちなみに自体験をもとに話しますと、1回目読んだ時にはほとんど意味がわからないので5回くらい読み込んでくださいね笑
『全体主義の起源』
みすず書房のキャッチコピーには「生まれながらの古典」と書かれていますが、まさにそれに違わぬ名著です。
「全体主義」という言葉自体を世の中に一般的にした一冊でもあります。
全体主義というのは平たく言うと「全員が単一の方向に向かって行動をすべき」という考え方なのですが、それがナチスのユダヤ人迫害やスターリンによる大虐殺を生んだと彼女は述べています。
読み方としては、「昔話」として読むべきではありません。今の現代社会でもまさに起きていることだと思って読んでいただくと、大阪都構想だったり小池劇場といった最近の「突如現れたカリスマリーダー」に似たものを感じるとともに非常に読みやすくなる一冊になります。
3分冊あるのですが、師のヤスパースが述べたようにまずは3巻目から読むことをお勧めします。こちらが彼女の全体主義に関する理論がまとまっているものとなります。
『イェルサレムのアインヒマンー悪の陳腐さについての報告』
アインヒマンという名前をご存知でしょうか。ご存知ないかもしれませんが、ナチス時代に数十万?数百万?とも言われるユダヤ人の殺害を指揮した人と言われています。そんなアインヒマンを裁く法廷の記録を記したものです。
この本は「アインヒマンが極悪非道の人間ではない」という衝撃と自らもアインヒマンになりかねないという恐怖感を持って読むことでより真価を発揮するように思います。「悪意を持った人」が「巨悪をなす」のではなく、「悪をなすともなさないとも決められない人」がとてつもない悪をなすというアーレントの指摘は非常に示唆的です。
■フリードリヒ・ニーチェ
ニーチェというとここで挙げる10人の中では最も認知度が高いかもしれません。
最近本屋に行くとニーチェ哲学にわかりやすく触れられることを目的とした本がたくさんあります。
『超訳 ニーチェの言葉』というものがかなり流行っていましたね。
ただ、ニーチェを理解するために近道をすることはお勧めしません。
ぜひ古典を読みましょう。
個人的にニーチェの中でおすすめの2冊を下記に記します。
『善悪の彼岸』
あることが「良いこと」であるか「悪いこと」であるかを徹底的に考えた本です。
ニーチェの見解では、我々は多くの宗教や慣習、文化を土台としたところから判断しているとのこと。
ただ、その規範は我々を「奴隷」にしておくための規範ではないか?というのがニーチェの分析ですね。
良いとされていることが悪いかもしれない。
悪いとされていることが良いかもしれない。
読み方としておすすめなのはニーチェが出した結論以上にその結論を紡ぐまでの過程を楽しむことですね。
彼の思考の深さは驚きをもって感じられたらニーチェの偉大さが見える気がします。
『道徳の系譜』
基本的には『善悪の彼岸』と同じコンセプトです。
我々の行動規範となっている道徳に対する問題提起です。
2冊ともを読むことでニーチェの思想の概観は見えてくるでしょう。
■シャルル・ド・モンテスキュー
モンテスキューは社会の教科書でお馴染みです。
三権分立を唱えた人でご存知の方も多いでしょう。
もちろん代表作は『法の精神』です。
『法の精神』
ただ、モンテスキューの代表作である『法の精神』は三権分立のところが読みどころではありません。
むしろこのタイトルにある「法」という言葉に対する彼の説明が古典の名著たる所以だと私は考えています。
一般的に「法」というと「実定法」をイメージする人がほとんどですが、モンテスキューによれば制定しなかった「法」(自然法)があるとのこと。実定法もまたその「自然法」の裏付けなくして存在しえないと彼は述べます。
個々の知的存在は、その作った法を持ちうるが、しかし、作らなかった法もまた持っている。・・・実定法の存在する以前に、正義の可能的な関係は存在した。実定法が命じまたは禁ずることの他には、正なることも不正なることもないというのは、円が描かれる前には、すべての半径はひとしくなかったというのに同じである。
『法の精神』シャルル・ド・モンテスキュー(2016)中公クラシックス p9
「自然法」というと堅苦しいですが、要は「常識」です。
モンテスキューによればこの「常識」は我々の伝統文化や慣習だけでなく気候なども含めあらゆるものが影響しているとのことです。
それらは、国土の自然条件、気候の寒冷、暑熱、温暖、国土の地味、位置、大きさ、民族の生活様式、・・・と関連したものでなければならない。それらは、政体の許容しうる自由の度合い、住民の宗教、その性向、富、数、交渉、風俗、習慣と見合うものでなければならない。最後に法律は、それらの相互間の関係を持つ。法律は、それら自体の起源、立法者の意図、それが制定された基礎となる事物の秩序と関係している。法は、まさにこれらすべての観点において考察されねばならない。
『法の精神』シャルル・ド・モンテスキュー(2016)中公クラシックス p16
我々が改めて意識しようともしない「常識」が身の回りを秩序あるものとしていると彼は述べるわけですが、昨今は既存の秩序を破壊すれば前進するという安易な考えが跋扈しています。(イノベーションだとかバイアスにとらわれないとかごまかしてますが)
グローバル社会で異国との関わりが増える中にあって「我々が守るべきものとは何か」を考えながら読んでいただくことがおすすめかもしれません。
■マイケル・ポラニー
この中では、知名度が一番低いかもしれません。
ですが、ポラニー(ポランニー)は今の時代とてもおすすめの古典です。
『暗黙知の次元』
今、知識層を見てみると「マッキンゼー」の人がとても人気です。
彼らは「ロジカルシンキング」「論理的思考力」の代名詞といわれています。
一見「なるほど」と思わせるのがとても彼ら・彼女らは上手いのですが、その論理の「前提」に注意をしなければなりません。
それをポラニーは「暗黙知」と呼んでいるのですが、一見もっともらしく見える「論理」の前提を見抜けばとんでもないものであると分かることが少なくないというのを読むことを通して学ぶことができます。
私は下記の記事で大前研一という元マッキンゼーの人を批判的に書いていますが、彼の前提を紐解けばどれくらい無茶苦茶なことを言っているかがわかるというのを紹介しています。
■フリードリヒ・リスト
大学受験で政治経済などを専攻していた人であればご存知の方も多いかもしれません。
最近ではエマニュエル・トッドなどが取り上げており、脚光を浴びつつある経済思想家です。
『経済学の国民的体系』
経済学の国民的体系 (岩波オンデマンドブックス)|岩波オンデマンドブックス
アダム・スミス、カール・マルクス、セー、リカード、、、、
この中の一人くらいは名前を聞いたことがあると思います。
彼らは経済学という学問の主流的な地位を占めてきた人々で、その中にフリードリヒリストはいないんですね。
なぜ彼が経済について語りながら経済学の歴史に乗っかれなかったのかというと彼は経済学自体を批判したからなのです。
彼は『経済学の国民的体系』の中で以下のように述べているんですね。
アダム・スミスの学説は、国民的及び国際的状態に関する点では重農主義の継続に過ぎない。この学説は重農主義と同様に、国民国家の本性を無視し、政策と国家権力とをほとんどいっさい締め出し、永久平和と世界連合とを存在しているものとして前提し、国民的工業力の価値とこの力を獲得する手段とを見誤り、絶対的自由貿易を要求している。
アダム・スミスもまた、彼より前に重農主義者たちが進んだのと全く同一の道を進んで、右の根本的誤謬に陥っているが、それはつまり、彼が国際貿易の絶対的自由を理性の要求とみなして、この理念の歴史的発展を根底まで探求しなかったことによってである。
『経済学の国民的体系』フリードリヒ・リスト(2014)岩波文庫 p401
アダム・スミスを筆頭とした主流派経済学というのはそもそも前提がおかしいと彼は述べるんですね。
主流派はとにかく政治の介入をなくして自由化することが理想的であり、需給曲線で経済活動の大体に説明がつくと考えているわけです。ただ、そんな単純な理論で経済を説明できるわけがないというのがリストの見解なのです。
経済学を学ぶ主流派は洞察が浅すぎると彼は断罪します。
我々が理論体系から著者へと目を転じるならば、彼の中に見いだすものは、歴史の包括的な知識がなく、国家諸科学や国家行政への根本的洞察がなく、政治的ないし哲学的眼光がなく、単に他人から取り入れた一つの思想だけを頭に詰めて、自分にとって役に立ちうるここの例証と事実とを見つけ出してそれらを使えるように整えるために、歴史や政治や統計が商工業事情を探し回っている人物である。
『経済学の国民的体系』フリードリヒ・リスト(2014)岩波文庫 p411
歴史や文化、行政など幅広い領域に考えを巡らすことなく荒唐無稽な結論を経済学は出してしまっていると彼は述べたのです。
実はこれ、遠い昔のように見えて今の知識層にも当てはまることなのです。
多くの知識層が経済をわかりやすく説明するためにアダム・スミスだったりマルクスの理論を借りてくるのですが、「机上の空論」でしかないものを「あの有名な経済学者が言っている」という権威を借りながらねじ込んでいるのです。
もちろん正しい面や正しいケースもあるのですが、疑ってかからないと「思考停止」につながるということを学べるおすすめの本です。
■アレクシ・ド・トックビル
トックビルは世界史などをやられている方だとご存知の方も多いかもしれません。
彼の代表作は『アメリカのデモクラシー』です。
『アメリカのデモクラシー』
こちらの本はアメリカのデモクラシーについて書いた本ではありません。
トックビルは、アメリカのデモクラシー分析を通じて日本も含めた民主主義と言う形態をとる社会で起きる危険性を書いているんです。民主主義が良いこという見方が主流的な現代において絶対におすすめの古典です。
ちなみに当時20代でこの作品を書いたのですが、「これが本当の天才か」と思いながら読むのも一つの楽しみ方です。
■エドマンド・バーク
エドマンド・バークは保守思想の父とも言われており、エマニュエル・カントやここでも紹介しているハンナ・アーレント含め多くの思想家に影響を与えた人物です。
『フランス革命の省察』
彼の代表作である『フランス革命の省察』は教科書では「よかった出来事」として読み取られがちなフランス革命がデタラメなものであったと断罪しているものです。
急進的な変化は社会を壊すだけという保守の考え方は時に未来予測も可能にするということが学べ非常におすすめです。
小池劇場、橋下劇場、小泉劇場がすべて同じものであると見えてくるかもしれません。
■ジョンメイナード・ケインズ
多くの人が名前くらいは聞いたことがあるケインズです。
『雇用、利子及び貨幣の一般理論』
彼の世界的名著であるこちらの一冊ですが、ぜひ読んでおきたい古典の一冊です。
彼の偉大さはフリードリヒ・リストともかぶるところがあるのですが、既存の主流的な経済学に風穴を開けたことです。
もちろん主流派から叩かれまくって今は干されてますが笑
ただ、私の理解では経済学に「時間軸」を初めて導入した人だと考えています。
どういうことかというと有名な需給曲線ですが、時間の概念がありません。
普通経済は時間を追うごとに燃料費の変動などを受けてインフレになったりデフレになったりします。
そういったものが主流派経済学では無視されていたのですが、考慮に入れるようにした分岐点がこの一冊だったわけです。
TPPなどでは未だに上のアダムスミスの理論を盾に正当性を主張する人が多く騙されないためにも読んでおきたい本です。
■ニッコロ・マキャベリ
マキャベリというと『君主論』がお馴染みです。
最近ビジネス書でも経営に役立つ一冊としてよく取り上げられています。
ただ個人的におすすめしたいのはこちらの一冊です。
『ディスコルシ「ローマ史」論』
あまり知られてないのですが、マキャベリはこの中で「共和制」を推奨しているんですね。
『君主論』では君主制を提唱しているのですが、意外に思ってしまうわけです。
なぜその変更が起きたのか?
そこが非常に読みどころとなります。
詳細について書いてもいいのですが、ぜひ読んでいただきたいのですが、キーワードとしてプラグマティズムと呼ばれる考えが当てはまるかもしれません。この考えはあらゆる状況をよくよく見ていった場合に理論に変更を加えるというものなのですが、その柔軟な思考に感服します。
■セーレン・キルケゴール
最後の一冊です。
私も読書会をやる中で知ったのですが、キルケゴールってあまり知名度が高くないんですね笑
『死に至る病・現代の批判』
思想史において近代哲学というと「デカルトから始まった」という考えが主流的ですが、実はキルケゴールがその到来を予期していたと多くの思想家が指摘しています。
既存の秩序をどんどん破壊しながら進む「近代化」にいち早く気づき我々の人心を腐敗させていると分析するキルケゴールの哲学は今の現代においても生きています。